サイバーカルチャートレンド前夜
第四回
大野典宏
⚫実際に作り始める前の知識
今や「独自のOSを作ってみよう!」とか、「独自のCPUを作ってみよう!」という書籍が散見されるようになった。ソフトウェア開発というとPCで動くものだけではなく、IoTなどといった小型の組み込み用コンピューターに焦点が当たるようになったからなのかもしれない。
そもそも、CPUだって単なる命令の羅列を読み込み、その都度に実行していく有限状態機械だし、OSはプログラムを管理して都合よく動かすためのソフトウェアでしかないのである。
たとえば、本書は基本的なことしか書かれていないので、本書だけの知識でOSやCPUを設計することなどはできない。だが、基本的な仕組みを噛み砕いて教えてくれるので、「そんなに大げさに捉えるべきものでもない」ことだけはわかる。逆に、本書に書かれている程度の事を知っていないと、「どこかのカルト宗教はOSまで開発してしまった」などという勘違いも甚だしいことを堂々と書いて恥の上塗りをするだけの結果になってしまう。
すくなくともコンピューターとは何か? を理解するにあたっては、最小限でもこれくらいの事は知っていてほしいものだなぁと漠然と考えてしまう。
そうでないと、コンピューターなら何でもできるといった、全く根拠のない信仰が生まれてしまうからだ。
本書は初版の時から名著だと思っていたが、今もなお「第3版」まで改訂され、読まれ続けている。ITに少しでも興味があるのなら、ぜひとも本書を手に取ってみてほしい。
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初出:2002年1月21日
「実は知りたかった」という好奇心と隠れた願望――雑学は楽し
『プログラムはなぜ動くのか』
矢沢久雄著
日経BP出版センター 刊
ISBN:4822281019
21×15cm
304ページ
2,400円(税別)
2001年9月
失礼な話だが,たとえ職業プログラマであっても,会社から与えられた目の前にある開発ツールの使い方にだけ長け,あくまでもブラックボックスとしてパソコンに接している人は,案外と多いのかもしれない.
しかし逆に,誰にだって好奇心はある.たとえパソコンを使っているだけのユーザだとしても,「どんなふうにコンピュータは動いているんだろう?」と疑問に思う人は(決して多くはないにしろ)少なからずいるはずだ.
また,誰にだって一つや二つのコンプレックスはある.外見や学歴,能力など,いろいろと考えられるが,知識に対するコンプレックスを持っている人も多いことだろう.
ところで,話は変わるが,ソフトウェア業界に身を置き,プログラムを開発している人のすべてが,情報工学や電子工学,数学などを専門として修めてきているわけではない.専門外から業界に飛び込み,叩き上げでプログラムをガンガン書いている人も多いはずだ.そんな人たちの中には,動くプログラムを書きながらも,実は心の中でこんなことを考え,コンプレックスになってしまっている人もいるに違いない――「プログラムが動く原理をきちんと知りたい」.
本書で解説されている知識は,基本的なことばかりだが,基本がわかったからといって,すぐに応用へと結びつくわけではない.OSがいかなるものであるのかがわかることと,プログラムの作り方がわかることは,まったく別の話題だ.したがって,本書によって,「なぜプログラムが動くのか」はわかるが,本書を読んだからといってプログラマになれるというわけではない.本書に書かれているのは,ちょっとした好奇心,そしてちょっとしたコンプレックスを満たしてくれる「雑学」なのである.
したがって,本書は技術書としてではなく,雑学を仕入れて楽しむための教養本として読まれるのが正しいと思う.
何でも,本書はかなり売れているらしい.きっと,人々の「ちょっと知ってみたい」という興味とコンプレックスのツボにはまっているからだろう.