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『モンセギュール1244』リプレイ~中世主義研究会編(10)
岡和田晃
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本リプレイは、中世の異端カタリ派を演じるRPG『モンセギュール1244』(フレデリック・J・イェンセン著、岡和田晃訳、ニューゲームズオーダー)のプレイ光景をまとめ直したものです。連載第9回はこちらに採録されています(https://prologuewave.club/archives/10470)。未読の方は、そちらを先にお読みください。
■ファイユが完徳者に
ファイユ(松本):わたしがシーンをセッティングするんですね。ファイユは聖杯をもって逃げることになっているので、救慰礼を授からないと。シーンカードは、「洞窟のひんやりとした暗闇」を出します。
セシル(岡和田):「それはわたくしが。『ヨハネによる福音書』を読み上げてもらって……」これで救慰礼を授け終わりました。
ファイユ(松本):「ありがとうございます、セシルさま。これでいつでも死ねます。しかし、これからどこをどうやって逃げればいいのかしら」
コルバ(岡和田):「その決意は立派ですが、まだ神の御もとに行くのは早いですよ。実は、この城には、完徳者だけが知る抜け道があるのです。あなたは完徳者になりましたから、もう、それを教えてもかまわないでしょう……」
一同(驚いて):な、なんだって~!?
ファイユ(松本):「ありがとうございます、セシルさま。その抜け道が洞窟にあるということですね」と、闇に紛れてここを出ていくことにしますわ。弟のアミエルも連れて行っていいかしら。
アミエル(大貫):「ぼくも一緒に行くよ」と、くっついていきます。
ファイユ(松本):じゃあ、子どもたちは夜を待って、ひんやりとした洞窟を通り外へ出ます。
アミエル(大貫):ここでナレーション権を奪取して、ストーリーカードを使います(「ピエール・アミエル」のカードを出す)。
◯5. ピエール・アミエル
ナルボンヌ大司教
「このサタンの礼拝堂《シナゴーグ》では、無数の堕落した魂が、日々生み出されておる」
ピエール・アミエルは教区で神の言葉を広めるよりも多くの時間を、ローマの法廷で過ごしてきた。今や、彼は十字軍においてカトリック教会を代弁する存在となっている。十字軍内でピエール・アミエルはどれほどの重要人物なのか? 彼はモンセギュールに知り合いがいるのか?
アミエル(大貫):この人は味方になりうると思っていいんですか?
岡和田:それは自由に決めてしまってかまわないんです。
アミエル(大貫):ここでベルトランを登場させていいでしょうか?
岡和田:同じ大貫さんのキャラクターなので、厳密に言えばNGですね。ただ、物語も佳境にさしかかっていますし、他の皆さんがOKならば可ということにしましょうか。
一同:問題ありません!
ベルトラン(大貫):ありがとうございます。それでは、ベルトランが告白を始めます。「実は、完徳者として啓発的な物言いで偉そうなことを言ってきたが……。私は長らく、自分の信仰に疑いを抱く部分があった。ナルボンヌ大司教のピエール・アミエルは古い友人でな。彼とのやりとりのなかで、自分の信仰について、色々な想像をめぐらせてきた。ピエール・アミエルは、“そうした信念のゆらぎのなかにこそ、真の信仰へ通じる道がある”と言ってもらったことがある。彼ならば、ファイユやアミエルを無碍に扱ったりはしないだろう」
ファイユ(松本):「ありがとうございます。ベルトランさま」と言って、紹介状を書いてもらうことにしましょう。それで、夜の闇に紛れていきます。
■ベルトランの旧友
岡和田:順番的に言うと、シーンプレイヤーは大貫さんです。
大貫:あっそうか。じゃあ、わざわざシーンを奪取する必要はなかったですかね。
岡和田:いや、あれはあれで、流れとして美しかったと思いますよ。
ベルトラン(大貫):では、キャラクターカードの2番にある「あなたが自分の信仰を疑うのはどんなときか?」というくだりを詰めていきましょう。「どんなときか?」という問いとは、ちょっとずれるかもしれませんが、同じ完徳者のセシルへ率直に打ち明けるとします。登場キャラクターはベルトランとセシル、シーンカードは、「頬を伝う塩辛い涙」で。
セシル(岡和田):「あなたの迷いは理解できます。しかし、ベルトラン、あなたが信仰を捨ててしまったら、あなたが救慰礼を授けた人も、その人から救慰礼を受けた人も、軒並み聖性を失ってしまうのですよ」
ベルトラン(大貫):「そう、そのとおりだな」
セシル(岡和田):「あなたが救慰礼を授けた人たち、皆が教えを捨てるというなら、止めはしないけど」
ベルトラン(大貫):「いや、死が怖いわけではない。ただ、ピエール・アミエルに子どもたちを託さざるをえないというのは、私たちが肉体のみならず精神の面でも負けてしまうのではないかと思ったのだよ」
セシル(岡和田):「かのナルボンヌ大司教は敵ながらあっぱれ、というところでしょうか。しかも、彼は、カトリックにしては真の信仰(カタリ派のこと)にも通じていますし、カトリックにカタリ派から学ぶべきところを密かに取り入れて自らの信仰体系を打ち立てようとしていると聞きます。そういう意味では、わかり合うことは難しいけど、話が通じないことはないと思います。私たちのところのアミエルと同じ名前ですし。これは神の思し召しかもしれません」
アルセンド(健部):アミエルってヘブライ語起源で、ヘブライ語聖書と関係があるんです。「神に近しい者」っていう含意があるんですよ。
セシル(岡和田):それは知りませんでした。なるほど!
