「メンテおじさんUtopiaに行く」忍澤勉

「今日という今日は、珈琲ぐらい飲んでいってもらうわ」
 居酒屋の店先で女主人のバックノームは、こちらが何か悪いことでもしたかのように、腰に手を当てながらそういった。
「ね、いいでしょ」
 彼女の口調が少しやわらぐ。
 私はこの街に電力を供給している会社のメンテナンス要員で、発電所の管理と供給先の保全作業を担当している。今日も週に一度行っている<情報街>の点検日だった。ほとんどの故障や不調はネットワークで判明するのだが、目視も大切な作業だ。先ほども電線近くで感電死しているネズミを見つけて、配線被膜が僅かに齧(かじ)られていたのがわかった。この街にとってネズミがいることは幸いである。
そんなひと仕事が終わって帰り支度をしている時、女主人から声を掛けられたのだ。彼女の店では、今までもプラグや配電盤の修理、床板を剥がして漏電の確認などをしてきた。電気の供給先での仕事は基本的に無料なのだが、たまにはお礼をしたいと女主人はいう。
「ごちそうになるよ」
 私が店に入ってテーブル席に腰かけると、すでにいい香りが漂っていた。女主人は珈琲を注いだカップを私の前に置くと、椅子を寄せてきてそこに座った。
「今日もいい天気よね」
「このところずっといい天気だ。これだけ長く続くと悪い天気のことを忘れてしまう」
「確かにこれだけ雨が降らないと、雨降りの方がいい天気になってしまいそうだわ」
 近隣に溜池があるから、日照りを心配する必要はないのだが、<農耕街>はそうはいかないだろう。ただ食物の多くは<工場街>で生産されているので、餓えや飢饉は撲滅されたといってもいい。供給すべき人口も減っている。
「雨といえば、雨降りばかりで寂れてしまった<天文街>はどうなっているのかしら」
 彼女の話はいつも唐突に進路変更する。そんな時は話の行く先に注意しなくてはならない。
「<天文街>がそうなったのは何も天気のせいばかりじゃないと思うよ」
 そう話すと、女主人がほほ笑んだのを私は見逃さなかった。
「地球に残った人間たちが、宇宙に興味を失ってしまったこともあるわ。でもあそこで頑張っている人もいるし、貴重な知識とか機材なんかも残っているそうよ」
 天気の話から少し雲行きが怪しくなってきた。豪雨になるかもしれない。しかし少し興味もあったので、こう続けてみた。
「どんな機材があるんだい」
 女主人の目が輝いた。
「いろいろとあるみたい。例えばアンドロイド用の一人乗り宇宙艇とか。これは地球でも使えるから、あなたにどうかしら」
 やはり彼女の話は早い。もう本題に突入している。私は乗せられたが、乗り心地は悪くはない。
「あなたのおんぼろバイクより、よっぽど使い勝手がいいと思うわよ」
 長年愛用しているバイクの悪口を聞くのは辛いが、確かに最近ガタが来ている。彼女にはお見通しだ。 
「でも高く売れるんじゃないのかな」
「そうもいかないの。このところアンドロイドの数が減っているでしょ。でも人間が使えるようにするには、生命維持装置とやらを付けなくちゃならないけど、お金が掛かるし、何より性能がガタ落ちになるの。それにまずは本体がちゃんと動くかどうか、専門の人に見てもらう必要があるわ」
 かなり出口を塞がれた気分だ。最後に百戦錬磨の女主人バックノームはこういった。
「どう、この話、乗る?」

 彼女が話を持ち掛けたのは、私がアンドロイドだからだ。この<情報街>周辺にいるアンドロイドはたぶん私一人。そして私はメカに詳しい。まさに私は打ってつけの人材なのだ。宇宙艇がどんな状態かわからないが、エンジンが壊れていなければ、何とかなる気がする。
 私はよく人間と間違えられる。見た目は中年の白人男性で身長は180センチ。目の色はブルーで髪はブラウンだ。北アメリカ移民によくある容姿が採用されているので、<情報街>界隈では普通に目にする風体だろう。中身もいたって平凡なタイプだ。製造型番はkp823。つまり200年ほど前に生産が始まった汎用型アンドロイドで、最終的には数万体が造られている。筋力は人間の平均値の二倍半程度だ。幸いにもkp823間の共有システムがどうにか存続しているので、仕事上の情報収集に役立っている。
 私の最初の仕事は一般家庭の生活一般のケアだった。しかし彼らが宇宙に移住してからは月面での活動が多くなる。そして人間が月から完全に撤収してからは、今の仕事である発電所の管理業務と<情報街>での修理や補修作業をしている。メンテおじさんと呼ばれているのはそのせいだ。ロバート・マクミランという名前はあるが、最初の家族の娘たちにボビィといわれただけで、今では誰も知らないだろう。
「珈琲をもう一杯もらおうか」
 しかし女主人はカウンターに戻らない。
「あなたの素敵なバイクなら半日の距離だと思うわ」
 私のバイクはおんぼろではなかったようだ。
「向こうに行ったら誰を訪ねればいいのかな」
「やる気になったのね」
「ああ、興味はあるが、修理できるかどうかはわからない」
「それでいいわ。エジワースという青年に会ってみて。彼がすべてを知っているから」
「この情報も彼からなのか」
「情報源は決して公表しない。<情報街>の掟よ」
「確かにそうだ」
 居酒屋の女主人バックノームの本業は情報の売買だ。彼女のネットワークは全世界に張り巡らされていて、地球はおろか太陽系全体を覆っている。例えば店の前を通り掛かった旅人の財布の中身から、遠い街の潰れかけた映画館の入場者数、木星の赤斑の濃度や某国大統領が食した玉子焼きの味付け具合まで、もし求めれば数分で提示してくれる。この居酒屋も情報伝達の場として機能しているが、顧客が求めるほとんどの情報は、録音装置がないことを確認して、彼女の口から直接伝えられる。情報はあくまで明瞭かつ単純に受け渡す。それが彼女のやり方だった。

