「『モンセギュール1244』リプレイ~中世主義研究会編(12)最終回」岡和田晃

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『モンセギュール1244』リプレイ~中世主義研究会編(12)

 岡和田晃

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 本リプレイは、中世の異端カタリ派を演じるRPG『モンセギュール1244』(フレデリック・J・イェンセン著、岡和田晃訳、ニューゲームズオーダー)のプレイ光景をまとめ直したものです。連載第11回はこちらに採録されています(https://prologuewave.club/archives/10644)。未読の方は、そちらを先にお読みください。

■感想戦の開始

大貫:いやあ、面白かったですね、このゲーム。
健部:思いのほかアルセンドに皆さん絡んでくるのでビビりました(笑)。途中から、ベルナールの活躍の場がないと思ったくらい(笑)。わりと無理やり途中からベルナールを活躍させました。
小宮:何気に怖かったのはコルバですね(笑)。
大貫:プレイする前は、十字軍とか信仰の関係が、前に出てくると思いきや、人間同士のメロドラマからスタートするのが、意外でしたが、遊びやすさにつながってましたね。
岡和田:実は『モンセギュール1244』と同系統のルールで時代背景を変えたゲームがいくつかあるので、そちらも機会があれば紹介したいと思っています。
一同:へえ~。楽しみですね!
岡和田:ヒストリカルな背景があるRPGって、「歴史を知らないとプレイできない」と思われがちですが、少なくとも『モンセギュール1244』については、必要な情報は盛り込まれているので遊べてしまうんですよね。
大貫:ええ、確かにそうですね。
健部:キャラの基本設定がぜんぶ昼メロなんですけど(笑)。
松本:ピエール・ロジェまわりの人間関係が思いのほか濃密でしたね(笑)。
岡和田:キャラクターのなかには史実に出てくる人も、少なからずいるんですよね。
松本:実際に似たような会話をしていたのかもしれない、と考えると楽しいですよね。
白幡:僕は最初の最初から、エスクラルモンドを逃がすということを目的として行動していたのですが、なかなかままならなかったですね(笑)。最初はコルバを途中で殺すというオチも考えたんですが(笑)。
一同:えええっ!
白幡:さすがに意味不明すぎるので、それはやめました(笑)。
松本:なるほどなあ~。
小宮:エスクラルモンドはセシルと同じ髪型という時点で、セシル様が心の底から大好きなんだろうなあと感じました。あと姉のフィリッパも妬んでいて、残念な家庭だから信仰にすがりついちゃったのかなあと。ほかの男の人と幸せな家庭を築くとかいうことには関心なさそうだなと私は思いました。

■プレイするたびに変わる物語

白幡:プレイのたびに、どのキャラクターがクローズアップされるかって変わってくるんですかね?
岡和田:それはもう、だいぶ変わってきますね。
白幡:その意味では繰り返しプレイしてみるのも面白そうですね。
岡和田:拡張ルールを入れると、キャラクターが4人増えるなどしますから、さらに深みは増しますね。
一同:へえ~。
白幡:シーンごとの演出に必死で、他のシーンとの整合性を考えずに遊んでしまったきらいがあります。
岡和田:こういうナラティヴ・スタイルのゲームは、そのあたりは投げっぱなしで、どれか拾ってもらえればいいかな、くらいの気持ちでプレイしてよいと思いますよ。私がやると、ピエール・ロジェとかたいていクズ野郎になります。
一同:(爆笑)。
小宮:わかります、わかります。
健部:ふだんできないことができる、と。
岡和田:前にやったテストプレイでは、最後アミエルが『ヴィンランド・サガ』の幼少期トルフィンみたいに、異端審問官どもをブチ殺しながら逃げ延びることになりました(笑)。
松本:すごい!(笑)。
小宮:色々な可能性が!
松本:ぜんぜん違う性格や肉付けもできてしまいそうですよね。

■キーパースンはアルセンド?

健部:領主レーモンや防衛責任者のピエール・ロジェが話の鍵と思われがちですが、この城砦の人間関係を握っているのは、どう考えてもアルセンドなんですよね。自分が生んだわけでもない子どもを二人抱えて娼婦をやっているなんて、もう泣くしかない(笑)。
一同:確かに!
健部:人間関係の矢印が設定されているわけじゃないけど、フィリッパとピエール・ロジェは夫婦なんで、感情的なしこりはあるでしょうしね。
白幡:やってみて思ったのは、意識的に自分の設定を盛り盛りに盛っていかないと、場に流されちゃうなと。
健部:流されますね(笑)。だから最初はあえて強くは設定しませんでした。
岡和田:アルセンドはやりがいのあるキャラクターなのは間違いないでしょうね。『モンセギュール1244』では、女性キャラクターが多めに設定されており、これまでの中世研究や物語ではあまり焦点が当てられてこなかった立場の人たちに注目しているのが面白い点かと。
健部:半分、女性ですからね。
小宮:そういうゲームは珍しいんですか?
岡和田:『モンセギュール1244』は2009年の作品で、私はこの年をポストヒューマンSF-RPG『エクリプス・フェイズ』(新紀元社、新版2022年)、『雛菊の野 「ハーンマスター」アドベンチャー&クイックスタート』(FrogGames、2024年)といった優れた作品が出た年として記憶していますが、やはり、画期的だなと。ごく自然にジェンダー平等を実現するのは、RPGでもなかなかなしえなかったことだろうと実感しています。「中世をリアルにシミュレートしたら、女性の地位が低かったわけだから、女性は虐げられるべきだ」なんてことを主張する人も、世の中にはいるわけですから。
小宮:そうですね。

■史実をどう捉えるか?

