書名:『向井豊昭の闘争 異種混交性(ハイブリディティ)の世界文学』
著者:岡和田晃
出版社:未來社
出版日:2014年7月1日
ISBNコード:978-4-624-60115-7
値段:2808円
学術出版社・未來社のPR誌連載された「向井豊昭の闘争」を主軸とし、大幅に増補・改稿した、作家・向井豊昭の評伝。
「『怒り』の力を取り戻すこと。ひとえにこれが、本書の目的である。」(本文より)
現代の批評は何を取りこぼしてきたのか。時代の閉塞に亀裂をもたらす「怒り」の力を取り戻すため、若き文芸評論家・岡和田晃が、文学史の闇に埋もれた作家・向井豊昭(1933~2008)の生涯と作品を、いま再び世に問う。〈アイヌ〉に対する征服者としての痛みを背負いながら「爆弾の時代」を通りぬけ、グローバリズムと商業主義の暴力に裸一貫で立ち向かった作家のたどり着いた場所とは。巻末の作品リストも壮観。
【目次】
第一部 一九六九年まで
一 〈アイヌ〉というアイデンティティ・ポリティクス
二 〈アイヌ〉ならざる者による「現代アイヌ文学」
三 向井豊昭という作家
四 最初期と晩年をつなぐもの
五 「御料牧場」と「うた詠み」の頃
六 教育者・向井豊昭
七 向井豊昭と鳩沢佐美夫
八 「耳のない独唱」と「赤い木の実」
第二部 二〇〇八年まで
一 爆弾の時代とエスペラントの理想
二 「和人史」から、「ヌーヴォー・ロマン」へ
三 詩人、向井夷希微の血を享けて
四 「近代文学の終り」を越えて
五 「ドレミの外」から見えたもの
六 小熊秀雄に助太刀いたす
七 打ち捨てられたコミューンへの道
第三部 二〇一四年の向井豊昭
あとがき 死者の声を聞くこと
《著者略歴》
岡和田晃(おかわだあきら)
1981年北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、筑波大学大学院人文社会科学研究科一貫制博士課程在学中。批評家、ライター。日本SF作家クラブ会員。2010年、「「世界内戦」とわずかな希望 伊藤計劃『虐殺器官』へ向き合うために」で第5回日本SF評論賞優秀賞を受賞。著書に『アゲインスト・ジェノサイド』(アークライト/新紀元社、2009)『「世界内戦」とわずかな希望 伊藤計劃・SF・現代文学』(アトリエサード/書苑新社、2013)、編著に『向井豊昭傑作集 飛ぶくしゃみ』(未來社、2014)、『北の想像力《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』(寿郎社、2014)、翻訳書に『ミドンヘイムの灰燼』(ホビージャパン、2008)ほか。
【著者より】
私が編集・解説を担当した『向井豊昭傑作集 飛ぶくしゃみ』を「SF Prologue Wave」で紹介いただきましたが、その姉妹編であり、また最良のブックガイドとも自負している『向井豊昭の闘争』が、このたび、刊行となりました。本書連載時の紹介文に、そのコンセプトは明記されていますので、あわせてご覧ください。帯文はアヴァン・ポップ作家、笙野頼子氏に書いていただきました。
さて、このたび札幌市議の「アイヌ民族はもういない」発言によって、はからずも『向井豊昭の闘争』が重要な主題としている「アイヌ」と「政治」の問題が、社会でクローズアップされるようになってしまいました。それは先行研究をふまえた公正な議論が推進されるというものではなく、むしろ議論の土台そのものを破壊しようという歴史修正主義的言説が一挙に噴出してきたように見えます。「在日」叩き、生活保護叩き、ついには「アイヌ」叩きが来た、というわけです。
とりわけインターネット上には、“マイノリティに対する歴史的・社会的背景を加味したアファーマティヴ・アクション”を「利権」だと糾弾し排斥しようとする怨嗟の声が満ちており、私たちの言説がよって立つ公共性の定義を侵食しようとしています。それはつまり、歴史の否定にほかなりません。向井豊昭が直面してきた問題は、現在に至るまで連続しているのです。ゆえに今こそ、「和人」でありながら教育者として「アイヌ」に関わり、そのディレンマを小説として記し続けた向井豊昭の「闘争」を顧みることで、それをオルタナティヴな言説として再評価しなければならない時期に来ていると思います。
本書は連載時から徹底的に改稿を重ね、また全体に小見出しを設けるなどリーダビリティを向上させる努力を行ないました。また、最新の批評理論に目配せしつつも、できるだけ実証的に記すことを心がけて参りました。より多くの方へ、本書に触れていただくことを希望します。
岡和田晃既刊
『向井豊昭の闘争
異種混交性(ハイブリディティ)の世界文学』