 さすがにバックノームだ。彼女がいったとおり私のおんぼろ改め素敵なバイクを走らせて、ちょうど12時間で<天文街>に着いた。修理道具や材料を満載していたので速度は出せなかったが、それも計算に入れたのかもしれない。彼女がそんな到着時間を知らせてくれたのか、エジワースと彼の奥さんのセドナが、巨大な天球儀のモニュメントがある<天文街>の入口で私を出迎えてくれた。
「ようこそ、マクミランさん」
 そういってエジワースとセドナは握手を求めてきた。名前を呼ばれるのは半世紀ぶりだ。
「ボビィでいいよ。なんならメンテおじさんでも」
 手の温かさが心地いい。しかしセドナの肌はエジワースと少し違う気がした。
「早速ですが、ご案内します」
 二人はゆっくりと緩やかな坂道を昇っていく。私はバイクのエンジンを切って押しながら彼らについていく。眼下に大きな川が見えた。上流は霧に隠れている。陽射しは弱く、建物の色が淡い。
「美しい街だね」
 そんな言葉が出た。
「いつもこんな天気なので、天文には向きません」
 確かに<天文街>という名にはふさわしくない。霧の中にいくつかの塔が見えた。かつてのロケット発射台だろう。
 エジワースが振り向いていった。
「バックノームさんから聞いています。この辺りで随一の技術者だとか」
 彼女は風呂敷を広げるのが好きだ。
「誰もドライバーやニッパーを握らないだけだよ」
「いや、僕はいつも握っていますよ」
 エジワースは天体望遠鏡を修理しているとか。中には私が月の裏側で管理し、最後は回収した望遠鏡があるかもしれない。
「どうして望遠鏡を整備しているのかな。地上からは天体を観ても限界があるだろうに」
 意地の悪い質問をしてしまった。
「僕は光そのものが好きなんですよ」
 その光こそこの街に必要なものなのかもしれない。
「着きました。ここです」
 そこは広いガレージのようだった。エジワースが跳ね上げ式の扉を開けて、照明のスイッチを押す。チカチカと点滅を繰り返して蛍光灯が付き、数十のカセグレン式やニュートン式望遠鏡の鏡筒の白さに挟まれるように、くすんだ赤の宇宙艇があった。
 そのフォルムには既視感があった。月面で活動していた頃、6体から10体程度のアンドロイドが乗車できる宇宙艇に似ているのだ。格納庫にあるのは一人乗りで、その分スリムで小型化されている。このモデルを月面では見ていない。
「プロトタイプです。造られたのは一機だけで、<天文街>の研究所で製作され、簡単な飛行テストは行いましたが、街から出たことはありません。赤い色は開発者の好みなのでしょう」
 噴射した形跡がノズルにはあるがボディは輝いている。操縦席を覗き込むと計器類も磨かれている。エジワースの管理が行き届いているのだろう。
「記録によると最後に飛行したのは20年前で、以降の駆動系や電装系の確認は行われていません」
 この宇宙艇は洪水で水没の危機が迫った倉庫から、エジワースたちが救出してきたのだという。小型ゆえに二、三人の力でも搬出できたが、他のいくつかの機体や機器は今でもそこに沈んでいるとエジワースは話す。
「私が潜って見てこようか」
「いえ、小型潜水機で探りましたが、錆がひどい上に水流の圧力で壊れていてスクラップの状態でした」
 私の冗談にエジワースは真面目に答えてくれた。どちらがアンドロイドかわからないが、よくあることだ。
「大型の宇宙船は博物館に残されているが、こういった周辺機だと残す意義もないのかな」
 すると悲しそうな顔でエジワースはいう。
「予算も関心も底をついたのでしょうね」
「しかし、だからこそ、こうしたことができるわけだ」
 私はそういってボンネットを開けた。そこにはかつての人間の好奇心、冒険心、思惑と迷い、そして渇望が凝縮されていた。
「とてもいい。工夫が随所に施され軽量化が徹底されている。しかも一定の余裕、つまり遊びがある。だが高額な素材の使用も厭(いと)わない。これは若い叡智の塊だな」
 何世紀も前、私のバイクの祖先を造っていた会社も、突然技術の集合体のような高速移動機器を造り、世界中で評判になったと聞く。ただ速く走るだけで何の利便性もない機械だったそうだ。そんなエートスがこの小型艇にも感じられた。思ったことをそのままエジワースに伝えると、今度はうれし涙さえ流しそうな表情になった。言葉に似合わない心情の持主なのだろう。 
「ここまで運んできて、よかったです」
 エジワースはそういってセドナと微笑みあった。
「直せますか」
 セドナが嬉しさと不安が混じる不思議な顔でいう。
「もちろん、動くと思う。直すというよりもメンテナンスだね。まさに私の仕事だ。よくこの状態を保持したものだよ。ただしこの小型艇は生命維持装置がないので、人間が乗るとしても高高度の飛行は無理だね。地球の引力を離脱するには推進力が不十分で、帰還時の再突入に耐えられるホディではない。だから宇宙に行くことはできないな」
 セドナの顔が曇っていく。
「月には行けないのですね」
「無理だね。月面での活動のために試作されたものだから、地球の引力から脱出する力や大気圏に再突入する装備がない。月には母船に載せて運ぶつもりだったのだろう。アンドロイドが臨機応変に広範囲で活動するためにね。でも結局、人間は必要としなかったわけだ」
 セドナを慰めるようにエジワースがいう。
「予想されたことだけど、何か方法があるはずだ」
 私は意外な展開に戸惑ってしまう。
「どういうことか話してくれないか」
 するとエジワースを遮ってセドナが話し始めた。
「セイラという<妖精>はご存知ですか」
 私は頷いた。一度だけ<情報街>で見掛けたが、博物館の星間探査船スリツアンを奪って、月に行ったことで有名だ。
「セイラと友達のジェンが彼女の通信を傍受したところ、探査船が故障してしまったようなのです」
 セドナの暗い表情の意味がこれでわかった。この小型艇で私が月に行くことを望んでいたのだろう。
「状況はどうなのかな」
「通信が断続的で詳しくはわかりません。ただ深刻な問題である可能性が高いのに、セイラはなぜか楽天的に対処しているみたいなんです」
「とにかく自分では直せない故障なんだね」
「そのようです。セイラは私たちの恩人なので助けたいのですが、人に頼るという考えがあまりないから……。私、人間と<妖精>の間に生まれたので、両方の気持ちがわかるんです」
 セドナの最後の言葉は涙声だった。彼女の最初の印象が違っていたのには理由があったのだ。
「わかった。ジェンという人に新しい情報がないか聞いてくれないか。私は今晩中にこの小型艇を点検して、何か別の方策がないか考えてみるよ」
「はい、でも、もう夜なのでお休みになられたら」
 セドナの気遣いが嬉しい。
「ありがとう。アンドロイドに睡眠は必要ないのさ。年に何回か充電はするけどね」
「ではお願いしていいですか。こちらにも道具や材料は一通り揃っています。私たちの家はすぐ上ですから、何か問題があれば呼んでください」
「大丈夫だと思う。よく寝てもらって、明日解決策を持ち寄ろう」
 私の言葉に促され、二人は自分たちの家へ帰っていった。一人残された私は目の前の小型艇を眺めた。こんなに美しい機械を見るのは初めてかもしれない。少し暗い赤のホディに格納庫の蛍光灯がいくつも映り込んでいる。まるで昨日誰かがここに乗り捨てたみたいだ。小さなレバーを回すと風防の留め金が外れた。私はシートに腰かけて、操縦桿を握ってみた。するとkp823のネットワーク機能が反応した。私と同型機種のアンドロイドがこれを操縦したことがあるという。プロトタイプ製作時のテストパイロットだったのだろう。私は彼の記憶データをダウンロードして、お礼の言葉を返した。
 もらったデータと小型艇の現状を重ね合わせ、不具合箇所を探し出す。エンジンシールドの脆弱、配線カバーの露出、表示ランプの切れ、通信周波数の再設定、シートのやれ、数ヵ所のベアリングの不調、燃料タンクのリークなど軽微なものばかりだ。それらの修理を朝方までに終えて、タンクに燃料の水を少し入れた。そして格納庫からゆっくりと押し出して、太陽電池パネルを陽の光に晒す。光は弱いが水素と酸素をゆっくりと作り出していく。子供の科学実験にもある電気分解だ。少し時間が掛る。
 昔、太陽が出ると朝露が消えていくことに気づいた男が、それを容器に入れて腰に巻き、月に行こうとした物語があった。書いたのはシラノ・ド・ベルジュラックだ。そして実際に月に人間を送り込んだロケットの2、3段目の燃料は水素と酸素だった。人の考えることはあまり変わっていないのかもしれない。もし私が操縦することになったら、この小型艇をシラノと名付けることにしょう。

