「ベロニカさん、どうしたんですか。そわそわなさっているようですが」
「あぁ、鳥の声が気になりまして」
「さすがですね。ベロニカさんの耳の良さは。わたしがお迎えにあがった甲斐があるというものです。どなたか鳥かごを機内持ち込みされているんでしょうね。あなたに聞こえるってことはそういうことですよね」
「すみません。心を落ち着けますわ。まぁ、わたしにはどうしようもないことですけれど」
「ベロニカさんは鳥の声を理解できるんですから、驚きです。最初はまさかと思いましたよ。実際に見聞きするまではとうてい信じられなかった」
「わたしから言わせてもらうと、鳥の声が聞き分けられない方が不思議なのですが。ほら、今も」
「耳をそばだてているんですが、わたしには聞こえません。お住まいのあるビッグウッドは森に囲まれていますから、ベロニカさんは野鳥を遊び相手にして育ったわけですものね。だから、そんな特殊な能力を身に付けられたのですかね。素晴らしいことです。今回はわざわざニューヨークまでお越しいただくことになり、本当に感謝しています」
「鳥と暮らせる生活を広めてくださるのですから、私の方からお願いしたいくらいでしたわ」
「ぜひ、店に着きましたら、アドバイスをお願いします。何しろ鳥が喜ぶ店づくりを第一にと考えていますから、どういったことでもさせていただきますので、なんなりと。あぁ、どうも、気が散るようですね。鳥の声がまだするんですね。わたしにはさっぱり聞こえませんが」
「フレッドさん、すみません。鳥の脚が調子悪いようです」
「じゃ、近くに鳥かごがあるんですね。鳥が痛いと訴えているのが聞こえているわけだ。CAさんを呼びますか?」
「はい。自分で呼びますから、大丈夫です」
「聞こえた通り、お話しされた方がいいですものね」
「CAさん、お忙しいのにお呼びたてしてしまいすみません。大きな鳥の脚が傷んでいます。鳥の悲しい鳴き声が聞こえ続けていますもの。どうか、何とかしてあげてください。あぁ、それじゃわかりませんね。すみません。つまり、この飛行機、ちゃんと着陸できるでしょうか。車軸が折れちゃっているみたいなので」