
「「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 のご紹介 その9」岡和田晃
ゲームブックの専門出版社であるFT書房(https://ftbooks.xyz/)の日刊メールマガジン「FT新聞」(https://ftbooks.xyz/ftshinbun)では、新たな読者と出逢い、作品の良さを再発見してもらうため、「SF Prologue Wave」との共同企画を推進しています。
今回はVol.18~21で配信された記事をご紹介いたします。『エクリプス・フェイズ』のシェアードワールド小説、ロシア・東欧SFの再評価、そしてワイドスクリーン・バロックの佳作など、バラエティに富んでいます。
初出のリンクを辿り、再読の一助としていただけますようお願いします(以下の「はじめに」の文責はすべて岡和田晃です)。
なお、Vol.19で言及されている住谷春也氏は2025年2月に、第45回日本SF大賞功績賞を受賞されています。
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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.18
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●はじめに
「SF Prologue Wave」はアーカイブ機能も充実させており、現在ではアクセス困難だが優れた作品を、積極的に紹介しております。
そのなかでも、故・深見弾氏が「SF宝石」(光文社)に連載していたコラムの再録は、読者に新鮮な驚きを与えました。そのなかでもとっておき、世界的なSF作家であるスタニスワフ・レム(1921-2006)のインタビューをお届けします。いかにもレムらしい、歯に衣着せない科学批判学の精神を感じ取っていただければ幸いです。
「FT新聞」での配信は、深見氏の著作権を管理し、深見氏の手になるスタニスワフ・レム『泰平ヨンの航星日記』、『泰平ヨンの未来学会議』、ストルガツキー兄弟『ストーカー』(すべてハヤカワ文庫SF)といった名作群の改訳を続けておられる大野典宏氏、および「SF Prologue Wave」のための文字起こしを担当した川嶋侑希氏のご尽力で実現しました。
本インタビューは1980年に発表されたものですが、2024年現在では、本インタビューで言及される『マゼラン星雲』も『火星から来た男』も、それぞれ『マゼラン星雲』や『火星からの来訪者』というタイトルで、国書刊行会の〈スタニスワフ・レム・コレクション〉第2期に収められ、日本語版で読めるようになっております。僭越ながら、私(岡和田)も「図書新聞」2022年9月3日号および2023年7月8日号で書評させていただきました。
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「スタニスワフ・レム インタビュー」
深見弾
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海外作家現地取材シリーズ(6)
スタニスワフ・レム
THE WORLD OF STANIALAW LEM
世界のSFの九十九パーセントはわたしの好みに合わないな
S・レムVS. 深見 弾
ワルシャワから二百五十キロ、レムの住むクラクフはチェコとの国境近くの町だ。折り悪しく歯痛に苦しんでいた彼は、すべての客を断わっていたが、「地球の裏側から来てくれた友人は特別だ」と言って、私を大いに感激させた。
昨年十月にポーランドを訪れたのは、翻訳者会議に出席するためだったが、クラクフまで足を伸ばした目的はただひとつ、レムに会うためだ。ワルシャワですら一目置くというこの古都が、外国人にうってつけの観光地だということは百も承知していた。だが、ここまで来てもまだレムに会うアポイントメントがとれていないんでは、気も漫(そぞ)ろで観光気分など起こるわけがない。といって、ホテルでいらいらしていてもどうにかなるものでもない。それでは、と古本屋めぐりをすることにした。幸い、このポーランドの京都は、人口二十万程度の小さな町だというし、聞けば、ヴィスワ川の北岸の丘の上にあるヴァヴェル城から北へ前方後円墳ふうに、グリーンベルトで囲まれた中心部に、クラクフの古本屋は全部あるという。その五軒の古本屋を二日がかりでめぐり歩くことにした。どの本屋も、恐らく、そこで扱っている大半の古書と同じくらい、いや、それよりもっと古い、古色蒼然たる建物の中にあった。五九年に出た『エデン』の初版や、ロボット・テーマの作品をすべて収録した『キベリアーダ』が手に入ったのもこの町でだった。
結果的には、それが観光代わりにもなり、お仕着せの名所旧跡めぐりに終わらずにすんだ。レムが学んだヤゲェウォ大学の学生食堂で、蕎麦(そば)料理が食えたのも、若者の溜まり場だというコーヒーショップで立ち飲みできたのも、すごいヌード絵もまじった野外美術展に出くわしたのも、本屋めぐりをやったおかげだった、と思っている。だが肝心のレムにはまだ会えるかどうか決まっていない。一昨日ベルリンから戻ったばかりで、しかもひどい歯痛で頬に包帯をして寝込んでいるというのが、八日の朝、電話に出た奥さんの話。容体待ち。明日もう一度電話しろということだった。
九日早朝、今日もカッカッという馬のひづめの音で目が覚めた。ホテルの前を馬が荷車を曳いて通っていくのだ。約束の九時に電話を入れる。人に会える程度まで痛みが鎮まっていてくれればいいが、と念じながら。電話に出たレムは、まだ右頬のはれが引かず人に会いたくないのだが、遠くからはるばるやって来たことだ、短時間なら会おうと言ってくれた。三時から三十分だけ。
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再掲:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/9670
初出:「SF宝石」1981年4月号
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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.19
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●はじめに
スタニスワフ・レム・インタビューに続く、深見弾氏の仕事を紹介、第2弾はルーマニアの作家ホリア・アラーマ氏を紹介するコラムです。
というのも、訳者の住谷春也氏が2024年6月に亡くなっていたことが、2024年10月に発表されたからです。
住谷氏は思想家ミルチャ・エリアーデや、ノーベル文学賞候補とささやかれる作家ミルチャ・カルタレスクの訳者として知られますが、もともとはSFファンジン「イスカーチェリ」の同人であり、近年はギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説・都市生成論』(創元SF文庫)の訳など優れた仕事をなしています。
