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『モンセギュール1244』リプレイ~中世主義研究会編(11)
岡和田晃
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本リプレイは、中世の異端カタリ派を演じるRPG『モンセギュール1244』(フレデリック・J・イェンセン著、岡和田晃訳、ニューゲームズオーダー)のプレイ光景をまとめ直したものです。連載第10回はこちらに採録されています(https://prologuewave.club/archives/10580)。未読の方は、そちらを先にお読みください。
■厚い霧
ピエール・ロジェ(小宮):じゃあ、こちらのシーンですね。「遠くを見えなくさせる厚い霧」かなあ……。どうしよう、これはフィリッパと何か話しておくべき? ベルナールとはさっき話したから、とりあえずフィリッパと話しましょう。霧のたちこめる朝にでもお話しましょうか。
フィリッパ(松本):フィリッパは棄教すると心を決めてますけどね……。
ピエール・ロジェ(小宮):「いや、俺も棄教するし。結局のところ、似た者夫婦だったんだな」と、ぼんやり思います。「意外と、お前のことを知らなかったなあ。まさか、レーモンがあそこまで腐ってやがったとは」
フィリッパ(松本):「それはお互いさまでしょ。あなたは何も見てなかったのよ」
ピエール・ロジェ(小宮):「でも、お前も何も言わなかったし。夫婦なのに、互いの間に厚い霧が立ち込めているようだったな」
一同:うまい!(笑)
ピエール・ロジェ(小宮):結局、この戦争を通じて色々なことがあって、思いもかけないフィリッパの苦しみが見えたけど何もできなかったな……と思いながら、戦争の最後を見つけます。結局、ピエール・ロジェは信仰のなかでの異端というよりは、「カタギ」の人の異端として生きる感じなのかなあと。そのことを、そっとフィリッパに伝えます。
フィリッパ(松本):「確かに、私もあなたのことをわかろうとはしなかったわね。何があなたをそんなに戦争へと駆り立ててきたのか、最後に教えてくれる」
ピエール・ロジェ(小宮):何かいいことを言わなきゃいけないような圧を感じますが(笑)、そこはピエール・ロジェなんで……。「だって、そこしか俺が輝ける場がなかったからさ。勝てばみんな、俺の力を認めてくれるわけじゃん。いちばん戦争が俺に合っていたんだよ」
フィリッパ(松本):「それを徹底した結果というのなら、いまの状況も仕方ないわね。私は今後は、この子を守るために生きていくわ。さようなら」
ピエール・ロジェ(小宮):「じゃあな。俺は俺で、もう少しばかり暴れまわってやるよ」と。フィリッパとのやりとりだけでシーンを終えてしまったほうが良さそうですね。
■枠が余ってる!
健部:小宮さんのシーンがアクト4の最終シーンだけど、ストーリーカードが1枚、まだ使えますね。
白幡:なら使っていいでしょうか。自分のオチのためにしかならないけど……。
一同:大丈夫ですよ~。
白幡:では、このカードを出します!
◯2. フェリエ
異端審問官
「悔い改めぬ罪人は、ハルマゲドンで神の御元に取り残さるる魂なり」※
フェリエは辛抱強く効率的に、罪人たちに罪を償わせ、神の御元に帰させる。猛攻を受けて捕らえられた罪人は、瀕死の状態となっている。フェリエは異端者の魂を救うことができるのか? きみは、きみの割り当てられたキャラクターを、フェリエの捕虜として選んでもかまわない。
〔※ハルマゲドン後に起きる最後の審判で地獄に落とされる、の意〕
白幡:――というわけで、ガルニエは結局、逃げたと見せかけて出頭しました(笑)。
松本:なるほど!
■エピローグの開始
岡和田:それでは、健部さん、エピローグを読み上げてください。
健部:えっ、俺でいいの?