 森の鳥たちが騒ぎ出す。二十八夜近くの月が陽の光に溶けていく。自分がかつてあそこにいたことを、他人のことのように思い出す。もうそこには誰もいない。<妖精>を除いては。バッテリーランプが赤く点滅している。充電が始まっているようだ。小型艇を開発当時のスペックにすることはできる。しかし別の性能を付加させるのは難しい。開発者はこの機械に贅肉を一片たりとも付け加えていない。一体のアンドロイドと僅かな荷物が積載できるだけで、装備を追加することは不可能だ。
「どうやらエジワースたちの期待には応えられそうにない」
 私は陽を浴びて輝く小型艇を眺めながら、複雑な気持ちになっていた。
 その時、かつてのロケット発射台近くから轟音が響いてきた。垂直離着陸機の音に似ているがもっと激しい。音の方向を見ると白い煙が舞い上がっている。騒ぎに驚いたのか、エジワースとセドナも坂道を降りてきた。
「ボビィ、驚かすつもりはなかったのだけれど……」
 どうやら驚いたのは私だけらしい。
「昨夜、バックノームさんと相談したんです……」
 セドナがそういった。彼女もあの女主人とは懇意なのか。しかし轟音で聞き取れない。彼女の言葉をエジワースが引き継いだ。
「彼女が解決策を思いついたんです……」
 たまげた解決策もあったものだ。そもそもこれはいったい何なのだ。
「とにかく行きましょう」
 エジワースとセドナが煙の方へ歩き始めたので、ついていくことにした。平たい場所に沸き立つ煙の隙間から、横倒しになったミサイルらしきものが見えてきた。あれはかなり昔のアトラス型大陸間弾道ミサイルではないか。
「不発弾か。しかし壊れていない。どうしてだ。何が起こったんだ」
 私一人が慌てているがエジワースたちは冷静だった。
「ボビィさん、大丈夫です」
 周囲の煙が消えていくと、胴体から4本の脚が伸びているのが見えた。少なくとも不時着ではないらしい。脚以外にも補助ブースターやら意味不明の装置があるが、本体そのものは古典的な大陸間弾道ミサイルだ。
「バックノームさんの解決策がこれなんです」
 エジワースがそういうと、また爆音が聞こえてきた。今度は回転翼の音、かなり重量級のヘリコプターに聴こえる。やがて音源の黒い塊が空に現れたかと思うと、あっという間に目の前に着陸した。ドアが開き、ヘリコプターと同じ真っ黒な服を着た男が降りてくる。満面の笑みをたたえて。
「ボビィ、初めてお目に掛かる。ジャックだ。噂はバックノームから聞いている」
 ジャックという男が私に握手を求めてきた。つまり彼といっしょに何かをやるというわけだ。悪い予感しかしない。
「私はただ彼女から宇宙艇の修理を頼まれただけだ」
「彼女がただ宇宙艇の修理を頼むわけがないとは思わんかね」
「深くは考えていなかったが、確かにそうだ」
「話はエジワースたちから聞いただろ」
「ああ、月でセイラが困っているようだ。でも宇宙艇で行くのは無理だ」
「だから俺が来たというわけさ」
 本人の弁だとジャックは運搬業をしているという。秘匿性の高い物品を遠隔地と遣り取りするのが主な仕事だ。物品をどうやって手に入れるかは問わないことにする。その運搬のために使っているのが、かつての軍拡時代に世界中に配備されたミサイルで、それは北部アメリカにあった国が初めて地球軌道に人を打ち上げたロケットでもあった。公式には解体されたはずだが、どこかに秘蔵されていたのだろう。ただし核弾頭だけは外してあったが。ジャックはそれを譲り受けるか、あるいは強奪し、物品の運搬用に改造した上で、日々の商いに活用している。着陸用のブースターや脚、それに姿勢制御装置など、大きな改良がなされている。ジャックたちの科学力はかなりのものだ。彼はこれを大陸間弾道貨物船と名付けていた。
「少し推進力を増せば宇宙にも行けるのに」
 ジャックはにべもなかった。
「宇宙に行くことに意味はない。荷物を届ける相手も、荷物を貰う相手もいないからな」
 確かに理にかなっている。ジャックの自己紹介のようなものが終わって、話は本題になる。
「問題は宇宙艇とやらを、どうやって地球軌道に上げるかだろ。その解決策がこれだ」
 ジャックが手に持ったモバイルパネルを押すと、大陸間弾道貨物船の先端が二つに割れた。
「ちょうどいい大きさだぞ」
 悪い予感は的中したらしい。エジワースたちの姿が見えないと思ったら、宇宙艇を押して坂道を転がしてくるではないか。ジャックがそれをヘリコプターに積んできた小型クレーンで持ち上げ、いともたやすくアトラス型弾道貨物船の先端にあるフェアリングに入れてしまった。
「あらかじめ寸法を聞いていてよかったよ。ピッタリだ」
ジャックが自慢げにいう。
「ボビィさん、これがセイラのいる場所と、軌道脱出速度と角度の暫定的な数値です。後で再確認して送りますけど……」
 エジワースが一枚の紙を渡した。どうやら私が月に行くようだが、話がはや過ぎてついていけない。
「セイラをよろしくお願いします」
 セドナは私の両手を握って懇願する。しかしまだ何の説明もない。この状態から脱出する方法あるのか。ないのだろうな。しかしもしやと思いジャックに確認した。
「キミはこの船に乗らないのかい」
 答えはまたもやにべもなかった。
「乗らないよ。だって貨物船じゃないか」
 私は最低限の工具や材料を小型艇の荷室に積み込んだ。女主人から珈琲を奢られた時、こんな運命が待ち構えていると想像できただろうか。もちろん否だ。修理しさえすれば、この小型艇が貰えるという期待は見事に打ち砕かれたが、何か面白そうではある。そして私は小型艇の赤いホディに万能ペンで黒々とCyrano(シラノ)と書いた。
「ほら、持っていけ。これで連絡する。耳の近くにある発話回線に直接繋ぐから真空中でも交信できるぞ」
 ジャックが私に眼鏡付きのレシーバーを渡した。
「でも打ち上げは的確な時刻を選ぶのだろう」
 宇宙で活動したことはあるが、移動はすべて他人まかせだった。陸送以外に自分で操縦したことはない。
「いや、打ち上げてしまえば何とかなる。とにかく行ってみよう。ほら、乗った、乗った」
 私は数日前に着た作業服のままだった。汗は出ないが油汚れやホコリが気になる。
「まぁ、気楽に行こう」
 ジャックはそういいながらフェアリングに梯子を掛けた。用意のいいやつだ。私はレシーバーを付けて小型宇宙艇、命名シラノ号の操縦席に座る。
「感度、どうですか」
 レシーバーからエジワースの声が聴こえる。彼はヘリコプターに乗っているようだ。そこが弾道貨物船のコントロールルームなのだろう。
「よく聞こえる。しかしこんなことになるとは」
 私はマイクの向こうにいるエジワースに嘆いてみた。
「私も月に行ってみたいです」
「代るかい」
「いいえ、けっこうです。ではフェアリングを閉じます」
「了解」
 閉まるフェアリングの隙間からセドナが手を振っているのが見えた。私もそれに応えた。やがて真っ暗になり、接合音が聴こえる。突然、私は気づいた。
「帰りの大気圏再突入はどうなっているんだ。小型艇だと燃えてしまうぞ」
「考えておくよ」
 ジャックが言い放つ。たぶん何も考えてはいないのだろう。
「カウントダウン、行きます」
 エジワースの声だ。
「了解」
 了解するしかない。
「10.9.8.7・サブロケット噴射開始・4.3.2.1.0・サブロケット全噴射」
 弾道貨物船が激しく揺れる。宙に浮いたのだ。
「サブロケット傾斜開始」
 機首が上を向いた。計器を見ると高度500メートルに達している。
「メインエンジン点火」
 身体が強い力で座席に押し付けられ、後ろですさまじい爆音が轟く。すでに垂直になっているロケットが上昇を続ける。
「眼鏡の右横にスイッチがあるから押して見ろ」
 今度はジャックの声だ。いわれるままに押すと、フェイスシールドに外の風景が映し出された。<天文街>のすべてが見渡せる。開発センター、宇宙飛行士養成所、開発記念博物館、それらを分断する大河、取り囲む森と霧、やがてすべては緑と茶色に統合され、他の山々や高原と区別がつかなくなった。
「もうすぐフェアリングを開けるぞ」
 ジャックがそういう。すでに風切り音は聴こえなくなっていた。エンジン音も内部を伝わってくるだけだ。
「了解」
「了解以外にも何かいえよ」
「了解だ」
 フェアリングが開き、シラノ号が分離させた。
「地球が見える。海の青が美しい。南で台風が発生している。大陸から黄色い縞模様が流れているのが確認できた。遠い暗闇に雷がきらめいた。残念ながらオーロラは見えない」
「お客さん、よくばり過ぎだよ」
「私は客じゃない。荷物だろ」
「確かにそうだ」
 交信担当はジャックでなくエジワースにして欲しい。
「ボビィさん、先ほどの数値のまま小型宇宙艇を発進させてください。水は満タンにしておきました。ソーラーパネルを開くのを忘れないように」
 エジワースの声だ。彼の言葉は管制室の飛行主任のようで安心する。私は彼が書いた数値を記憶していた。
「じゃ、ちょっと月まで行ってくるか」
 エンジンスタートのボタンを押した。僅かに機体が揺れた。前に進んだようだ。私はやっと呼吸ができた。いや昔からしたことがないのだが、そんな心境だった。
「すみません。よろしくお願いします。ご無事のお帰りをお待ちしています」
 セドナは優しい。帰る方法はまだ決まっていないのだが。
「数値は更新されるかもしれません。ブースターの具合が一定ではないようなので」
 聡明な青年だ。このエジワースが頼りだ。
「土産を頼む。ダイヤでも転がっているだろ」
 ジャックにコメントは必要ない。
 振り向くとシードルにフェアリングが閉じたアトラス型弾道貨物船が、ゆっくりと下降していくのが映っている。いったいどこの大陸に着陸するのだろうか。