ベルトラン(大貫):あ、本当だ(笑)。
セシル(岡和田):綴りも同じ「AMIEL」なんですよね(笑)。
一同:へえ~。
セシル(岡和田):「それに、ピエール・アミエルが――異端と睨まれない程度であるにせよ――わたしたちの教えから学んでいるのであれば、そこにわたしたちが生きていると言えるではありませんか」
ベルトラン(大貫):「なるほどな……。どちらが正しかったのかは、後々、わかってくることだろう」と、ベルトランは吹っ切れます。「わかった。わたしは教えを捨てず、真の信仰に殉じるとしよう」
セシル(岡和田):「それでこそ完徳者というものです」と、そこで場面を、アルビジョワ十字軍に虐殺されるベジエの町のシーンを入れます。映画のカットバックというやつですね。
ベルトラン(大貫):ベジエって、とにかく住民が殺されまくった場所ですよね。
セシル(岡和田):住民がカタリ派を守って、十字軍への引き渡しを拒んだんですよね。だから、虐殺されたんですよね。
ベルトラン(大貫):「あのときのベジエ市民の犠牲を忘れるわけにはいかない」と、そういうことを改めて思い起こすわけですね。資料的な裏付けがある話なんですが、このとき、ドイツから十字軍が来ているんですよね。で、フランスの十字軍と合流して包囲するんですが、南仏の人は容赦なく殺すんですが、ドイツの方はそれをドン引きして見ていたという逸話がありまして……。
セシル(岡和田):なんとなんと! それは勉強になりました。
■「セシルさま、最高!」
エスクラルモンド(白幡):そこにエスクラルモンドが乱入してきましょう(シーンを奪取)。「聞かせてもらったわよ! セシルさま。ベルトランみたいなフニャフニャしたジジイじゃなくて、セシルさまのような方こそが、モンセギュール砦の精神的支柱となるべきでした」そこまで言うと、剣を手にして襲いかかります。
一同:(爆笑)
ベルトラン(大貫):あまりのことに、呆気に取られてしまいますよ。
セシル(岡和田):では、エスクラルモンドの剣を手で受け止めます。当然、刺されて血が流れるわけですが……。
一同:なんと!
セシル(岡和田):「教えを捨てないと生き延びられないと言われてしまえば、誰だって迷うものです。でも、これもきっと神の思し召し。神を試してはいけません」
エスクラルモンド(小宮):セシルさま、最高!
