「人体縮小薬」橋本喬木

 博士のお手伝いのため、一日中実験の観察を続けていた助手のネギ君。ずっと目を凝らしていたので、いいかげん目がショボショボしてきた。
「何かないかなぁ」
 実験室の中を、キョロキョロキョロキョロ。すると、手近なところに置かれていた目薬を見つけた。そこで、ひょいと手を伸ばすと、目薬をポトンポトン。
「ああ、スッキリした」
 心地よい刺激に、ネギ君はとても爽やかな気分に浸っていた。
 その時、
「ネギ君、実験の経過は順調かね」
 ドアが開いた。テントコロ博士が入ってきたのだった。
「経過は順調、というか、何も変化はありません。それより博士、ずっと観察を続けていたら目が疲れてしまって。だから、ここにあった目薬を使わせていただきました」
「何だとぉ」博士が大声を出した。「君は、あの薬を使ったのかね」
「はい」
「何ということをしてくれたんだ」
「ごめんなさい。博士の許可なく、勝手に目薬を点(さ)したことは謝ります。でも、目薬の一滴や二滴くらい」
「バカもん」博士は怒鳴った。「あれは目薬なんかじゃない。最近ワシが発明した、人体縮小薬なのだ。しかも、まだ実験すらしていない、出来たてホヤホヤの薬なんだぞ」
「えっ」
 ネギ君は驚きの声をあげた。
「だが、点してしまったものは仕方がない。結果オーライということで、ネギ君で人体実験をすることにしよう」
「分かりました、博士」
「それでネギ君、人体縮小薬を点して、何か変わったことはないかね」
「博士、すごいです。この実験室がどんどん大きくなっていきます」
「なるほど」
「もしかして、これって、ボクの身体が縮小されたから、実験室が大きく見えるようになったって事ですよね。実験は大成功です」
「ダメだ、実験は大失敗だ。お前の体は、少しも小さくなっていない」
「えっ。でもボクには、この実験室が大きく見えます。そう、博士だってすっごい巨人に見えています。なのに、身体が小さくなっていないなんて、てんで理解できません」
「目だ。人体縮小薬を目に点したところ、目だけが小さくなってしまったのだよ」
 そう言いながら、博士はネギ君に手鏡を渡した。
「さぁ、自分の姿を見てみなさい」
「ギャッ、これがボクですか」
 巨大な身体に小さな目。自分の姿を目にして驚いたネギ君、目がテンになってしまった。