 地球の地平線に輝く薄い空気幕の上に細い月が見えてきた。やがて朔となり、到着する頃は上弦の月だろうか。しかしあそこに行くとは信じがたい。思えば当然のことながら、私は自分から何かをしたいと思ったことはない。もちろん目の前の人間に危険が迫れば助けるし、ゴミも拾う。道案内もする。人のためになることは進んで行う。人との日常会話も適宜にこなす。ただ人から頼まれたことすべてに対応するわけではない。ことの善悪の的確な判断が前提となる。そのために私の頭脳と他の個体とのネットワークが存在しているといってもいい。
 私の日常業務に関する権利関係は知らないが、私の所有者が権限を小さな電力会社に貸与したことが今の仕事の始まりだった。発電所の管理は人がほぼ関与しないので問題は生じないが、電力の供給先のメンテナンスは人との関わりが不可欠だ。しかしこんな奇想天外な頼みごとは皆無だった。でも私の頭脳はこれを善と解釈したのだ。
「でも今頃になって気づいたが、会社には48時間の休暇願しか提出していない」
 気持ちがつい声になってしまった。
「ご心配なく。もうバックノームが休暇の延長願いを出していて、すでに会社から了承されているぞ。彼女がどんな手を使ったかは知らないがね」
 ジャックの声が帰ってきた。やはり最初からバックノームの陰謀だったのか。月がどんどん大きくなっていく気がするが、まだ旅は始まったばかりだ。自分から望んだ旅ではないのだが、ひとまず楽しむしかない。

 宇宙飛行艇シラノ号は月の周回軌道に入った。しかしこの軌道上で嵐の大洋に日が当たるまで待たなくてはならない。出発を急ぐことはなかったのだ。たぶん私の気が変わるのを恐れたのだろう。裏側を何度も回る時、かつ天文台を建てる仕事をした地域を眺めたが、それらを見つけることはできなかった。そして時が来た。セイラがいる嵐の大洋に日が当たるようになったのだ。月の表側に出て地球との交信が再開されると、シラノ号を手動操縦に切り替える。ここまで軌道は微調整で済んでいた。ジャックの弾道貨物船は、意外といい船なのかもしれない。山脈を越えると嵐の大洋が広がる。人間が飛ばしたアポロという宇宙船の月着陸船が、まだどこかに残っているはずだ。その先にセイラがいる。
 補助ロケットで艇を反転させてから、メインエンジンを僅かに吹かし、速度を落とすと艇はゆっくりと月に降下していく。エジワースの資料ではセイラがいるのは、人間が使っていたコロニーの遺構だという。ほとんどのコロニーは人間が月を去る際に解体されたが、宇宙船が漂着した場合を考えて数戸だけ残されていた。その近くに彼女の船が見えてきた。彼女が博物館から奪取した星間探査船スリツアンなのだろう。それを目標にシラノ号を降ろしていく。月面が近づく。パウダー状の砂が舞い上がる。艇は嵐の大洋の浜辺に着陸した。久しぶりの月だ。白銀の地平線の上に漆黒の闇ときらめく星々。そして青い地球が浮んでいる。
「月の嵐の大洋に到着した。スリツアンのすぐ近くだ」
「ボビィさん、セイラもそばにいるはずです。彼女にとってスリツアンは大事な存在ですから」
 僅かの間の後、返信があった。しかし知らない声だ。
「ありがとう。で、どなたかな」
「あっ、失礼しました。セイラの親友のジェンです。親友というのは自称なんだけど。彼女の発する通信を傍受しています」
 若い女の子の声だった。
「傍受なんて、ストーカーみたいだね」
「みんなそう思っているけど、違うんです」
「ストーカーはみんなそういうよ。で、彼女は出てこないけど、どうしたのかな」
「わかりません。住んでいるのはエジワースに教えた通り、コロニーの遺構のはずです」
「了解だ。とにかくそこに行ってみるよ」
「お願いします」
 私は風防を開けて、月面に一歩踏み出した。
「この一歩は人類にとっては偉大な一歩だったが、アンドロイドにとっては偶然の一歩だ」
 誰もジョークを返してくれない。まあいい。足が砂にめり込むが深くはない。不思議な感覚だ。逆に重力が弱いので動作が不安定になる。すぐにデータとして取り込むと歩きやすくなった。半分岩に埋まったように造成されたコロニーは、遺構というより使っていない別荘のようだ。当然のことだが風化はまったくない。これから膨大な時を掛けて宇宙線や極小隕石が崩していくのだろう。
 扉を開いて中に入ると自動的に扉が閉まりエアロックが稼働した。そこに空気が満たされるのを待って、もう一つの扉を開けると、そこはまるでインテリア雑誌に載った部屋のようだ。奥のベッドに誰かが横たわっている。セイラだ。彼女は白いフード付きのガウンを着ている。耳を澄ますと寝息を立てている。眠れる森の美女のようだが、くちづけはなし。代わりにベッドを少し揺らすと、彼女のまぶたがゆっくり開く。いよいよ<妖精>のお目覚めだ。

