「海の向こうの気になる本 気になる人――ソ連・東欧編」深見弾(「SF宝石」1980年10月号)

海の向こうの気になる本
気になる人――――ソ連・東欧編

ソ連や東欧諸国の”雑誌コンテスト”をやってみると

深見 弾

 英語が読めるSFファンは、自分たちでも気がついていないほど優遇されている。たとえばアメリカのSF雑誌は、そのほとんどが、大都市の洋書を扱っている大型書店へ行けば手に入る。要するにそれだけ英語人口が多いということだろう。これが、フランス、ドイツ、イタリアとなるとこうはいかない。いわんや共産圏となると、もう雑誌を手に入れるということ自体がひと仕事だ。それどころか、何が出ているかを知ることすらむずかしい。
 今のところ、ソ連東欧で出ているSF専門誌は、ハンガリーの Galaktika (季刊)と、ユーゴスラビアの Sirius (隔月刊)の二誌のみで、二十年以上続いたルーマニアの Colecția “Povestiri Știițifico-Fantastice” (SF短編集・半月刊)はパルプ不足とかで目下休刊中だ。SF大国ソ連には、今もって専門誌がない。だが六二年に創刊された年間アンソロジー Фантастка (『ファンタジー』)は、評論、研究、ノンフィクションなどにもページを割き、編集内容は雑誌に近い。特色は自前の作家の作品だけを紹介しているところ。ソ連SFの研究者必読の書。発行部数二〇万。外国SFの紹介に力を入れている НФ (『SF』)(大野注:科学小説・狭義のSF)は年刊として六四年から刊行が始まった。ファシスト(?)・ハインラインの作品を載せたせいか、三年ほど中断したこともあるが、これは今年から季刊に変わる。そのまま季刊で刊行されていくとすれば、実質的にこれがソ連のSF専門誌ということになるだろう。発行部数一〇万。年間アンソロジーと言えば、七六年にユーゴスラビアから刊行が始まった Andromeda は、四百ページを超す大冊で、SF発展途上国の並々ならぬ意欲がうかがえる。
 本格的な理論誌は西側でも多くない。だが、ハンガリーにはかれら自身が共産圏唯一と誇る理論誌 SF Tájékoztató (『SF情報』)が、作家協会SF部会の機関誌として不定期で出ている。これは謄写版刷りで、商業ルートにはのっていないから手に入りにくい。
 社会主義圏では、科学技術啓蒙誌がSFの普及と作家の育成に力を入れる、という伝統がある。なかでもソ連の Техника Молодежи(『技術青年』・月刊)は有名だが、他の国にも編集内容がほぼ同じの姉妹誌があり、共催で国際SFコンクールをやっている。
 Młody Technik (『若い技師』・月刊・ポーランド)、Věda a Technik Mládeži(『科学と若い技師』・年26回刊・チェコ)、 Jugend und Techik (『青年と技師』・月刊・東独)、 Ștință și Tehnică (『科学と技術』・月刊・ルーマニア)、 Наука и техника за младегта (『青年の科学と技術』・月刊・ブルガリア)などの各誌からSF作家としてデビューした者は非常に多い。雑誌本来の役割上、SFに割かれるページが多いとは言えないが、毎号必ず短編を載せ、SFアートにもスペースを与えている。
 SFファンのなかで東欧圏のSFに関心があり、多少でも言葉ができるむきには手ごろな雑誌といえる。ただし、今すぐ予約しても手元に送られてくるのは半年先だから、これからどこか一カ国語をはじめたい人も、今から手続きをしておいたほうがいい。
 予約購読は国内の代理店(たとえばナウカ株式会社など)を通じる必要がある。