(紹介文PDFバージョン:xtoushoukai_okawadaakira)
好評〈山野浩一未収録小説集〉の第五回は、シリーズもの。前回掲載された「箱の中のX」に続く、「四百字のX」第二弾「X塔」です。
もっとも、原稿用紙一枚で「X」について書くというテーマを引き継いでいるだけで、作品としては独立しています。これを読んで、前作も読んでみるという読み方でも問題ないかと。
「月刊タウン」2号(アサヒ芸能出版、一九六七年二月号)が初出ですが、この号は、山野浩一さんのお手元にも残っておらず、探し出すのに苦労しました。古書店にも、創刊号はわりと出ているのですが、2号はなかなかなく、東京マガジンバンクも架蔵は1号のみ。わずかに大宅文庫で読めるのみです。
そもそも「月刊タウン」って7号までしか出ておりませんでした。当時としては、豪華な「PLAYBOY」といった具合の革新的な紙面でしたが。
増田まもるさんの説では、こうした山野浩一さんのショートショートは、J・G・バラード「下り坂カーレースにみたてたジョン・フィッツジェラルド・ケネディ暗殺事件」(『J・G・バラード短編全集4』、東京創元社、二〇一七年)のような「濃縮小説(コンデンスド・ノベル)」として読むべきではないか、ということですが、その通りだと思います。(岡和田晃)
(PDFバージョン:xtou_yamanokouiti)
奈良県橿原市の小さな山に埋れた小さな円柱の塔が発見された。鮮やかな純白の塔であるが、一体いつ何の目的で作られたものか判らない。更に判らないのはその塔を作っている素材だ。石でもなければ土でもなく、また金属でもない。奇妙なその塔は発見された日から少しずつ崩れていくのだ。政府ではとにかく重要文化財に指定してそのX塔の保護を命じた。あらゆる保護方法が試みられた。セメントやのり、合成樹脂による補強、薬品による強化、全て役に立たなかった。X塔は崩れ続け、くだけた粉は気化して跡形も残さない。考古学者、物理学者など日本中の科学者がX塔を研究した。しかしやはり何の手掛りも得られない。塔の周囲をドームで囲み、真空無重力状態の中で保護することを試みた。それでも塔は崩れ続け、遂に完全に崩壊した。その間の研究成果は全くなく、要した費用は文部省予算の三〇%を占めていた。問題は、次にX塔が発見された場合どうするかだ。
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