「江坂遊の3or4(6)」江坂遊

「江坂遊の3оr4(スリー・オア・フォー)・絵のない3コマ、4コマ漫画本 6」江坂遊
《3行(句点三つ)また4行(句点四つ)に圧縮したショートショート作品》

『手が焼ける猫』
うちの猫は肉球の温度を思いっきりあげることができる。
それだけではなくて、とても欲深い。
なんでもかんでも自分のものだと言わんばかりに焼き印を押すのだ。
だから、上の娘も下の息子も、妻も私もだが、お尻は見せられない。

『先生猫』
うちに教えたがりの猫がいる。
妻と娘は足音をたてないで忍び寄ることを習得した。
息子は暗闇でもよく見えるようになった。
しかし、わたしには猫舌になる方法しか教えようとしない。

『吸血猫』
うちに吸血猫がいる。
いや、狂暴じゃないよ、いつも静かに蚊を止まらせている。
長良川の鵜飼いの鵜みたいに蚊を使っているんだ。
蚊が猫の血を吸っているんじゃなくて、吸って来た蚊の血を輸血させているようだ。

『針猫』                          
庭でサボテンを育てていたら、野良猫がやってきて全部平らげていった。
「よくもあんな棘だらけのものを食べていくなぁ」と思っていたら、「下校途中に小学生が子猫をいじめていたところに、野良猫が集まってきて、次々と針を飛ばし、その子たちを撃退した」という話を聞いた。
もしかして、うちのサボテンを食い散らかした猫たちではないか。
庭を見ると、夕日に針を輝かせて野良猫がサボテンみたいなポーズをとっているのが見える。

『エレベーター』
エレベーターの中にただ一人。
かすかに聞き取れる声。
「あなたを好きになってしまったから、あなたをもう放しはしない」。
 いつも満員と表示されているエレベーターのありふれたエピソード。

『おののき』
 いじめられて小野くんは亡くなりました。
 亡骸を埋めた土から芽がふき、やがて見上げるほどの大木になりました。
 小野くんの木に実ったのは、何と鋭い刃をもった「斧」でした。
その下をいじめっ子が通ると、その「斧」が落ちてきて……。

『待合室』
 病院の待合室で待つのが何とも退屈だという意見があり、ある医院では待合室でカジノを開く試みを行った。
ルーレットが盛り上がりに盛り上がっているのは、賭けのチップを錠剤としたことだ。
色とりどりの薬がやりとりされるさまは圧巻だ。
時には医者の総取りということもあり、全部取り戻せたぞと開業医の顔は崩れっぱなしである。

『自分プレッサー』
早い話が、これはズボンプレッサーみたいなものです。
 あぁ、つまり、しわとかたるみとかが無くなる美容機械ですか。
 いえ、それだけではないですよ、ピシピシッと谷折り、山折りくっきりと、折り目正しい人はいつも歓迎されます。

『にわか雨』
 急に降って来た。
 何だかねばつく雨だ。
 足の裏が道路にくっついて離れなくなった。
 あぁ、にかわ雨というのはこれかぁ。

『足あと』
 急に立ち止まった。
すると、自分の足あとに追い抜かれてしまった。
歳かなぁ。