(紹介文PDFバージョン:xbasishoukai_okawadaakira)
平田真夫さんの「都市伝説X」は、山野浩一さんの「四百字のX」のなかでも、「箱の中のX」を下敷きにしているのではないかと、先だって私は書きました。
これを読んで刺激を受け、「X塔」や「同窓会X」の構造も創作的批評という形で応答できれば、面白いのではないかと思いました。そこで書いてみたのが、「X橋」です。
先回りして解説しますと……「SF Prologue Wave」の編集長・片理誠さんの指摘によれば、「同窓会X」は、シリーズで唯一、本文に「X」が出てきません。
「X」が私という存在の空虚さを象徴する記号だとすれば、それが無限に増殖していき、あたかも怪獣がごとく国家を困らせるのが「X塔」でありました。
そこで、「同窓会X」に倣って本文に「X」を登場させず、「X塔」とは異なる方向性にできないかということで、「X橋」を考えてみました。保田與重郎やゲオルク・ジンメルを引くまでもなく、橋は社会と個人とをつなぐものですから。なお、「同窓会X」で「S」が出てくるのは、フロイトの「エス=Es」を含意しているのかもしれません。存在の不安。というわけですね。
オマージュとしての出来は、平田さんの「都市伝説X」の方がはるかに上かと思いますが、「X橋」をお読みいただければ、「四百字のX」がやろうとしていたことが、よりはっきりと見えてくるのではないか。そう愚考する次第です。(岡和田晃)
(PDFバージョン:xbasi_okawadaakira)
――山野浩一氏、平田真夫氏への応答として
そぞろ歩いていたところ、噂に聞いた橋を見つけた。渡らず橋の呼称にふさわしく、大雨が降ると流されたりもしたようだ。橋の上を歩く人影は見当たらない。遠巻きには木造に見えたが、確かめてみると鉄筋で出来ていた。いや、角度によっては奇妙な光を放ち、未知の金属のように見えなくもない。飛び跳ねてみると、吊り橋のようにグニャグニャと揺れた。端から歩いてみたところ、ふと意識が薄れ、気づけば何時間も経っていた。図書館で由緒を調べてみたが、どこにも記録はなく、名前一つ付いていない。台風がやってきた。避難警報が出ていたが、無視して外に出る。あの橋が見えた。増量を重ねた川の水が橋を呑み込む。次の瞬間、何もなかったかのように橋は元通りとなっていた。なるほど、私はすべてを悟った。ここは異次元で、橋は境界の役目を果たしていたのではなかったか。そして触媒を得たいま、橋は束の間、安定している。
――私は人柱に選ばれたのである。