岡和田:ええ、まだ読み上げをしていないのは健部さんだけですから。
健部:りょーかい。「エピローグ:棄教か、それとも殉教か」
信徒たちは火刑に処される 1244 年3 月16 日
明け方に、まずモンセギュールの城門が開く。十字軍が集結して、ゆっくりと山から降りてくる人々の列を見つめている。若者、老人。子ども、大人。男、女。大きな篝火が焚かれ、まだ暗い山裾を照らしている。火炙りの準備はできているのだ。
火刑台の傍らに、2 人の異端審問官が腰掛けている。生存者の数を書き入れ、彼らに告白をさせている。繰り返し、繰り返し、問いかける声が聞こえる。「そなたは異端の信仰を棄て、慈しみ深い父なる神の許しを受けるか?」と。
岡和田:プレイヤーは自分の手番に、自らの主要キャラクターのエピローグを語ることになります。このエピローグでは、主要キャラクターの運命を明らかにせねばなりません。信仰に殉じて火刑に処されるのか、異端審問官に悔い改めるのか、あるいは夜闇に紛れて逃亡するか、です。少なくとも1 人の主要キャラクターは火炙りとなります。夜闇に紛れて逃亡するキャラクターは最大で1 人まで。プレイヤーはもうシーンカードを引くことはできず、他のプレイヤーがエピローグを語る際にシーンを奪取することはできません。
では、白幡さんからお願いします。
■ガルニエとレーモンの運命
ガルニエ(白幡):はい。要するにガルニエは途中でファイユ、アミエル、コルバと別れました。そして自ら十字軍の異端審問官フェリエに出頭します。なぜなら、彼の目的は最初から最後まで、エスクラルモンドを生かすことにあり、彼女が死を選んでしまった以上、もはや信仰には何の興味もないからです。キャラクターカードには「あなたはどれくらいの間、密かにエスクラルモンドのことを想い続けてきたか?」という質問がありますが、最初から愛していましたし、「あなたにとって信仰にはどんな意味があるのか?」という質問にも答えると、エスクラルモンドが信じていたからガルニエも信じていた、ということにすぎません。
岡和田:レーモンは?
レーモン(白幡):レーモンは……焼けました(笑)。
一同:(爆笑)
レーモン(白幡):火炙りの道を選びました。
■フィリッパとファイユの運命
岡和田:潔いですね。それでは松本さん、どうぞ。
フィリッパ(松本):フィリッパはカタリ派の信仰を捨てて生き延びました。どこに行ったのかはわかりませんが、きっと、強く生きていったと思います。
岡和田:ファイユはどうなりましたか?
ファイユ(松本):逃亡に成功するのは一人だけなんですよね? だったら、弟と私が二人とも生き延びることはできないでしょうから……。
健部:(ルールブックを読む)いや、ここは行けると思いますよ。ルール的には、明らかにせねばならないのは主要キャラクターの運命だけで、弟のアミエルは主要キャラクターではないですから。
岡和田:確かにそう読んでも間違いではないですね。皆さんに異存がなければ……。
一同:異存ありません!
ファイユ(松本):どちらか一人しか生きられないなら自分が犠牲になろうと思っていたのですが、皆さんに支持をいただいたので、弟と二人で聖杯を抱えて夜闇に紛れて逃げ延び、たどり着いたその地で、きっとカタリ派の信仰を誰かに伝えていくことになるでしょう……。逃亡に成功したということであります。
■ベルトランとアミエルの運命
岡和田:次は大貫さんですね
ベルトラン(大貫):ベルトランに関しては、迷うことなく火炙りになります。聖職者として堂々たる態度で、火にかけられます。
岡和田:アミエルの方は? 何か松本さんの解説を補完するようなことがあれば。
アミエル(大貫):アミエルは生き延びて……どうなるんでしょうね。おそらくは、後にル・ロワ=ラデュリが本にまとめたような、モンタイユーの村まで行くことになるんだろうと思います。
一同:ここでそこにつながる!(爆笑)
岡和田:中世主義研究会らしいオチになりましたね(笑)。
■セシルとコルバの運命
セシル(岡和田):セシルは完徳者として、見事な殉教を遂げました。
白幡:問題はコルバの方ですね。
コルバ(岡和田):ええ。コルバは脱出の途中でガルニエの姿が見えなくなったことに気づき、ガルニエが出頭する様子を目にして、自分も出頭しようとするんですが……。そのとき、持っていたまじないの道具を落としてしまい、魔女として火炙りになってしまいます。魔女狩りは中世ではなく近世が最盛期ですが、魔女として火炙りになるのは中世でも行われていましたから。
白幡:確かに!
