「サイバーカルチャートレンド前夜(5)フリーという概念が生み出した恩恵」大野典宏

サイバーカルチャートレンド前夜

第五回

大野典宏

●フリーという概念が生み出した恩恵

 最近、由緒正しい(?)UNIXという名称の権威がなくなりつつある。もともとUNIXという名前は商標であり、セロテープやポリバケツと同じくらいに普通名詞っぽくなりすぎたので一般的な名称だと勘違いされている。しかし、UNIXの元はプロプライエタリ(要はオープンでもフリーでもない)なOSであり、今でもUNIXという名称を使って良いのは「The Open Group」の定める標準を満たし、規定のロイヤリティを支払っているOSのみである。

 したがって、フリーのOSとして有名になってしまったLinuxやBSDのような互換性が限りなく近いOSに関しては、「UNIXのような何か」としか言えないのだが、今や公式のUNIXよりもLinuxを率先して使いたいという声のほうが多いのではないだろうか?

 さて、そのフリーというのも考えもので、ソースコードを公開しているからといって勝手にいじくり回された挙げ句に収集がつかなくなることすらありえてしまう。そこには何らかの条件が必要なのではないのか? という考えに至る。それを実際に行ったのがFree Software Faundarion(FSF)であり、Linuxを正式にFSFのカーネルとして使用することになった。したがって、FSFは、いわゆるLinuxカーネルを含むOS一式はGNU/Linuxと呼ぶべきなのだと主張している。このGNUとは、Gnu Not Unixの略であり、完全にフリーなUNIXと同じ挙動をするOSを作るためのプロジェクトである。このGNUを提唱したのが、後FSFを立ち上げることになるリチャード・ストールマンである。

 実際に守っている人は少ないが、敬意を表すべきなのは確かなことである。まぁ、今の時代になって直接的にしろ間接的にしろ、何らかの形でGNUの恩恵を受けていない人は少ないと思うので、フリーのプロジェクトに感謝をするのであれば少しでも寄付をしてあげてほしいとは思うのである。

 フリーソフトウェア、オープンソースソフトウェアにかんしてはGPLと、BSDというライセンスが最も有名だったのだが、今ではApacheとかMITなどのライセンスも多くなってきた。

 そのような少し混乱していた時代に書かれた本書は、当時としては正しいライセンスの理解にはとても役立った。今では類書がたくさん出ているし、Webでも記事が多いので参照してほしいのだが、「こんな文化の元に今の社会は成り立っているんだなぁ」と知ってもらえれば幸いである。

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初出:2009年1月22日

オープン・ソース・ソフトウェアを正しく理解して,正しく使うための知識

『ソフトウェアライセンスの基礎知識』

可知 豊著

ソフトバンククリエイティブ

ISBN-10: 4797347368

ISBN-13: 978-4797347364

296ページ

2,300円(税別)

2008年9月

 昨年(2008年)末,大手のCisco Systems社がGPL(GNU General Public License)に違反しているということでFSF(Free Software Foundation)から訴えられました.GPLとは,FSFが主張するソフトウェアのライセンス形式であり,ソース・コードの公開を原則として,そのコードから派生したソフトウェアについても同様のライセンス形式を適用するという特徴があります.Cisco社としては,もし敗訴しても金額的な損害は大したことないでしょうが,ユーザからの信頼というかけがえのない価値を失うことになります.

 昨今,「GPL汚染」という言葉が聞かれます.ソース・コードの中にGPLでリリースされているコードが混じってしまい,公開したくないコードまで公開しなくてはならなくなるという事態を指して「汚染」と称しているわけです.

 でも,ちょっとここで考えてみてください.「ネットで拾ってきたコードをそのまま利用する」というのって,都合が良すぎないですか.オープン・ソースとしてコードが公開されているソフトウェアでも,ライセンスという「条件」のもとで公開されているわけです.それを無視して,というか確認もせずに使ってしまって,後になってから「汚染」などというのは筋違いもいいところでしょう.公開されているということと,勝手にいじくり回して使ってもよいということは,明らかに別の話です.

 現在,ネット上にはさまざまなオープン・ソース・ソフトウェアが,これまたさまざまなライセンスのもとで公開されています.ですから,オープン・ソースのコードを利用して製品を開発したり,製品の中に組み込む場合,ソフトウェアのライセンスを確認し,その条件を理解したうえで利点と欠点を判断し,それを使用するかどうか判断しなければなりません.

 つまり,「ネットに転がっていたから使ってみた」では済まない話なのです.もし,ソース・コードを開示したくないのであれば,当然のごとくGPLでリリースされているソフトウェアは使えません.たとえどんなに便利であろうとも,それを使えば開発費が浮くことになろうとも,それは無理な話なのです.これはそういう約束のもとでリリースされ,ユーザはそれを承諾したうえで使うという決まりになっているということが前提の話なので,こんなところで駄々をこねても仕方がありません.従って,オープン・ソース・ソフトウェアを製品開発に使用する際には,ライセンスを熟読し,そこで許されている範囲内で使用しない限り,厄介なことになるということを肝に銘じておいてください.

 しかし,オープン・ソース・ソフトウェアは,すべてがすべてGPLのように「厳しい」ライセンスばかりではありません.コピーライト表示さえ改変しなければ改造・再配布も自由というライセンスもあれば,そんなことを全く制限せず「自由勝手に使ってもよい」というライセンスもあります.せっかく,世界中のプログラマが力を集結して組み上げているオープン・ソース・ソフトウェアです.ライセンスの問題を怖がっているだけではなく,積極的にライセンスのことを知ることにより,自分の目的に合ったソフトウェアを,自分の都合に合わせて利用できるかもしれません.

 また,ライセンスというのは,自分のソフトウェアに対する考え方を示すものでもあります.もし,何らかのソフトウェアを作るプロジェクトを立ち上げたとして,それをオープン・ソースとして公開する場合,自分の考えを反映させたライセンスを作っても構わないのです.同意してくれる人がいれば使ってくれるでしょうし,誰も同意しなければ使われないというだけの話です.実際,自分の考え方に同意してくれない人に勝手に使われたくはないですよね.では,これを逆に考えてみてください.「こんなライセンスには同意できない」と思ったら,それは使ってはいけないのです.「気に入らないけど使ってやる!」などというのは,単なるわがままでしかありません.

 さて,今回紹介するのは,そのライセンスについて解説した書籍です.この世にはさまざまな考え方のライセンスが混在し,組み合わせて使うような場合には,矛盾なくすべてのライセンスを遵守する形で実現しなければなりません.そのためには,ライセンスとは何なのか,ライセンスを遵守することがどれだけ重要なのか,そして主なライセンスとしてどのようなものがあるのかを網羅的に解説しています.

 ライセンスは重要です.それを理解したうえで使用することが前提なので,しっかりと理解しなければなりません.ただ,過剰にライセンスのことを警戒する必要はありません.ライセンスに同意し,そこに定められた規則に従えば何の問題もないのです.

 「GPL汚染」などという勘違いもはなはだしい言葉がなくなることを願ってやみません.