「「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 のご紹介 その10」岡和田晃

「「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 のご紹介 その10」岡和田晃

 ゲームブックの専門出版社であるFT書房(https://ftbooks.xyz/)の日刊メールマガジン「FT新聞」(https://ftbooks.xyz/ftshinbun)では、新たな読者と出逢い、作品の良さを別角度からも発見してもらうため、「SF Prologue Wave」との共同企画を推進しています。すでに発表された作品を、改めてピックアップし、岡和田晃の解説を添えて再提示するというものです
 今回はVol.21~25で配信された、片理誠さんと仁木稔さんの仕事をご紹介するものです。初出のリンクを辿り、再読の一助としていただけますようお願いします(以下の「はじめに」の文責はすべて岡和田によります)。
 
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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.21(「FT新聞」No.4355、2024年12月25日)

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●はじめに

 今回は「SF Prologue Wave」第2期の編集長を長らくつとめた、片理誠さんの仕事をご紹介します。

 片理誠さん、ポストヒューマンSF-RPG『エクリプス・フェイズ』のシェアード・ワールドにも、最初期から参加しており、小説集『再着装(リスリーヴ)の記憶』(アトリエサード)には、「Wet work on dry land」が収録されています。
 他には「ナイトランド・クォータリー」Vol.27掲載の「空中楼閣を“ふんわり”と引きずり下ろす」や、〈ミスティックフロー・オンライン〉シリーズ(小学館)などが、近年のお仕事では挙げられますが、片理さんの数多い作品のなかでも、とっておきの逸品をここでは紹介します。そう、王道のポストヒューマンSFです。
 恐甲(ダイノクロム)軍団の一員として戦う、知性を有した超戦車の一人称を採用し――スティーヴ・ジャクソン・ゲームズの傑作ゲーム『オーガ』に多大な影響を与えたと言われる――キース・ローマーの《BOLO》シリーズを彷彿させる作品なのです。
 初出時の解説にも書きましたが、本作を気に入った方には、『Type: STEELY タイプ・スティーリィ』(幻冬舎)をお勧めしたいと思います。暴力と狂気に満ちた怒濤のアクションが展開されていますから……。

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『エクリプス・フェイズ』シェアード・ワールド小説「決闘狂」
 片理誠

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本作はPDFファイルのみの公開となります。以下のリンク先からお読みください。

https://prologuewave.club/wp-content/uploads/2012/12/kettoukyou_hennrimakoto.pdf

初出:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/2812

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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.22(「FT新聞」No.4369、2025年1月8日)

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●はじめに

 「FT新聞」No.4355で配信した片理誠さんの『エクリプス・フェイズ』シェアード・ワールド小説「決闘狂」の非常なアクション、ポストヒューマニズムの描写はお楽しみいただけたようで、確かな手応えがありました。
 今回はまたタイプが異なる、「シーサイドホテルにて」をご紹介できればと思います。ソラリスの海、アーサー・C・クラークの都市といった古典SFのイメージを、ダフネ・デュ・モーリアの『レベッカ』を思わせる海岸の建物のモチーフをもってまとめあげる、その剛腕、安定感たるや! これぞプロ作家の仕事、と膝を打つこと請け合いです。

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オリジナル小説「シーサイドホテルにて」
 片理誠

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 黒っぽい〈海〉に向かって真っ直ぐに伸びる白い岬。その突端に建つ“それ”を彼らは「墓場」とか「モルグ(死体保管所)」と呼んで嫌い、そこへ送られることを「島流し」と呼んではばからなかった。
 実際、周囲には他に建造物と呼べるものは何もなく、ただ荒涼とした物寂しい風景が広がるばかり。見えるものと言えば砂と石と岩だけだ。〈海〉の方に目を凝らせば、遙か彼方にちょっとした歴史的遺物を見つけることもできるのだが、それとて今となってはさほど価値のある代物ではなかった。

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初出:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/9740

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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.23(「FT新聞」No.4383、2025年1月22日)