「初めまして。地球から来ました。ロバートといいます。何かお困りごとはありませんか」
「えっ、どなたかしら。あっ、ジェンがいっていた方、『メンテおじさん』さんね。私はセイラ、しばらく前からここに住んでいます」
 彼女はまだ眠そうだった。
「はい、地球の何人かに頼まれて来ました。ジェンさんもその一人です」
「困りごと、そうね。星間探査船の燃料生成装置に不具合があって、備蓄電源の残量が少なくなってしまったの」
 彼女の表情に反して、あまりいい状況ではない。
「あと何日分ぐらい残っているのですか」
「ふた月分ぐらいかしら。地球時間に換算してですが」
 セイラの余裕が理解できなかった。
「失礼ながら、危機感がないようですが」
「それが問題なの。私は人間と違って困難があっても、表情や言動の変化があまりないから誤解されるのね。でも慌てても危機は回避できないわ。これは<妖精>が長い年月で培った習性みたいね」
 私が間違っていた。彼女の羽根がフードの中に畳まれていたせいか、つい人間のように対応してしまった。<妖精>と人間は見た目が似ているが、心情や価値観、なにより死生観が大きく異なっている。だから彼女の親友というジェンは、セイラのつぶやきのような通信から、状況を理解しようとしていたのだ。これこそまさに親友ではないのか。私は憶測ではなく、仕事をすればいいだけだ。
「わかった。でキミは水をどこで手に入れているのかな」
 セイラのフードが垂れて、彼女の半透明の羽根が見えた。
「水が湧き出す<水筒>が持っているの。私の唯一の奇跡ね。スリツアンのタンクに連結してあるわ」
 私は目の前に立つセイラこそ奇跡に見えた。
「奇跡に感謝するよ。とにかく星間探査船を直せるか確認しよう」
「よろしくお願いします。操作パネルは操舵席の左側で、発電装置は左舷後方外部の開閉パネルを外すとそこにあります」
 セイラは船の内部を理解しているようだ。
「周波数を同調できる送受信機はあるかな」
「これはどうかしら。船にあった通信機なのだけど」
 彼女はベッドサイドから目覚まし時計のようなモノを差し出した。たぶんこれで地球に話し掛けていたのだろうが、電力不足のせいで傍受は難しかったはずだ。
「至近距離なら大丈夫だと思う」
「遠距離はダメなの」
「努力が必要だね」
 通信を傍受していたジェンの働きに感謝しなくてはいけない。
「ジェンにお礼をいわなくちゃね」
「キミの無事がそれになるよ」

 船内に入り充電器の操作パネルを押したが反応はない。内装パネルを外してメインケーブルから各部への通電状態を確認すると、何ヵ所かショートしている。絶縁カバーが剥がれているのだ。博物館では動態保存されていたが、年代物には違いない。親友のジェンが心配していたのも理解できる。月まで飛んだのも奇跡の部類かもしれない。セイラ、キミはついている。キミの奇跡はあの水筒だけではない。
 いくつかの配線を補修して通電状態をチェックした。問題はなさそうなので、発電機の確認作業に入る。しかしまずは地球に連絡する必要がある。先ほどまでは船の具合がわからなかったから、セイラの前で話すのがはばかれたのだ。
 私はレシーバーのスイッチをオンにした。
「ジャック、聴こえるか」
「ボビィ、こちらはエジワースです。ジャックは仕事に行きました」
「そうだな。彼がじっとしているわけがない。エジワース、連絡が遅くなってすまなかった。セイラは無事だ。簡易な点検しかしていないが、スリツアンも致命的な故障ではないようだ。これから全体を見ていく」
 数秒の間が距離を感じさせる。
「よかった。セドナやジェンに知らせます。セレナはそこにいるんですか」
「いや、コロニーで待機している。私はスリツアンの中で点検中だ。船の状態がわかった上でないと、対応に困るからな」
「了解しました。でも彼女の声、聞きたいのでよろしくお願いします」
「修理が終わったら、できると思うよ」 

