「江坂遊の3or4(7)」江坂遊 

「江坂遊の3оr4(スリー・オア・フォー)・絵のない3コマ、4コマ漫画本 7」

 江坂遊

《3行(句点三つ)また4行(句点四つ)に圧縮したショートショート作品》

『視刑執行人』
地球の遅れた裁判制度では裁ききれない犯罪者に、目から出る殺人光線で制裁を加えるのが私の任務。
私は視刑執行人。
でも、いや、だからなんだが、愛するお前を正面から見据えることができない。
どうか、わかっておくれ。

『無気力発生装置』
 できた。
 よしとばかりに、無気力を発生させる装置を稼働させた。
 無気力が充実してきた。

『味』
 窓の外をボーっと眺めていたら、急に窓がゼリー状に柔らかくなり、人間の舌のようなものが現れ、わたしの顔をペロリとなめた。
 それだけの話だが、おそらく異星人の好みの味ではなかったので、地球人はこれまで食べられなかったのだろう。
 わたしは地球を救ったという自負がある。

『穴馬』
 まさにその馬は穴馬だった。
 その馬が走ると、対抗馬を次々と自分の身体の闇の中に飲み込んでいく。
 賭けるなら、この馬。

『ワンコイン墓場』
 部屋の中で休息できなかったので、最近できたばかりのワンコイン墓場を利用することにした。
 ああ、とても安らかだったよ。
 ずっと、いたかったけど、ワンコインだから、すぐ棺桶の蓋が開く。
 もっと、しっかり働いて、これをずっと長く利用できればと心の底から思うよ。

『大きな貝』
 朝起きたら、その街の各家庭の冷蔵庫が全部消えていた。
 冷蔵庫から大きなハマグリの足のようなものがニュルっと出て、家から這い出し、海に入って行ったところが目撃されている。
 前の晩に竜宮城の大宴会が大盛り上がりだったって話さ。

『ボトルペット』
 この前、コンビニに「猫ちゃん」と書かれたペットボトルが売られていた。
 ラベルを読むと、「これをコップに注いで机の上に置いておくと、液体が猫の形をとり、三分間遊んでくれる」とあった。
 家に戻って、冷蔵庫をあけると、娘の名前がマジックインキで書かれてあるペットボトルが目に入った。
それはボトルペットの新製品で「マッチョマン」というもののようだ。

『草野球』
 草野球で大ホームランを打ったら、ガシャーンと窓ガラスが割れる音がした。
 謝りに行ったが、ガラスは割れていないようなので、あの音はいったい何だったんだろうかとずっと謎だった。
 後年、タイムマシンを試運転していたら、窓が割れてあのボールが飛び込んできたので、あぁ、あのときのだと合点がいった。
 謎は解けたが、試運転はさんざんな結果となった。

『ラッキー』
 きみは四つ葉のクローバー。
 僕にとって幸運の象徴で、貴重な存在だ。
 だから、きみを押し花にしようとしているわけで、ジタバタせぬよう。

『廃品回収』
 古い愛をお持ちの方は気軽にお声かけください。
 色褪せた愛、擦り切れた愛、穴だらけの愛、ずたずたの愛、さびた愛、縮こまってしまった愛はございませんでしょうか?
「こんな夜中に不謹慎だから𠮟りつけてやらなきゃね、お母さん、お父さんを起こさなくて大丈夫かしら」
「あら、眠ったままの方が回収してもらいやすいと思うわよ」