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●はじめに

 東洋をはじめとする史学の素養に基づく綿密な調査、ラテンアメリカ文学を彷彿させるスケール大きな世界文学としてのSF・ファンタジー。まさしくそれを体現する作家・仁木稔さんのファンタジー小説「鴉の右目の物語」をご紹介いたします。
 2004年に大作『グアルディア』で颯爽たるデビューを飾った仁木稔さんは、昨年2024年には「物語の川々は大海に注ぐ」が「SFマガジン」2024年6月号に掲載されましたが、その突出した質の高さは、数々の読み巧みを唸らせたものでした。
「鴉の右目の物語」は、デビュー以前の仁木稔作品で、唯一アクセス可能になっているもので、著者自身が序文で述べているように、ハイ・ファンタジーでもあります。きっと気に入っていただけるでしょう。ここから仁木稔作品を読み直すという幸福を味わってください。

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オリジナル小説「鴉の右目の物語」
 仁木稔

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 序

 著者ブログ「事実だけとは限りません」に掲載していた小品を、こうして再録していただけることとなった。デビュー作『グアルディア』(2004年)以前に執筆したもののうち唯一、現在でも人様にお見せするに足る作品である。
 デビュー前も含め、これまでに執筆したハイ・ファンタジーは本作と、「ナイトランド・クォータリー」vol.18掲載の「ガーヤト・アルハキーム」のみである。後者がマジック・パンクでSF寄りなのに対し、本作はジェイン・ヨーレン、パトリシア・A・マキリップ、タニス・リーら女性作家の初期作品、さらにはエリナー・ファージョン、ジョージ・マクドナルドにまで遡るLiterary fairy talesの系譜を意識している。(仁木稔)

「鴉の右目の物語」仁木稔

 西の森の入り口で、娘は一羽の鴉を見た。
 道に張り出した黒松の枝先に止まったその鳥は、左半身を娘の方へと向けていた。歩いてくる娘に気がついたのか、キロリと左目を動かした。
 目玉は青かった。軽い違和感をおぼえたものの、さして興味も惹かれず娘は黒松の下を通り過ぎようとした。首を捻るようにして、鴉は真正面から娘を見た。彼女は初めてぎくりとした。
 右目の在るべき場所には、その羽よりもなお黒い、虚ろな穴が開いていた。
 立ちすくんだ娘に向かって馬鹿にしたように一声鳴くと、鴉は枝を揺らして飛び去った。

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再録:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/8888

【プロフィール】
仁木稔(にき・みのる)。2004年、『グアルディア』でデビュー。2012年、「はじまりと終わりの世界樹」(のち『ミーチャ・ベリャーエフの子狐たち』所収)で第24回SFマガジン読者賞を受賞。その他の著書に『スピードグラファー』(全3巻)、『ラ・イストリア』、『ミカイールの階梯』など。「TH(トーキングヘッズ叢書)」や「現代思想」等にエッセイを寄稿。

初出:「事実だけとは限りません」
http://niqui.cocolog-nifty.com/blog/cat30567504/index.html

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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.24(「FT新聞」No4397、2025年2月5日)

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●はじめに

 「FT新聞」のNo.4383では、仁木稔さんのハイ・ファンタジー「鴉の右目の物語」を配信しました。こちらは、仁木さんのデビュー以前の作品のうち、唯一公開可能なものということで、ある意味において「原点」。そして今回お読みいただく「書痴の幸福なる死」は、2024年に「SF Prologue Wave」で発表された、いわば最新作で、編集部の絶賛を集めました。ボルヘス「バベルの図書館」や中島敦「文字禍といった「本」をテーマにした先行作からは、また違った試みがなされていますね。
 仁木稔さんの代表作は、いまのところ大作『ミカイールの階梯』(上下巻、2009年)だと思うのですが、「書痴の幸福なる死」とあわせてオススメしたいイスラーム圏の文化を扱ったファンタジーとしては、「ナイトランド・クォータリー」」Vol.18(アトリエサード、2019年)の「ガーヤト・アルハキーム」を挙げるべきかと思います。丹精込めて仕上げられた工芸品のような煌めきを放つ、仁木稔作品が読める幸せを堪能してください。

