「ザイオン・スタンズ・オン・マーズ(Part1)」伊野隆之

(紹介文PDFバージョン:zionmarsshoukai_okawadaakira
伊野隆之の最新作「ザイオンズ・スタンズ・オン・マーズ」をお届けする。
伊野隆之はこれまで、タコ型義体に入ることを余儀なくされたザイオン・バフェットを焦点人物とした「ザイオン・イン・アン・オクトモーフ」、「ザイオン・イズ・ライジング」、「ザイオンズ・チケット・トゥー・マーズ」の金星編・三部作を発表し、ファンに好評を博してきた。

今回、新たに、「ザイオン・スタンズ・オン・マーズ」「ザイオン・トラップト」「ザイオン・イン・ザ・シャドウ」の火星三部作が書き下ろされた。それぞれ2回ずつに分割し、3部を半年にわたって「SF Prologue Wave」上で連載をしていく。
この新シリーズの特徴は、なんといっても圧倒的な安定感だ。それは、このたび公開された「ザイオン・スタンド・オン・マーズ」をお読みいただければ、一目瞭然だろう。戦闘描写は実にしっかりしているし、火星ならではの特徴的な風土や建造物などを、自然に小説のなかへ溶かし込むことに成功している。コンゲームの要素が強かった金星編と、火星編は、話の大枠自体も対比的な作りになっているように思う。そうした方が、『エクリプス・フェイズ』世界における火星の位置を読者に伝えやすいとふんだのではないか。

やはり、伊野隆之は世界観の作家なのだ。そしてシェアード・ワールドで最も大事なのが、この「世界観を押さえる」という作業なのである。通常、「SF Prologue Wave」の『エクリプス・フェイズ』小説は日本語版翻訳チームの監修作業を経て公開しているが、本作はそのままの形で、特に具体的な要修正箇所がなかったほどの完成度だった。
新シリーズでは、旧シリーズのストーリーも、随所で振り返られている。まさしく親切設計だが、ここは、「ザイオン・イン・アン・オクトモーフ」からの“イッキ読み”をオススメしたい。必ずや、伊野隆之という作家の凄みがわかるはずだ。

 現在、『エクリプス・フェイズ』のサプリメント『サンワード』の日本語版作業の大詰めなのだが、金星や火星はその主要な舞台となっている。『サンワード』の予習としても楽しんでいただけば幸いだ。『エクリプス・フェイズ』の基本ルールブックにも、金星や火星については概説されている。これらも、恰好のサイドリーダーになるだろう。(岡和田晃)

※この作品は改稿のうえ、伊野隆之『ザイオン・イン・ジ・オクトモーフ~イシュタルの虜囚、ネルガルの罠 〈エクリプス・フェイズ〉シェアード・ワールド』(アトリエサード)に収録されました(https://athird.cart.fc2.com/ca9/387/p-r2-s/)。

伊野隆之プロフィール


伊野隆之既刊
『蒼い月の眠り猫』