「深田亨の3оr4(スリー・オア・フォー)・『雨の一週間』」深田亨

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「深田亨の3оr4(スリー・オア・フォー)・『雨の一週間』」深田亨

《3行(句点三つ)また4行(句点四つ)に圧縮したショートショート作品》

 【雨の月曜日】
〈彼女〉
 先週末でバイトが終わった。
 行かなくていいとなると雨だって優しい。
 しばらくは真面目な大学生でいようか。
 一時限目をパスして、またベッドにもぐりこむ。

〈彼〉
 こんな日は会社に行くのがいやになる。
 思い切って休むと決めたとたん、天井から雨が降る。
 マンションの上の部屋で水回りの故障。
 部屋の中は水浸し、しばらく会社で泊まるしかなさそう。

 【雨の火曜日】
〈彼女〉
 雨の中、自転車を走らせてスーパーに行くわ。
 火曜日は全館5パーセントオフセールなの。
 さらに雨が降るとクリーニングが半額よ。
 大満足して外に出ると雨上がりの空に虹。

〈彼〉
 雨でも晴れでも関係ない自宅でのリモート会議。
 気になっていた彼女の画面が五回目の今日は消えている。
 非正規のバイトだったので契約が切れたとか。
 彼女の後ろに見えた窓の外は、いつも雨だったような気がする。

 【雨の水曜日】
〈彼女〉
 駅から大学に行く途中で突然のひどい雨。
 雨宿りしようとカフェに入り、止みそうにない空を眺める。
 やがて少人数のゼミ仲間がつぎつぎ現れる。
 雨の日はここでと決めているので、もうすぐ教授もやってくるはず。

〈彼〉
 外回りの営業で雨宿りに入ったカフェ。
 椅子の上にスマホの忘れ物。
 入れ違いに出て行った学生たちの誰かかな。
 あわてて取りに来たのはリモート会議からいなくなった彼女。

 【雨の木曜日】
〈彼女〉
 よかったらご飯にでも行きませんかと、彼から届いた〝いかにも〟のメール。
 スマホのお礼にお誘いするのは私のほうなのに。
 行く、行かない、行く、行かない。
 窓ガラスに当たる雨粒で占ってみる。

〈彼〉
 久しぶりに仕事帰りになじみの店で飲む。
 店を出ると雨が降っていて、マスターが傘を貸してくれた。
 もう店じまいするから返さなくていいよと寂しげに言う。
 どこかで再開してほしいから、飲みに行くときは必ずその傘を持つと決める。

 【雨の金曜日】
〈彼女〉
 ノアの箱舟に鳩が小枝をもたらしたように、私の心を託してみたい。
 確実に届くメールなんかじゃなく、運を天に任せて試すのよ。
 ほら、ベランダの手すりに雨を避けた鳩がとまる。
 言付けをする間もなく、うんちを残して飛び去ってしまう。

〈彼〉
 暴風雨でダムが決壊し、町は水浸しになった。
 たった一人ゴムボートで彼女の救助に向かう。
 妄想のニュース画面から窓の外に目を向ける。
 そこには木の葉を揺らす優しい夜の雨。

 【雨の土曜日】
〈彼女〉
 友達にもらった映画のチケットが2枚あるんです、なんて。
 これこそ〝いかにも〟って感じよね。
 でも本当なの。
 レトロな映画は趣味じゃないからとくれた「シェルブールの雨傘」。

〈彼〉
 雨の休日をマンションで一人寂しく過ごす。
 一人で食事を作り一人で洗濯をし一人でテレビを見る。
 スマホが震えて彼女からのメッセージが届く。
 これからずっと、雨の日が好きになる。

 【雨の日曜日】
〈彼女〉
 雨が降っていても出かけるわ。
 だってデートなんだもの。
 傘を持たずに改札から出てきた彼。
 私の傘で足りるのよ。

〈彼〉
 事故で電車がずいぶん遅れた。
 そのうえ傘を忘れて降りた。
 待ち合わせの駅にぎりぎり間に合った。
 不安だらけの心に雨を背にした彼女の笑顔。