「アンときせかえ猫」川島怜子

 猫のペルルが自慢の白い毛並みを毛づくろいしていると、飼い主の優衣(ゆい)が興奮した様子で猫部屋に入ってきた。
「ペルル、聞いて! 最近、町内で怪奇事件が起こっているの。飼い猫が外から帰ってきたら、猫の模様が変わっているんだって! ブチ猫がシマ猫になっていたりするの。新聞部の私としてはスクープをとりたいわ!」
 優衣は興奮しながら、外出用のワンピースに着替えた。
「本当は今から取材したいんだけど、今日はおばあちゃん家にお呼ばれしているから、急いで行かなくちゃ」
 優衣はペルルの背中を優しく撫でると、慌ただしく猫部屋からでていった。
 ペルルは考えた。
 ペルルは優衣に内緒で、たまに外にでかけている。この前のお散歩中に、他の猫から、アンのことを聞いた。
 アンはしっぽの先が二つに割れており、夢の中に入ることができる猫又の子猫だ。
 アンなら、怪奇事件について、なにか知っているのではないだろうか。
 ペルルは猫部屋の窓をそっと開けて外にでると、アンのところに向かった。
「いらっしゃい、アンの部屋にようこそ」
 入り口にいるアンは笑顔で話しかけてきた。
 アンは小猫の姿のときは、ふわふわした綿毛のような毛並みなので、綿毛のアンと呼ばれている。今は人間の姿に変身している。社会勉強を兼ねて、無料で部屋を開放し、猫の交流の場を提供しているそうだ。
「こんにちは、私、ペルルよ。聞きたいことがあるの」
「あら、なにかしら?」
 優衣から聞いた話をすると、アンは驚いた表情になった。
「それ、うちの話だわ。まあ、ここで喋っているのもなんだし、中へどうぞ。楽しいわよ」
 アンはペルルを中に招き入れた。
「不思議な力を使うわよ、ニャオニャオニャーオ!」
 アンが呪文を唱えながら手をかざすと、ペルルはふんわりとした霧に包まれた。驚いたペルルがパチパチとまばたきをしているあいだに、霧は消えた。
「よし、これでオッケーよ。ペルルさんは飼い猫? 帰る時間があるなら、しらせるわよ」
「飼い主の優衣が帰ってくるまでに戻りたいの」
「分かったわ。力を使って、その前に教えるわね」
 アンはノートに、ペルルの名前や飼い主の名前、家の場所などを聞いて、書き込んだ。
 ペルルが奥に進んでいくと、何匹かの猫たちが遊んでいた。よく見ると、手足と顔が茶トラなのに胴体の毛並みが灰色のアメリカンショートヘアーの猫や、手足と顔がロシアンブルーで胴体が三毛猫なんてのもいる。
 一匹の長毛種の猫が、ペルルを見て、こちらにやってきた。毛皮を脱いでペルルに渡す。
「交換して遊びましょう!」
 驚いたペルルがたずねると、猫又の力で、毛皮をコートのように脱ぎ着できるようになっていると言われた。
 ペルルが試してみると、白い毛並みがするりと外れた。二匹は毛皮を交換した。
「とても白いわ。素敵ね!」
 長毛種の猫はペルルの毛皮をまとって喜んでいる。ペルルも長毛種の猫の毛皮を着てみた。毛足が長くてふわふわしている。着心地が良かった。
「あなたの毛皮もとっても素敵よ!」
 二匹で話していると、他の猫も寄ってきた。
 みんなで毛皮を交換しあって楽しく遊んだ。
 しばらくすると、アンが一匹の猫を呼びにきた。
「ソースさん、飼い主さんが、駅から自転車に乗って家に向かっているわ。帰る時間よ」
「分かった。じゃあ、みんなまた!」
 ソースは手早く焦げ茶色の毛皮をまとうと帰っていった。
「帰るときに、他の子の毛皮と間違えないように気をつけてね」
 アンの言葉に、ペルルは、優衣が言っていた怪奇事件は、このことだと思った。他の猫の毛皮を間違えて着て帰った猫がいたのだ。
 それから他の猫と毛皮を交換したり雑談を楽しんだペルルは、とても満足していた。
 ふと見ると、アンは椅子に座ったまま、うとうとしている。猫なので、すぐに眠くなってしまうのだろう。
 どれぐらい時間が経ったのか、他の猫が毛皮を五枚重ねし、みんなで笑っていると、アンが慌てた様子でやってきた。
「居眠りしてた! ペルルさん、時間! もう優衣さんが家に着きそう!」
「きゃー! 急いで帰るわ! みなさん、今日はありがとう!」
 ペルルは慌てて、五枚重ねの猫から毛皮を返してもらった。走りながら着る。
 一心不乱に家まで走った。
 さっと窓を開けて、猫部屋に滑り込み、ぴしゃんと窓を閉める。
 床にジャンプした。
 同時に、部屋のドアが開いて、優衣が顔をだした。
「ただいまー、ペルル。いい子にしてた?」
 ペルルはニャーンと鳴いて、いい子にしていたとアピールした。その姿を見た優衣は、目を丸くさせた。
「なんで、ペルル、毛がないの? 体の毛が全部抜けちゃったの?」
 慌てたペルルは毛皮を裏返しに着てしまっていた。