
《3行(句点三つ)また4行(句点四つ)に圧縮したショートショート作品》
『光線道路』
この辺りに懐中電灯を立てかけてスイッチを入れる。
窓から見えるタワーマンションの自宅に向けて光の向きを調節する。
光線道路ができたら、その上をまっすぐ歩いて帰ればいいんだよ。
もっとも居酒屋からふいに飛び出す光線道路と交差する場所では、悩んだりもするがね。
『霊缶』
幽霊の缶詰って、あなた、何を買ってきたのよ。
いまどき缶切りが必要な缶詰なんて、もう見かけないんだからね。
まぁ、かわいそう、現れたお岩さんが血を流しているのは、あなたが缶切りで傷つけちゃったからなのね。
中身が新鮮な証拠って、それって、喜ぶところかしら?
『気配薬』
これを部屋の中にスプレーすると、ほら。
彼の匂いが漂いだしてきて、彼の確かな気配を感じられるようになるわけ。
玄関ベルが鳴ったでしょ、ほらね、ちゃんと来てくれるんだから。
そうよ、彼が亡くなったのは三か月前。
『穴が開いた帽子』
穴の開いた帽子をわざと斜めにかぶっておられるのが、オシャレですねって言われたけどね。
真正面にかぶれないわけがあってね。
こうしたら、頭が貫通しているのが、丸わかりになっちゃうじゃない。
『時間灯台』
タイムマシンの通行が頻繁になり、時間航行を安全にと時間灯台が設置されている。
灯台守は歴史を変更させないようにするタイムパトロールの経験者ということで、わたしもその初代管理者に任命された。
十二月三十一日になると、またその年の一月一日に戻り、その年を繰り返すので任期中はまったく年をとらないというのが特権だ。
タイムパトロールの目を盗み、楽しみで年末宝くじの当たり番号をひかえて買ってみたりもするが、当たっても賞金は翌年に渡されるので、取りに行けないのが癪の種。
『フィッティングルーム』
妻に服を買ってやるのが楽しみで仕方がない。
妻はどんな服を試着してみても、その服が似合う姿に変身するから驚きだ。
サイズだって気にならない。
子供服だって、ちゃんと子供になって着こなせるのだから立派なものだ。
『ポッタンポタン』
妙な湯飲み茶わんでね、「ポッタンポタン」と雨漏りの音がしていつの間にか中身のお茶がなくなってしまう。
もちろん、割れてもいないので辺りにお茶がこぼれ出してはいない。
奇妙なことに中身のお茶が、「ポッタンポタン」という音に変わって空気中に消えてしまうようだ。
その夜、漁師たちの耳に海の方角から、大きな「ポッタンポタン」という音が聞こえだして……。
『忍法・木の葉がくれ』
さぁ、漫画で学習したと思うので、やってみなさい。
これは基本、逃げるための目くらまし術じゃ。
そうじゃないって。
裸になって、そこを木の葉で隠すという忍法じゃないんだなぁ、これが。
『忍者部隊月光』
「行け、忍者部隊、半月」
「次行け、忍者部隊、新月」
「待て、妊娠部隊、臨月」
『百雲斎』
師に歳のことを聞くのははばかられることではあるが、前々から聞いてみたいとは思っていた。
ついにその機会がやって来た。
「百歳を越えているのは確かでしょうが、師はいったい何歳なのですか?」
「百うん歳」