「江坂遊の3or4(9)」江坂遊

《3行(句点三つ)また4行(句点四つ)に圧縮したショートショート作品》
◇9◇「絵のない3コマ4コマ本」

『新しいリンゴ』
これが新しく生み出した、競技で勝てるリンゴです。
昨年、リンゴの皮むき競争で惜敗した無念をはらそうと努力しました。
これで無敵です。
やっと、むいてもむいても、リンゴの皮ばかりというリンゴができました。

『お徳用カレンダー』
銀座の文房具屋さんで年末には必ずカレンダーを買うことにしている。
顔なじみの店員さんから「今までなかった、お徳用なのがありますよ」と言われたのでそれを買うことにした。
13月のページがあるお徳用カレンダー。

『鬼婆』
「婆ちゃん、頭の上に伸びてきたのは角じゃないか」
「これはフィラメントと言って、夜道を歩くときに光らせるもんだよ、このごろ物騒でいけない」
「本当は明るい方がきれいに見えるってことでつけたんじゃないのかい」
「そうだとも、鬼火の電気代もバカにならなくなっているから自家発電でさぁ」

『ハムスター』
彼の部屋に行くと、「僕はハムスターをマイナス一匹飼っているんだ」と空っぽの飼育ケージを指さしたからびっくりした。
「あら、うちにもマイナス一匹いるのよ」と平然と応えたのは、わたし。
「じゃ、掛け合わせたらどうだろう」と彼がパッと閃いて言ったから、「それはいい考えね」と、わたしん家のハムスターを彼に預けることにした。
マイナス一匹どうしの掛け算が成立したみたいで、ハムスターの子は一匹分まるまる目に見えるようになった。

『迷い家』
本日はみちのく住宅展示パークにお越しいただきありがとうございます。
ただいま、自分は迷い家だとおっしゃられている三歳くらいのお子様をサービスカウンターでお預かりしています。
ご両親も迷われていると思いますが、お子様の泣く声を頼りにサービスカウンターまでお越しください。
「僕達もリフォームしてもらおうよぉ、リフォーム、リフォーム」

『二口女』
長いこと背中くっつけて二人で何をしているのかと思っていました。
てっきり二人は仲が悪いんだと思っていましたよ。
でも、それが新しい愛のカタチでしたか。
二口女同士のキッスを見たのは初めてなもので。

『軍手』
息子と山歩きを楽しんでいると、昔、防空壕に使われていたような暗い洞窟を見つけた。
中に入ると、汚れた軍手がまるで蟹のように蠢いていて、わたしはいきなり首に取りつかれてしまった。
もう駄目かと思ったが、急に息苦しさから開放された。
それは息子が、軍手の妖怪とジャンケンをして勝ったおかげだった。

『霊酒』
お酌をしてくれる幽霊が一人ついてくるお酒。
美人の幽霊が側についてくれ、通夜っぽくではなかった、艶っぽく酌(しゃく)をしてくれて楽しく酔える。
「持病の癪(しゃく)が」などと時折り、面白いことも言ってくれたりするのだからたまらない。

『東京魔力』
郊外に移り住んでしばらくしてのこと、居間に電気もきていない不審なコンセントがあるのを見つけた。
いたずら心がわき、足の人差し指と中指を突っ込んでみると、これがスッポリと入った。
 すぐ身体中に元気が充満してくるのが分かった。
 でも、東京魔力という会社から、いくら請求書がくるんだろうかと思うと、途端に元気がなくなり、その途端、またこのコンセントに足の指を差し込みたくなってしまうのだから弱り果てている。

『発電』
キーを叩く指の力を電気に変換し蓄積してパソコンの電力として使用するもの。
使えば使うほどパソコンの使用電力が溜まる。
長編小説家などは大助かりだが、ショートショート作家にはそれほど役立つものではないのでわたしは薦めないが。