■アルセンドとベルナールの運命
アルセンド(健部):アルセンドはだいぶ絶望しているので、捕虜になった後、棄教しました。ファイユとアミエル、二人の行方を探して旅に出ますが、無事に再会できたかどうかは歴史の闇のなかということで……。
小宮:おお~。
アルセンド(健部):ちなみに、アルセンドが魔女だというのはぜんぶウソです(笑)。そう思われていたからそう行動していただけです。
一同:(笑)
ベルナール(健部):ベルナールは火刑台に、崇高な態度で登りましたが、最期の言葉は妻の名前で、「これでまた一緒になれるな……」と。ベルナールは不在の間に死刑を宣告されていたのですが、妻が身代わりになって火刑に処されてしまっていたわけなんです。キャラクターカードの質問に答えておくと、アルセンドと寝るときは死んだ妻のことを思い浮かべていたわけです。
小宮:おお~。
岡和田:最後で伏線を回収しましたね~。
ベルナール(健部):いや、たまたまこのタイミングで明らかにしただけで、ずっとそう思って行動してました(笑)。
■エスクラルモンドとピエール・ロジェの運命
エスクラルモンド(小宮):エスクラルモンドは、憧れのセシルさまと一緒に火炙りになりました。
松本:ピエール・ロジェの方がどうなったか気になりますね。
ピエール・ロジェ(小宮):ピエール・ロジェはきれいサッパリ棄教し、あたかも死に場所を探すかのように、「戦争屋」の傭兵として戦場を転々することになります。
岡和田:――というわけで、『モンセギュール1244』、基本ゲームでのセッションはこれで終了となります。ありがとうございました!
一同:おお~。ありがとうございました。(拍手)
■中世主義研究会の活動
ゲームプレイが終わり、次回は最終回として感想戦をお届けしますが、ここで中世主義研究会の活動をご紹介しましょう。
中世主義研究会では、サントリー文化財団による助成「学問の未来を拓く」を受け、「日本の大衆文化におけるヨーロッパ中世主義の受容と展開」と題した全4回のオンラインセミナーを開催しました。研究会のメンバーが、ゲストを交えて講義を行っています。
【第1回】「1970~80年代の日本における中世受容とその知的背景」
講師:大貫俊夫、岡和田晃
【第2回】「アーサー王伝説とニーベルンゲン伝説」
講師:小宮真樹子、山本潤
【第3回】「日本における北欧神話・ヴァイキング文化の受容」
講師:松本涼、健部伸明、小澤実
【第4回】「テーブルトークRPGと軍事史ーゲームの中の戦士・騎士・傭兵・冒険者」
講師:白幡俊輔、高梨俊一
上記の内容は、すべてオンライン・アーカイブを通して視聴することが可能です。
https://www.youtube.com/@MedievalismJP
また、2024年度の西洋中世学会若手セミナーでは、実際に『モンセギュール1244』をプレイできる機会を設けることになりました。ふるってご参加ください。
◆「TRPG で中世を語る・演じる・考える─『モンセギュール 1244』を題材として」
日時:2024年9月28日(土)13:00~17:00
会場:慶應義塾大学三田キャンパス 定員:33名
参加費無料、要事前申し込み
https://www.medievalstudies.jp/general/2024%e5%b9%b4%e5%ba%a6%e8%a5%bf%e6%b4%8b%e4%b8%ad%e4%b8%96%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e8%8b%a5%e6%89%8b%e3%82%bb%e3%83%9f%e3%83%8a%e3%83%bc%e9%96%8b%e5%82%ac%e5%91%8a%e7%9f%a5/
(続く)