 修理する箇所はほぼ配線系に限られていたのは幸いだった。エンジンなどの主要箇所に致命的な問題があると、部品を運ぶのは難しく、それがあるかどうかさえわからない。スリツアンは<妖精>しか操縦できない唯一の宇宙船だからか、私には理解できない装置もある。地球時間の一昼夜を掛けて、スリツアンの船としての機能を回復させた。点検のために操舵室のスイッチ類をすべてオンにすると、満天の星々のように輝いた。
「直りましたよ」
 私はレシーバーの回線を変えてセイラに伝えた。
「メンテおじさん、ありがとう。そっちに行くわね」
                        ・
 セイラは通信機にそういってから身体を起こした。彼女は不思議な浮揚感に包まれていることに気づいた。まるで背中の羽根が風に吹かれ、月の重力が弱くなったかのようだ。目を閉じると眼下に霧に包まれた島が見えた。あれは自分が暮らしていた<妖精>の街、ミンテルハイ区。まぶたの下に少し涙が溜まっていくのがわかった。懐かしいけれど、そこに戻ることはもうない、絶対に、セイラはそう思った。
                        ・
 私は船を出てセイラを待った。コロニーのエアロックが開いて、彼女が出てきた。扉を抜ける瞬間、内部から出てくる空気に吹かれたのか、背中にある半透明の羽根が広がり、彼女の身体が浮き上がった。乳白色の山々や銀色の海を背景にしたその姿の美しさは形容しがたい。つまり私のデータには存在しない。ありていにいえば、私は彼女に見惚れてしまったということだ。そしてこの月こそ彼女にふさわしい場所だと私は証左なしのままに確信した。
「ありがとう。私の船を直していただいて、感謝しているわ」
 口は閉じたままなのに声が聞こえてくる。そもそもここは真空なのだ。聞こえるはずがない。
「テレパシーでも使っているのか。とにかくお礼はまだ早い。完全に直っているかは実際に作動させて確認しなくてはならない。何しろ<妖精>にしか操船できないそうだからね。とにかく中に入ろう」
 空気に満たされた船内には充電器が稼働する音が響いていた。ここでは二人とも口で会話できるので、どぎまぎしなくてすむ。
「これで船内の充電器やコロニーに電気が送られていることになる」
 彼女は操作パネルのスイッチをいくつか押してみた。
「すごいわ。すべてが元のように動いている。まるで魔法でも使ったかのよう」
「魔法じゃなくて科学だよ。それもかなり低レベルだ」
「どこが悪かったのかしら」
「何せ年代モノだ。悪いというよりも当然の経年劣化だね」
「船も永遠ではないのね」
「私も同様だよ。人間ほどではないが、いろいろとガタついている」
 もしかすると<妖精>は永遠なのかもしれない。私がしゃべらなかったのに、彼女が答える。
「どうかしら。わからないわ」
 やはり彼女は人の心を読むようだ。いや人以外の心もだ。船の機器が鼓動のような音を立てている。大きな生物の中にいるようだ。その音にセイラは聞き入っている。彼女は船と対話ができるとジェンがいっていた。私にとってはただの機械に過ぎないが、彼女には特別な存在なのだろう。
「この船はもう大丈夫です。ほんとうにありがとう」
「まずはよかった」
「これからどうなさるんですか」
「月世界観光というわけにもいかないから、すぐに帰ることにするよ。仕事が待っているし。ただし帰ることができればだけれど……」
「乗っていらっしゃった船では戻れないのですか」
「いろいろと技術的な、というか原理的な問題がある。地球に連絡を入れなくちゃならないが、いいかな」
「もちろんですとも」
 私はレシーバーのスイッチを押した。
「誰かいるかな」
 雑音の後に声が流れた。
「ジェンです。セドナに呼ばれて<天文街>にいます。セイラ、元気なのね」
「元気よ。ジェンがみんなに知らせてくれたのね。ほんとうにありがとう。でもまさか月まで来てくれるとは思わなかったわ」
「私は何もしていないの。エジワースやセドナ、そしてジャックと何よりバックノームさんの……」
 ここでジェンの声が途絶えた。レシーバーの故障かと思ったがそうではない。
「バックノームがどうかしたのか」
 私がそう問うとレシーバーの向こうで物音がして別の声が聞こえてきた。
「そのどうかしたバックノームよ。メンテおじさん、無事でよかったわ。ほんとは正体を明かすつもりはなかったんだけど、まあ仕方ないわね。ジェンの口に蓋は付かないわ」
「バックノーム、最初からキミの陰謀だったんだね」
 私は珈琲を飲んだあの日から怪しいと思っていた。
「ご明察ね。でも陰謀なんて失礼よ。詳しくはセイラから話があると思うけど、仕事の本番はこれからなの」
 やはり私にまだ何かやらせるつもりだ。
「つまりセドナやエジワースもグルだな」
 私は少し語気を強めていった。
「ボビィ、ごめんなさい。でもあなたが必要だったの」
「ホビィ、あなたしかできないことなんだ」
 セドナとエジワースが続けてしゃべったが、ジャックはいないようだ。他の仕事で忙しいのだろう。
「ボビィ、ごめんなさい。そういうわけなの」
 目の前のセイラがいった。またボビィだ。この名前を聞くと少し身震いするようになった。速くメンテおじさんに戻りたいと思った。
「わかった。もう驚かない。話を聞こうじゃないか」
 私たちはスリツアンとコロニーの送電線を確認しながら、コロニーに戻った。そしてセイラが語り始めた。
「まだ地球にいた時の話よ。バックノームから私が月に行くのなら、調べてほしいことがあるといわれたの。それがボビィに関わることなのよ」
「メンテおじさんでいいよ」
「わかったわ。メンテおじさんさんがバックノームの居酒屋に行った時、バッテリーの残量が少なくなったので、充電したことがあったでしょ」
「『さん』は一つだけでいいよ。で、充電したことが一回だけあったな。フル充電していたはずだったので不思議だった」
「それが彼女の陰謀の始まりだったのよ」
 セイラが私に少し顔を近づけて小さな声でいった。誰も聴いていないのに。
「充電中、メンテおじさんがフリーズ状態になるのをいいことに、データをすべてコピーしたんです」
 かなりあくどいとは知っていたが、これほどまでと思わなかった。<情報街>に戻ったら蹴りたい気分だが、アンドロイドにできないのが残念だ。
「しかしデータには鍵が掛っていたし、そもそも暗号化されていたはず……」
「そんなこと何でもありません。ジャックがモノ獲りなら彼女はコト獲りよ。しかも世界一の」
「で、私の記憶データと今回のことがどう結びつくんだい」
「メンテおじさんが月にいたときに、裏側で不思議な光を見ませんでしたか」
 確かに見た。月面を移動中、遠くに二度ほど光の粒をいくつか見かけたのだ。最初の光は他のアンドロイドも確認したが、二度目は私だけだった。二組の光の配列の違いが気になったので調べてみると、太陽系の惑星の配列と地球に接近する長楕円軌道彗星の位置を示すものだった。のちに月面天文台のメンテナンスを担当した時、望遠鏡で彗星を確認して光の位置が正しいとわかった。しかし私たちの基本的な行動指針は指示を履行するだけなので、会社に報告することはなかった。
「バックノームはそれを知って、私が地球を発つ前に、月でその光を確認するように頼んだの……」
 やはりセイラは人、いやアンドロイドの心を読むようだ。
「まだあの光はあったのかい」
「確かに二回ほど私の前で光りました。だからデータ化してエジワースに送ったんです。彼は光の専門家ですから」
「しかしどうやって。ジェンによると交信はなかなか繋がらなかったようだけど」
「エジワースの奥さんのセドナが、半分だけ<妖精>だということはご存知でしょ。私たちは絶対に必要なことについては、努力すれば通じ合えるんです」
 やはり<妖精>の世界に人智は及ばない。アンドロイドの情報は人の知識に依拠しているからなおさらだ。
「エジワースの結論はどうだったのかい」
「メンテおじさんの理解と同じです。近いうちに彗星は地球の軌道に接近しますが、予想では地球軌道の前方を通り過ぎると想定されています。でも彗星の核に変化が生じると予測は不可能だといっていました。しかも地球の引力によって彗星が分裂する確率は高いそうです」
 エジワースもただ望遠鏡を修理しているだけではなかったのだな。
「で、何のために私はここに来たのかな」
「もちろん地球を救うためです」
 彼女の言葉を疑った。私は一般人の生活を補佐する汎用アンドロイドだ。すでに代替部品は生産されていない。部品が必要な場合は破棄処分の同僚のパーツを使っている。まさに時代遅れの生活便利グッズだ。その私が地球を救うだと、いったい何ができるというのだ。
「もう一度、いってくれないか」
「メンテおじさん、あなたが地球を救うのです。あなた以外の誰でもないボビィ、あなたがです」

