(紹介文PDFバージョン:zaionshoukai_okawadaakira)
『エクリプス・フェイズ』の世界では、動物の知性が人間並みに引き上げられている。この設定はコードウェイナー・スミスの「人類補完機構」シリーズやデヴィッド・ブリンの『知性化戦争』などに登場する「知性化された動物が二級市民として社会に参加する」という設定に近い、いわば一種の思考実験だ。
知性化される動物は、チンパンジーやゴリラなどの類人猿、クジラやイルカなどの鯨類、あるいはカラスやオウムなどの鳥類が一般的だが、『エクリプス・フェイズ』では、これらに加え、なんと「タコ」が知性化されている(現実でも、タコは非常に知性が高く、瓶の蓋を開けるなど多数の触腕で器用に物体を操作することで知られている)。
実際、『エクリプス・フェイズ』の体験会では、いつもタコの人気に驚かされる。言ってしまえばタコは『エクリプス・フェイズ』のマスコットなのだ。
そして本作「ザイオン・イン・アン・オクトモーフ」は、このタコにスポットを当てた小説である。……とは言っても、出落ちには終わらない。片理誠の「黄泉の縁を巡る」に引き続き、本作も連載という形で公開していく。もちろん大活躍するタコは、『エクリプス・フェイズ』のルールを使ってデザインされたもの。著者の伊野隆之は実際にこのキャラクターを使って『エクリプス・フェイズ』のゲーム・プレイに参加している。そう、伊野隆之は本気なのだ!
伊野隆之は『樹環惑星 ―ダイビング・オパリア―』(徳間書店)で第11回日本SF新人賞を受賞した俊英。同作はアーシュラ・K・ル=グィンの『世界の合言葉は森』と眉村卓の「司政官」シリーズをブレンドさせたような読み応えある作品だが、なんといっても舞台となる惑星の重厚なシミュレーションが魅力的だ。長篇に見られる精緻な設定と、短篇「SF/サイエンフィクション」や「ヒア・アイ・アム」で垣間見えるユーモア感覚がブレンドされた本作は、伊野隆之の新境地を拓く作品とみなしても過言ではないだろう。なお、金星の設定には著者が独自に想像を膨らませた部分がある。(岡和田晃)
※この作品は改稿のうえ、伊野隆之『ザイオン・イン・ジ・オクトモーフ~イシュタルの虜囚、ネルガルの罠 〈エクリプス・フェイズ〉シェアード・ワールド』(アトリエサード)に収録されました(https://athird.cart.fc2.com/ca9/387/p-r2-s/)。
伊野隆之既刊
『樹環惑星
――ダイビング・オパリア――』