「江坂遊の3оr4(スリー・オア・フォー)・絵のない3コマ、4コマ漫画本 3」

《3行(句点三つ)また4行(句点四つ)に圧縮したショートショート作品》

『かんざし』
 そのかんざしを挿して歩くと、頭にカミナリが落ちる。
 そのカミナリのせいで、若返ると評判が立っているのを知ったので喜ぶだろうと妻に買って帰った。
 あら、何本も持っているのにと他のも見せてくれた。
 いったい妻は何歳なのか。

『調剤薬局で苦情を言う千手観音』
 確かに処方した薬を間違えました。
 毛生え薬と書いてあったんですよね、やっぱり。
 新製品だったので、つい手生え薬を渡しちゃいました。

『トンボ』
 そうですか、やってみますね。
 まず、シオカラトンボにお砂糖をまぶすんですね。
 それでアマカラトンボになって、美味しくいただけるんですか。

『新種の首長竜』
 あぁ、今ブーンと飛んでいきましたね。
 タイムマシンでやって来た甲斐がありました。
 ろくろっ首長竜の首が飛ぶ瞬間を目撃できるとは嬉しい。

『ダンス教えます』
「一週間でダンスが覚えられます」と張り紙にあった。
「あなたの影を一週間だけわたしに預けて下さい。
 基本的なステップをあなたの影に教えてさしあげます」
 わたしの影はすかさず首を横に振った。

『三連牛像』
 二匹の牛がお尻でつながっている姿を連牛と呼ぶことは知られている。
 三匹つながっているのはとても珍しく、四葉のクローバーと同じくらい珍重されている。
 三連牛に一頭だけ離して並べると、それは特別に飛びウシ三連牛と呼ばれる。

『死なない』
 彼女は「あんたの顔を二度と見たくない」と言った。
 その彼女が亡くなった。
 彼女の強い思いのおかげで、ぼくは不死身になった。

『こんにちは赤ちゃん』
 うちの産院では、指環をはめて産まれてきた赤ちゃんがいるのよ、びっくりでしょ。
 あら、うちの病院でうまれた赤ちゃんの手首にはミサンガが巻かれていたわよ。
 あらら、うちでは宝石のついたペアの腕輪をはめた双子ちゃんもいたわね、勝ったかしら。
 うちは警察病院だけれど、手錠をはめた双子ちゃんが生まれたときはそれはもう大騒ぎで。

『月夜のダンシングシューズ』
 廊下に干していたバレーシューズが月光にあたると勝手に踊りだした。
 手拍子をとると、近くにあったサンダルも跳びはねる。
 下駄箱からハイヒールやパンプスも続き、靴下やストッキングまでバレーシューズのステップをまね始め、なんともにぎやかだ。
 けれどトイレのスリッパが仲間外れにされているので、それが可哀そうでならない。

『聴心器』
 これを使ってきみの心の声を聴いてみていいかなぁ。
「心ここにあらず」
 ええっ、ありえないぞ、じゃ、どこに行ったと言うんだ?
「たぶん、新しいカレのところ」