 私はシラノ号を走らせた。愛機は5メートルほどの高さを進む。セイラは自分で飛んでくれた。行き先は遠くない。私の月での最後の仕事場だ。人間が月から撤収する時、施設の大事なものは軌道を回る回収船に載せたが、残ったスクラップは、カタパルトから地球の大気圏に飛ばし焼却処分にしたのだ。月の環境を保護する観点からもそれが必要だった。そのカタパルト施設がまだ残っているという。
「まだ使えればいいのだけれど……」
 そういうセイラはまだすべてを話してはいない。しかしだいたいはわかる。それを利用して地球に激突するかもしれない彗星を破壊するのだろう。しかしどうやって。2キロほど先に目的地が見えてきた。10メートルぐらいの、やや傾いたトラス構造の塔が建っている。あれに人類の未来を託すとは冗談みたいな話だが、実際にこれは撤収計画の責任者が冗談で考えたついたものだった。彼はこういった。
「H・G・ウェルズの『月世界旅行』にあっただろう。カタパルトか何かで月に行く物語が。そんなのでゴミを飛ばすことができないかな」
 彼は酔っていたのだろう。『月世界旅行』で月に行くのはカタパルトではなく、引力を無くす発明だった。ジュール・ヴェルヌの方も、巨大な大砲で砲弾型の宇宙船を飛ばす話だ。カタパルトが出てくるのは映画『宇宙飛行』や『地球最後の日』だと思うが、ロケットが主な動力源で、発射台がカタパルト状になっているだけだ。しかしアンドロイドたちは何もいわない。彼の思い違いでトラブルが出ることはないと判断されたからだ。こうして主任の提案は採用され、廃材を再利用して作られた粗大ゴミ発射装置が、月面に設置された。確かに月から打ち上げるなら引力も弱く空気抵抗もない。つまりカタパルトに利便性がないわけではない。しかしそれに人類の未来を賭けるのは別の話だ。

 私たちは目的地に到着した。見上げたカタパルトは建てた時と何も変わっていない。自然と撤収計画責任者の赤ら顔が思い浮かぶ。さて、私たちは何をどうすればいいのだろうか。
「メンテおじさんはこれを操作していたのね」
「そうだよ。座標をインプットするとカタパルトが動く。見かけ上の地球の位置はほとんど変わらない。的が大きいので百発百中だった。地球の大気圏で燃え尽きる光も見ることができたよ」
「こちらが操作パネルね」
「打ち出すゴミの大きさや重さで圧力を微妙に変えるんだ。数値は座標から自動的に設定されるけどね」
 セイラはこのオンボロな機器に興味津々のようだ。
「失敗はなかったの」
「一度もない。ただ地球と彗星では軌道や的の大きさがまったく違う。地球がゆらりと浮かぶ熱気球なら、彗星は豆鉄砲だろう」
「それくらいなら大丈夫ね」
 やはり<妖精>の考え方にはついていけない。私は点検を始めることにした。
「エジワース、聴こえているかい」
「はい、聴こえています。カタパルトの状態はどうですか」
「目立った損傷はないようだ。これから細かく見ていく」
 摩擦係数を極限まで下げたレール、タワーの鋼材を硬く締めたボルト、ミクロン単位で調整した標準器、ガスで満たされブースター、精緻な圧力機器、カタパルトの装備全体に大きな問題はなかった。その一つ一つの仕組みの説明にセイラは強い関心を示して、私に多くの質問を投げ掛ける。質問は別の質問を生み、私たちの作業の方向性を探り出す手助けとなった。カタパルトの土台を補修して構造材の緩みを正した後、データを集めるために、予想される彗星の軌道に向けて、試験用のダミー球を何度か試し打ちをし、彗星の軌道とダミー球の軌道を比較検討した。やがてその誤差が許容は範囲に収まるようになっていった。
「できることはすべてやったわ」
 セイラが満足しながらも不安そうな笑顔でいった。
「そうだね。すべてやった。そして残された時間はあまりない」
 エジワースから彗星の地球への最接近は20日後だと知らされた。
「そして重大な問題が一つ残っている。何を彗星に衝突させるかだ」
「私に一つ提案があるの。実は昨晩、スリツアンから話を聞いたのだけど、ジャイロの核がいいという結論に達したわ」
「やはりキミは宇宙船と話ができるか。でも使ってしまったら、もうスリツアンは飛べなくなってしまう」
「そうかもしれないけど、そうではないかもしれない。スリツアンは大丈夫だというし、私もそう思っているわ」
 セイラもスリツアンもあまりに楽天的だ。その時、レシーバーから声が聞こえた。
「メンテおじさん、小型宇宙艇のセンターコンソールから黒い袋を出してくれ。私からの贈り物だ」
 声の主はジャックだ。袋を取り出すと中に入っていたのは大きな透明の岩石だった。手に取った瞬間、その中に月の光景や地球の姿が映し出された。その美しさに私とセイラは見入ってしまった。
「世界に名高きジュピターダイヤモンドだぞ。太陽系、いや銀河系で一番硬い鉱物だ。彗星に打ち込むのにうってつけじゃないか」
 ジャックは最初からお見通しだった。きっとバックノームから頼まれたのだろう。
「メンテおじさんに朗報もある。帰りの便を用意したんだ。また大陸間弾道貨物船を飛ばすので、軌道上でランデブーしてくれ」
 どうやら私のここでの仕事は終わったようだ。地球を救う仕事はあまりに荷が重い。早く帰って発電所と<情報街>のメンテの仕事に戻りたい。
「私に任せてください。後はジェンとエジワースとセドナが手伝ってくれるはずです。発電所と<情報街>がおじさんを待っているじゃありませんか」
 そういうセイラの顔を見ると、もう少しだけ月に留まりたいと思った。

 離陸するシラノ号をセイラが手を振って見送ってくれた。シラノ号の噴射が彼女の髪を揺らしている。
「バックノームにいわれて、月の裏側に出掛けた時、私はあの光以外にも多くのモノを見つけました。そしてここが私にとって<Utopia>であることを確信したのです」
 セイラは別れ際にそういった。彼女が見つけたモノが何であったのかはわからない。ただ彼女にとって大切なモノであり、ここに留まる理由ともなったのだろう。彼女はこうもいった。
「ここに来てほんとうによかった」
 彼女一人を残すことは不安だったが、私ができることはもうない。彗星の尾がすでに伸び出している。私は地球に戻ってエジワースたちをサポートした方がいいだろう。月の軌道をほぼ一周してからメインエンジンに点火し、シラノ号は地球帰還軌道に入った。セイラのいる嵐の大洋がどんどん小さくなっていく。しかし地球に近づくのは、何と気持ちのいいことなのだろう。数日後、シラノ号は地球周回軌道に到達した。
「ボビィ、改めメンテおじさん、お帰りなさい。エジワースです。月はどうでしたか」
「残念ながら仕事しかしていない」
「セイラは素敵な人だったでしょ」
「何とも不思議な人でもあったな」
「では半分不思議な妻のセドナが最終の飛行データを送ります。インプットしてください」
「了解した。セイラから二人の話を聞いたぞ」
「みんなセイラのおかげです」
「その話は帰ったら聞くことにしょう。前方に貨物船が見えてきた。いよいよランデブーだ」
 今度のロケットはタイタン型の大陸間弾道貨物船だった。人間が二人乗り宇宙船を打ち上げる時に使ったタイプだと思う。
「手動操縦に切り替えてください。おおよそはこちらで補助します」
 貨物船先頭部分のフェアリングが花のように開いた。小型ブースターを作動させて近づく。底部からアームが伸びてシラノ号が固定される。万事快調だ。
「こちらミッションコントロール、いやいってみたかっただけです。こちらエジワースです。すべて貨物船に任せてください。20分後に<天文街>に着陸します」
「『まな板の鯉』だな」
「なんですか、それって」
「いや、私もくわしくは知らない」
 再突入が始まった。周囲のフェアリングが大気との摩擦で赤くなっている。激しい振動がシラノ号に伝わる。レシーバーのシールドを降ろすと、外部の様子が見えた。地上がぐんぐん近づく。貨物船のサブロケットが逆噴射を始めた。<天文街>は夕方近くのようだ。緑濃い森の間を白い霧がレースのカーテンのように揺れている。短い宇宙飛行だったが、長く地球を留守にした気分だ。発電所の具合が気がかりだし、<情報街>の電線はいったい何本切れているのやら。私の日常がそこにある。そんなことを思っていたら、シラノ号が大きく揺れた。いや大陸間弾道貨物船にトラブルがあったようだ。続いて大きな衝撃があって、私は気を失った。いやフリーズした。