岡和田:歴史を改変するのではなく、どこにスポットを当てるかによって、こうした問題をクリアーしているんだなと感じました。あとは子どもの扱いですよね。フィリップ・アリエス『〈子供〉の誕生』じゃないですが、中世の子どもは本当に「小さな大人」なのか、と。
白幡:確かに子供たちの扱いは迷いましたね。
松本:今回のセッションの後半で「子どもだから逃げられるのかも」となるのは、わりと現実でもありそうだなと感じました。そんな記録が残っているかどうかは別にせよ、ありえたという想像力は大事だなと、やりながら思いました。
白幡:僕が訳した『戦場の中世史─中世ヨーロッパの戦争観』(アルド・A・セッティア著、八坂書房、2019年)にもあるんですが、実際の包囲戦では、女性や子どもが逃げてきたら、戦いの役に立たないからと追い返されてしまうんですよね。で、城外で飢え死にする、なんて記録もあります。
一同:なんと!
白幡:そういう史実を知っていると、色々と考え込んでしまいますよね……。
岡和田:ゲームセッションがどの程度、史実に忠実たるべきかというのは悩ましいところなのですが、聖杯とかカタリ派の秘宝とか、「カタリ派伝説」みたいなものもあるわけで、史実の知識を「自分を縛る」方向にばかり使う必要はないと思うんです。
白幡:そこ、面白いですよね。ゲームとしてどんでん返しができるようなものが揃っている。
岡和田:ええ、最初、このゲームを知ったときはまともにプレイできない代物なのではないかと疑ってしまいましたが、ストーリーカードの現物を見て、「これなら行けそうだ」と思ったんですよ。
白幡:平坦な話で終わってしまいそうなところを、ストーリーカードをうまく使えば、話がいい意味でかき乱されますよね。
松本:本当に、よくできてますよね。

■「調べてみよう」と思えるのが学び

岡和田:一方、ゲームマスター的には負担が大きくなると敬遠されがちではありますが、そこはシーンプレイヤーを変えていくことでクリアしていますね。
白幡:だから、「テーブルトークRPGとはこういうものだ」という型が仕上がっていない人の方が楽しめるかもしれませんね。
岡和田:テストプレイでは、この手のゲームが完全未経験の人とも遊びましたが、まったく問題なかったですね。手番が勝手に回ってきますから(笑)。
白幡:「みんなの前であなたの考えたお話を語ってください」というハードルをいったん超えると、すうっと進められるでしょうね。
岡和田:まさしく、近現代の人間が中世をどう受容しようとするかというのがテーマという意味で、中世主義的な作品ですね。しかも、カタリ派という名前は有名でも、その内実には謎が多い。
大貫:異端全般をカタリ派と名指してしまうような用例とも珍しくありませんからね。魔女もそうだし……。そういった文脈をふまえていると、アイデアが尽きることはなさそうですね。歴史をよく知らなくても遊べますが、知れば知るほど、面白くなる作品だと思います。キモはメロドラマ的な導入で、それがあるから、万人がプレイできるようになっていますね。
白幡:これだけ中世の専門家が雁首を揃えているのに、「カタリ派の葬式ってどんなんだったっけ?」と、ぱっと出てこなかった、というのが逆に面白かった。そこで「調べてみよう」と思えることが学びなんですよね。
岡和田:フィクションの作例を見ると。佐藤賢一の『オクシタニア』(集英社、2003年)では、妻が完徳者として出家し、絶望した夫がドミニコ会の異端審問官になるという話が語られていました。
白幡:異端審問官になるのもけっこう敷居が高くて、まず大学を出ないといけない。『モンタイユー』なんかを読むと、一家のなかでも信仰に濃淡があるのがきちんと書かれていて、信仰が薄い人が密告者の側に寄っていくのがリアルでした。そこに嫁姑問題や家同士の対立が絡んでくる、と。事情はけっこう複雑なので、妻が完徳者になってしまう……というのは、けっこうありえた話かとも思います。
岡和田:たまたま参考文献には上がっていないんですが、デザイナーのフレデリック・J・イェンセンは、きっと『モンタイユー』を読んでいると思いますよ。
大貫:それは間違いないでしょうね。このゲームを事例に、中世受容については語れると思うので、またプレイしてみてひとしきり語りたくなる作品ですね。
松本:ぜひ、うちのゼミでも使ってみたいと思います。
岡和田:それでは夜も更けてきましたので、13世紀のカタリ派の人たちにも思いを馳せるのも、今宵は一区切りといたしましょう。
一同:お疲れ様でした~。

(了)