追悼を兼ね、改めて深見氏による住谷氏への言及がある記事を「FT新聞」で配信させていただく次第です。
本連載の前回でご紹介したスタニスワフ・レム『マゼラン雲』の書評(「図書新聞」2022年9月3日号)および『火星からの来訪者』の書評(「図書新聞」2023年7月8日号が、安藤厚会長の推輓により、北海道ポーランド文化協会のサイトで読めるようになりました。
ぜひご笑覧ください。
・『マゼラン雲』書評
http://hokkaido-poland.com/events/LemOblokMagellana2022_review_Okawada.pdf
・『火星からの来訪者』書評
http://hokkaido-poland.com/events/LemCzlowiekMarsa2023_review_Okawada.pdf
今回も大野典宏氏の許諾、川嶋侑希氏の文字起こしを経たものです。深見弾氏が翻訳を手掛け、大野氏が改訳したストルガルキー兄弟『ストーカー』(ハヤカワ文庫SF)は重版がかかり、入手がしやすくなりました。未読の方はこちらもぜひ。
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「海の向こうの気になる本 気になる人――ルーマニア編」
深見弾
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社会主義圏から十年ぶりに訪れたSF作家アラーマ氏
その気にさえなれば、今は地球上のたいていの場所へ出かけていける。一人旅にするか、気が合った仲間と出かけるか、それとも旅行社が仕立てたパックに便乗するか、選択は自由だ。要するに個人の問題。だが、どうやらいちばん人気があるのが団体旅行らしい。近ごろは旅券の申請まで旅行社で代行してくれるという。おまけにローンまであるのだから、まさに至れり尽くせりだ。だがひょっとしたら、こんな状態は長くは続かないかもしれない。出国の条件や外貨持ち出しの制限などが厳しくなって、おいそれと観光旅行などには出られなくなる時代がやってくるかもしれない。それでもなお、どうあっても出かけたいときはどうしたらいいか。そんなときは、社会主義諸国に学べばいい。たとえばこんな例がある。
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再掲:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/9670
初出:「SF宝石」1981年4月号
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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.20
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●はじめに
「FT新聞」の読者で、健部伸明さんの仕事を知らない人は、まずいらっしゃらないのではないでしょうか。新和版D&D、『ドラゴン・ウォーリアーズ』、『サイバーパンク2.0.2.0.』、『ペンドラゴン』『トーキョーN◎VA』第2版から、話題沸騰の『グルームヘイヴン』や『フロストヘイヴン』まで、TRPGやTRPGライクなボードゲーム紹介の第一人者です。
あるいはゲームブック。『未来神話ジャーヴァス』、『カイの冒険』、そして『ドラゴンクエストII』、『ディープダンジョンIII』に『ヤマト魔神伝』。
そして小説。『メイルドメイデン~A gift from Satan』に、「ナイトランド・クォータリー」でのマイクル・ムアコックの翻訳等。
『幻想世界の住人たち』や『幻獣大全』、『ドラゴン最強王図鑑』……といった、神話学・民俗学の研究書・入門書の数々。
その健部伸明さんが、本格SF、それもワイドスクリーン・バロックに挑みました。アルフレッド・ベスターの『わが赴くは星の群れ』(『虎よ、虎よ!』)に――あるいは、田中光二に……?――もともとSF者だった健部さんは、何を学んだのでしょうか?
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オリジナル小説「わが夢見るは遥かなる大地」
健部伸明
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本作はPDFファイルのみの公開となります。以下のリンク先からお読みください。
https://ftbooks.xyz/ftnews/article/SFPW_Collaboration_Vol20_TakerubeNobuaki.pdf
初出:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/9832
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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.21
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●はじめに
今回は「SF Prologue Wave」第2期の編集長を長らくつとめた、片理誠さんの仕事をご紹介します。
片理誠さん、ポストヒューマンSF-RPG『エクリプス・フェイズ』のシェアード・ワールドにも、最初期から参加しており、小説集『再着装(リスリーヴ)の記憶』(アトリエサード)には、「Wet work on dry land」が収録されています。
他には「ナイトランド・クォータリー」Vol.27掲載の「空中楼閣を“ふんわり”と引きずり下ろす」や、〈ミスティックフロー・オンライン〉シリーズ(小学館)などが、近年のお仕事では挙げられますが、片理さんの数多い作品のなかでも、とっておきの逸品をここでは紹介します。そう、王道のポストヒューマンSFです。
恐甲(ダイノクロム)軍団の一員として戦う、知性を有した超戦車の一人称を採用し――スティーヴ・ジャクソン・ゲームズの傑作ゲーム『オーガ』に多大な影響を与えたと言われる――キース・ローマーの《BOLO》シリーズを彷彿させる作品なのです。
初出時の解説にも書きましたが、本作を気に入った方には、『Type: STEELY タイプ・スティーリィ』(幻冬舎)をお勧めしたいと思います。暴力と狂気に満ちた怒濤のアクションが展開されていますから……。
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『エクリプス・フェイズ』シェアード・ワールド小説「決闘狂」
片理誠
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本作はPDFファイルのみの公開となります。以下のリンク先からお読みください。
https://prologuewave.club/wp-content/uploads/2012/12/kettoukyou_hennrimakoto.pdf
初出:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/2812