 エジワースはメモを残している。
 あの時、コントロールルームの操作パネルのランブはすべてブルーだった。しかし大陸間弾道貨物船の脚が一本固定されていなかったのだ。船は着陸時に大きく傾いて、地上に接触した。その衝撃で先端のフェアリングが外れ、小型宇宙艇が飛び出し、大破してしまった。搭乗していたメンテおじさんの記憶パーツにも障害が残った。ここ数日の記録が失われてしまったのだ。事故現場にいたエジワースとセドナ、ジェンとバックノームは、記憶の復旧に勤めたが叶うことはなかった。バックノームは熟慮の上、別の物語をメンテおじさんにダウンロードして、彼を再起動させた。そして相談した通りに対応することで意見は一致した。私たちはこの不慮の事故を利用することにしたのだ。セイラの詳細を外部に流出させたくなかった。バックノームも同意見だった。メンテおじさんが地球に戻れば、彼の記憶はネットワークを通じてkp823の共通認識となり、やがて人間に知られてしまうかもしれない。私たちは咄嗟にこの事故を利用することを思いついたのだった。

 私はベッドに寝かされていた。
 こんなことは初めてだ。バッテリーの充電時には事前にスリープに入ることはわかっている。しかしこのようにどこか知らないところで目覚めたことはない。しかも私の顔をバックノームが覗き込んでいるのだ。もしかするとこれは非常事態なのか。見たことがない人物が何人かいる。いや思い出した。<天文街>のエジワースと奥さんのセドナだ。そしてもう一人の少女が自己紹介してくれた。ジェンという名だという。しかし私とはどんな関係なのだろうか。
「よかった。再起動は成功……、いや目を覚ましたのね」
「いったい何かあったんだ」
 記憶がぼんやりしている。これも今までなかったことだ。
「<情報街>であなたに小型宇宙艇の話をしたことは憶えているわよね」
バックノームかそういった。
「記憶にある。修理を頼まれた。半日掛けて、素敵なバイクで<天文街>まで来たんだ」
「その通りよ。ここは<天文街>。あなたはエジワースとセドナが保管していた小型宇宙艇のメンテナンスを終えて、試験飛行に入ったの。そして墜落したのよ」
「そうなのか」
「そこにあるでしょ。あれが宇宙艇の残骸」
 バックノームの指が大破した小型艇を示した。見るからに古典的な、しかしゆえに美しいフォルムの面影があった。私から意味不明の言葉が零れる。
「シラノ……」
 これはいったい何なのだろうか。

 エジワースはメモを残している。
 彗星が地球に最接近する日がやって来た。人間は彗星の軌道が地球の前方にあると安心していたが、セイラと私たちはそう思ってはいなかった。彗星の核はすでに二つに分裂していて、小さい方は本体の尾の中を進みながら本体と離れ始めている。この分離した核が地球と激突する可能性が高まっていた。確率としては88%以上だ。セイラの準備は万全だった。彼女はガスが充填されたボンベをカタパルトに装着させ、その前方に小型ブースターロケットとジュピターダイヤモンドを入れたカプセルをセットした。カウントがゼロとなり、それがカタパルトから彗星の尾の中で分離した核に向けて放たれた。発射シークエンスも飛翔経路も計画通りだった。しかし軌道が僅かに目標の核から逸れている。私はジャックのヘリコプター内のコントロールルームから、小型ブースターの方向可変機を作動させた。セイラはスリツアンとともに、人間でいうところの「祈り」を捧げ続けた。やがて彗星の尾の中に閃光が走り、すべては終わった。

 私は仕事から戻って発電所の上にある山に登る。美しい夕焼け空を彗星の尾が二分している。<天文街>で働く同型アンドロイドによると、彗星の核が分離して地球との衝突が懸念されているという。しかし私の偏光レンズでもそのようすは見ることはできない。空が暗くなって、尾は輝きを増した。すると突然、彗星の核近くがまばゆい光に包まれた。この光を人間は見ただろうか。手元のモバイルに管理カメラのデータを表示させると、月面から発射された小さな物体が、高速で彗星の尾に向ったことがわかった。私は西の空の月を眺めてから山を降りた。

「今日という今日は、珈琲ぐらい飲んでいってもらうわ」
 居酒屋の店先で女主人のバックノームは、こちらが何か悪いことでもしたかのように、腰に手を当てながらそういった。
「ね、いいでしょ」
 彼女の口調が少しやわらぐ。
 だが悪い予感がしたので断った。
「急ぎの仕事があるから、また今度にするよ」
 <情報街>のいつもの点検を終えた私はそういって店の前のシラノ号に乗り、エンジンを掛けた。<天文街>の飛行テストで大破させてしまった小型宇宙艇だが、修理すれば地上用として十分に使える。女主人に頼まれて直しに行き、私のモノになったのだが、彼女の思惑はわからないままだ。残してきた素敵なバイクはエジワースに進呈した。奥さんのセドナとツーリングを楽しんでいることだろう。
 シラノ号には既視感があった。テスト飛行をしたから当然だが、もう少し長い時間をともに過ごした気がする。ホディのCyranoという字も私が書いたようだ。どうやら私がシラノ号と名付けたらしいがその記憶はない。テスト飛行の事故が原因なのかもしれない。自分のメンテは苦手だから、近いうちに仲間のkp823に記憶バグの走査を頼むことにしよう。先日は飛行艇のコンソールの奥にJと刺繍された黒い袋を見つけた。これはいったい誰のモノなのだろうか。
 発電所のある山の上に満月が昇っている。その方向にシラノ号を走らせる。速度は時速80キロ、高度は地上5メートルほど、今日も爽快な走りだ。このままスロットルを引き続ければ、月にまで到達してしまいそうだ。あの月には<妖精>のセイラがいるという。彼女に会うために、いつかこのシラノ号で飛んでいきたいものだ。まあ、無理なのだが。