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オリジナル小説「書痴の幸福なる死」
 仁木稔

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 ──本に埋もれて死にたい。
 最初に、そう言ったのは誰だろう。実在であれ架空であれ度を越した愛書家──本の虫、書痴──が、理想の死を語る文脈で発せられる台詞である。だが考えてみてほしい。雪崩落ちてきた大量の本で生き埋めなんて、最初に失神でもしない限り、長く苦しい死に様だ。地震などでそうして亡くなった人のニュースに接することもあるが、ただただ痛ましい。
 とはいえ、”埋もれたら死にかねないほどの大量の本”に囲まれた暮らしが、愛書家にとって一つの理想なのは間違いない。部屋は狭くていい。床から天井近くまで、三方ないし四方の壁面を埋め尽くすのは、私が愛する本、本、本、本、本──紙の本ならではの、圧倒的”実体”だ。
 しかしそんな環境で大往生できたとして、気掛かりなのは遺された本たちの行方である。後を託せる家族や友人に恵まれるのは僥倖(ぎょうこう)だ。そうでないなら理想の晩年は諦めて、元気なうちに自身で納得の行く処分をすべきなのか。いや、若く健康でも明日死なないという保証はない。どうせあの世には持っていけないのだから、死後のことなどどうでもいい──そう考える人も、本を愛していないとは言えないだろう。
 ところで、自らの蔵書に埋もれて死んだ最初の愛書家は誰か。最古の記録は明確だ。今から一一五〇年余り前、より正確にはAD八六八年十二月または八六九年一月のイラク南部、ジャーヒズと呼ばれた九〇代の老人である。この通称は、アラビア語で出目を意味する。つまりそういう風貌の持ち主だった。極貧から身を起こし、長短併せて二四〇点余りの著作をものした、人類史上空前のヒットメーカーだ。
 私見だが、彼は単に記録の上で自身の蔵書に埋もれて死んだ最古の愛書家というだけでなく、実際にそうである可能性が高い。以下、この仮説を検証していきたい。

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初出:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/10693

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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.25(「FT新聞」No.4411、2025年2月19日)

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●はじめに

 「FT新聞」のNo.4397で配信した「書痴の幸福なる死」はそもそも、フィクションとノンフィクションの境界を揺るがす内容で、人によっては歴史エッセイだと勘違いした向きもあるようです。「物語」と「歴史」は同じ「HISTORIA」だというのが、デビュー作『グアルディア』のときから存在する仁木稔さんの一貫した問題意識なのでした。
 批評理論では新歴史主義批評にも通じるアプローチなのですが……。これは歴史なんて物語にすぎない、という歴史修正主義(=ホロコーストはなかった、従軍慰安婦などいなかった、などと事実を歪曲する歴史の改竄)とはまったく異なります。
 世界史の年表に載っている大文字の政治史などとは異なる手触り、つまりは「あのときその場にいたら自分はどのような風景を見、何を感じていたのだろう」、というのを実感するものとしての歴史です。優れたファンタジー小説もまた、常にそうした実在感を惹起するものとしてある点は共通します。その意味で、歴史とファンタジーの交点を日本語で書く小説家として、仁木稔さんは最良の成果を見せてくれる一人だと言えるでしょう。
 また創作とは別に、リサーチの成果をコラムにまとめ、「FT新聞」の水波流編集長も寄稿しておいでの「TH(トーキングヘッズ叢書)」(アトリエサード)で、よく発表していらっしゃいます。「TH」No.96の「シェヘラザードは何を語ったか~『千夜一夜』とそのゴシック化」など、本稿を愉しまれた方にはお薦めできます。本稿では、「SFマガジン」2024年6月号の「物語の川々は大海に注ぐ」への言及もありますが、こちらも力作ですので、未読の方はこちらも是非どうぞ。

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「書痴の幸福なる死」余談
 仁木稔

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 SF prologue waveに「書痴の幸福なる死」を掲載していただいております、仁木稔です。この作品は「歴史エッセイの体裁を取った小説」なのですが、そのことがSFPW上で明記されていないことが気に掛かっていました(もちろん、ジャンルは正しくショートショートに分類されていますが)。個人ブログでは説明していたのですが、何しろアクセス数が少ないので、改めてこの場をお借りして、上記の件を含め、本作についての余談を少々書かせていただきます。二回に分けたブログ記事を大幅に改稿、再構成して一つにまとめたものです。

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初出:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/10831