「自己顕示欲・金銭欲という罠」大野典宏

「自己顕示欲・金銭欲という罠」大野典宏
 初出は一九九五年。
 
 伝説と化したコンピューター通信黎明期における最悪のクラッカー、ケビン・ミトニックは、後の調査委より自己顕示欲や征服欲が癖になり、やめられなくなった人物だったとされる。そして、彼のクラッキングを調査していた人物に殺害予告の電話までしてしまった。
 要するに、自己顕示欲によって「俺は悪人だ」というマスクをかぶり、自分のキャラクターから抜け出せなくなってしまったのだ。彼は万能感に支配されてしまったのだろう。
 ミトニックは結局逮捕され、出獄後はセキュリティ会社を立ち上げてクラッキング防止を行っている。
 ペンゴ事件に関しては、金銭欲によって「情報を敵に販売する」というかなり重い犯罪を犯してしまった。人は欲望の前には無力なのである。
 これらの事件から何を学べるのか。いずれも欲望(自己顕示欲・征服欲・金銭欲)や「その場のノリ」だけで大変なことにすらなる。これを知ってほしい。

ハッカーは笑う
CYBERPUNK
Outlaws and Hackers on the Computer Frontier
ケイティ・ハフナー、ジョン・マルコフ 著
服部 桂 訳
NTT出版 刊
2,800円
 本書は実在するハッカー三名の評伝である。
 ハッカーについて書かれた本が面白いのは、たとえ被害者にとっては重大な問題であっても犯人や第三者にとって犯罪だという実感が持ちにくいという点にあるのではないかと思う。白状すると読んでいてヤバさや危なさを感じないのだ。また、ウィルスなど、新しくて奇妙なものに対する野次馬根性があるのも事実だ。
 本書の著者は二人ともジャーナリストである。ジャーナリストの本らしく、彼らの生い立ちから世間を騒がせることになったハッキング事件にいたるまで、そしてその後彼らがどうなっていったかを第三者的な立場から描いている。
 これまで体制側、被害者側、ハッカー側と、いろんな立場で書かれた本が出版されたが、それぞれの本で作者のスタンスに反発を感じるような部分があった。だが、本書ではあくまでも第三者的立場を貫いており、読んでいて反発を感じるような部分は比較的少なかった。また、紹介されているハッカーが、ハッカーになっていくまでの過程とハッキングにいたる動機にふれられている点は興味深い。
 本書の主役たる三人のハッカーは次の通り。
●ケビン・ミトニック
 有名な最強・最悪のハッカー。1988年にハッキングによってプログラムを盗難した罪により逮捕。有罪判決により服役。そして今年の2月、再びハッキングの罪で逮捕されたことは記憶に新しい。この時はケビンを追いつめたのが日本人の研究者だったということもあり、日本の新聞や雑誌で大きく報道されたため、ご存知の読者も多い事だろう。
●ペンゴことハンス・ヒュブナー
 数年前、ベストセラーになった「カッコウはコンピュータに卵を産む」で紹介された事件の中心的人物。ハッキングによって得た情報をKGBに売っていたとして1987年に身柄を拘束される。
●rtmことロバート・タッパン・モリス
 1988年11月2日、全米の数千にわたるコンピュータを使用不能に追い込んだネットワーム事件の張本人。ただ、この事件はもともと破壊を狙ったものではなく、プログラムのバグによって不可抗力的に大事件に発展してしまったという点で他の二件とは違う。しかし、この事件は被害としてはかつてないほど大規模なものであり、しかもロバート・モリスの父親がネットワークのセキュリティ問題の権威とされていた人物だっただけに大きなスキャンダルとして取り上げられる事になった。
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 これらのハッキング事件はどれも有名なのだが、個人的なことを言わせてもらうなら、評者が実際にリアルタイムで経験したという点でロバート・モリスのワーム事件が非常に印象深い。
 ちなみに、インターネットにあるケビン・ミトニックのホームページで、本書の筆者の一人であるジョン・マルコフがニューヨークタイムズに執筆した記事を読むことができる。URLは「http://sfpg.gcomm.com/mitnick/mitnick.htm」。ただし、こんな危ないページがまだ存続していればの話、だ。