ファイユ(松本):こうして、ますます関係が深まる(笑)。
エスクラルモンド(白幡):それを聞いて、剣を捨てます。そこでシーンを切ります。
●引き渡されるアルセンド
岡和田:では手番プレイヤーが私か……。シーンカードは「コポコポ音を立てる山の川」にします。それで、脱出しているコルバとファイユ、アミエルとガルニエを登場させましょう。彼らが、コポコポと音を立てる山の川を歩いていく場面ですが、そこに捕虜交換で差し出されようとするアルセンドと鉢合わせします。引き渡そうとしているのは、ピエール・ロジェですね。
ピエール・ロジェ(小宮):「よろしく頼むぞ」
アルセンド(健部):うなだれて、「ううん」とだけ返します。
コルバ(岡和田):私はアルセンドに魔術を教わった恩も忘れて、「まったく、愚かな女ね」と罵倒します。
一同:まさかの悪女ぶり!(笑)
ピエール・ロジェ(小宮):それを聞いて、さすがに黙っていられず、「おい、何言ってるんだ。アルセンドはモンセギュールのために捕虜になってくれるんだぞ」
コルバ(岡和田):「自分の生命が惜しいだけでしょ? だって、魔女なんだから。せいぜい、媚薬を盛られて骨抜きにされているがいいわ」
一同:(笑)
ピエール・ロジェ(小宮):ちょっと、「俺、こんな女(コルバのこと)が好きだったのか」と取り乱します。
コルバ(岡和田):「ピエール・ロジェ。落ち目のあんたになんて、もう用はないのよ」とも言ってのけます。
ピエール・ロジェ:確かに、勝てると思っていた戦に負けてしまったからな……。何も言い返せないピエール・ロジェ。ガルニエをチラリと見ますよ。
ガルニエ(白幡):それを聞いてアルセンドに言います。「結局、他人のことを何とも思わない奴が、長生きできるんじゃないのか。犠牲は無駄だったんじゃないか」
コルバ(岡和田):もうコルバは、ガルニエには媚薬を盛りまくって薬漬けにしているんですよ(笑)。
一同:(大爆笑)
ピエール・ロジェ(小宮):いつの間にっ!?(笑)。
アルセンド(健部):黙っていたんですが、ガルニエとコルバにぼそっと。「ごめんなさいね、良い忘れていたことがあるわ。“人を呪わば穴二つ”という言葉を知っているかしら?」と言って、ニヤリと笑います。そして、捕虜として引き渡されていきますよ。
小宮&松本:怖い……。
ピエール・ロジェ(小宮):怖いけど、いい女だったな(笑)。
ガルニエ:休戦中に勝手に脱出したら拙いので、「ここでお別れだ」と言って、包囲網の隙を突くため、森のなかへと消えていきます。
コルバ(岡和田):では、ここでシーンを切ります。次は健部さんがシーンを設定してください。
■指導者たちの選択
ベルナール(健部):おお、順番こっちまで回ってくるのね(笑)。「腐った馬の死骸の上を飛び回る蝿」を出しましょう。それで、猛々しい私ベルナールの愛馬が戦闘で死んでしまったんで、「もう少しでお前のところに行くぞ」と、一人で悼んでいるところから始まります。誰を登場させようかな(少し考える)。
岡和田:別に、一人で悼んでいるだけで終わってもいいんですよ(笑)。
健部:ひゃっひゃっひゃっ(笑)。←ツボに入ったらしい
ベルナール(健部):でも、それじゃあもったいないので、レーモン、ピエール・ロジェ、ベルトランあたり、モンセギュール砦の偉い人たちが集まっているところに行きましょう。「俺は教えに殉じるつもりだが、ピエール・ロジェ、お前はどうする」
ピエール・ロジェ(小宮):「俺は、信仰を捨てる気でいる。あれだけ交渉を頑張って、なんとか生き延びられる条件が引き出せたわけだから。タイミングが悪くて言い出せなかったが……」
ベルナール(健部):「お前が棄教すれば、棄教する連中が増えるわけだから、みんな助かるんじゃないか」
ピエール・ロジェ(小宮):「そうかもしれないな……」
ベルナール(健部):「お前はクソッタレだったが、クソッタレなりにいいヤツだったよ」
ピエール・ロジェ(小宮):「信仰に殉じて死ぬのも一つのあり方かもしれないが、生き延びて、何らかの形で教えをつなぐこともできるんじゃないかと思うんだよ。生き延びて、なんとか世間に爪痕一つくらいは残してやろうと思っている」
レーモン(白幡):「純粋な信仰の度合いは、身分とは反比例するのかもしれないな」と言います。ただ、レーモン自身は殉教を選びますけどね。
一同:おお~。
ピエール・ロジェ(小宮):「なんだかんだで、お前、そういうところは真面目だよな」
レーモン(白幡):いやいやいや、レーモンは実の娘を孕ませているんですよ(笑)。
ピエール・ロジェ(小宮):「現世の欲望については抗えないんだよな。どうせならクソに徹すればいいのに。そういうところは素直に尊敬するぜ」
ベルトラン(大貫):ベルトランとしては、自分の問題を解決したので、あとは各個人の意思に任せるという構えですね。脱力した状態という感じですね。
ベルナール(健部):モンセギュール砦の指導者たちの身の振り方を聞いて満足したので、ここでシーンを切ります。
(続く)
初出:「FT新聞」No.4201(2024年7月25日)