連作 ミネラル・イメージ
レプリカ飛行石盗難事件
大野典宏
「全く正しいと思いますよ。私は総理大臣なんですから」
――安倍晋三
有名なアニメーション映画「天空の城ラピュタ」に登場する飛行石は、とても魅力的な小道具だ。今や世界中で模したアクセサリがデザインされ、さまざまな形態で販売されている。青いガラスを使ったものでも、有名デザイナーが製作すれば数万円にもなる。中にはフローライトを使用して光を発する製品もあるらしい。
さて、なぜ飛行石の話をしたのかというと、アニメに憧れた中学生の少女二人の間でレプリカの飛行石を巡ってトラブルが発生し、それが警察に持ち込まれたのだが、お互いに主張が矛盾しているので「どっちが本当なのかを判断してくれ」と、職業とはまるで関係のない、あずかり知らない案件なのにもかかわらず話が来てしまったのだ。
本来、こういうのは警察の領分であるはずだ。実際、刑事事件に関して精神鑑定が行われることなどは滅多にないし、しかも一般的にはドクターが行うものである。なぜに一介の臨床心理士にすぎない私に依頼が来るのか、まるでわからない。どうも所轄の警察では、「困ったことが起こったら永谷にやらせろ」とでも言われているのかもしれない。まぁ、既定の料金が入ってくるので、病院としても断らなくなってしまっている。こういうのって癒着と言わないかとも思うのだが、深い詮索はしない。
事の起こりは、少女雑誌の懸賞にどちらかが応募して、ラピスラズリを使った飛行石のペンダントが送られてきたことから始まる。二人のうち、どちらが当選したのかはわかっていないという。出版社の担当は、適当に選んで発送しただけで、誰に送ったのかまでは記録も記憶もしていないのだという。いい加減な話にも聞こえるのだが、少人数で作っている雑誌の読者プレセントではわりとある話なのだそうだ。
で、懸賞で飛行石をもらったのは一人だけ。所有権を主張しているのが二人。これが話を面倒くさくしているわけである。二人とも中学生だし、親御さんは「ウチの子に限って」の一点張りなのでややこしいことこの上ないし、「ウチの子をウソつき呼ばわりするのなら訴える」とのレベルまで行ってしまったわけだ。
■面接 一人目(担任教師)
まずはクラス担任の先生から話を聞くことにした。生徒を守る立場の人から概要を聞くのが適切な順番だろうと考えたのだ。
若い先生で、昨年までは副担任だったが、繰り上がりで初めて主担任になったのだそうだ。毅然とした態度を取ろうとしているのだが、少し落ち着きがないようにも見えた。
私から話を切り出した。
「担任の水田先生ですね。私は永谷と申します。書類によると、私と同じくらいの年代ですね。小学生とかの時、テレビ放送やDVDを観て飛行石に憧れた世代ですね」
「はい。でも、永谷先生のほうが年上なんじゃないかと思いますが」
「そんな感じに見えていますか」
「いえいえ、とんでもありません。私よりも落ち着いて見えるので……」
「職業柄というのもあると思いますけど、それは重要な話ではありません。ところで、飛行石って、やっぱりみんな憧れますよね」」
「そうですね。確かに、ラピュタは私も大好きな作品です」
「しかも、今回はガラスでも水晶でもなく、ラピスラズリを使ったものなので、この商品そのものに夢がありますよね」
「そう思いますね。夢があって良いなぁと私も思います」
「で、ですね。少し調べてみました。このラピスラズリって、古代は特権階級しか持つことや使うことを許されなかったとか、ニューエイジとか称する現代の神秘主義者の始祖とも言えるエドガー・ケーシーが霊的な啓示を受ける際に使ったということで珍重されているらしいんです。貴石というのは不思議なもので、ありがたがる人がいるかぎり、経済的に馬鹿にできない価値を生みます。ラピスラズリに関して言うならば、とある独裁国家が資金源として大量に流したので安くなってしまっているらしいですね。でも、パワーストーンの愛好家とか誕生石にこだわる人だったら、それにいくら出すのかわかったものではありません。中にはラピスラズリこそが最強のパワーストーンだと主張する人までいるみたいですね」
「そんな話は初めて聞きました。私も実物を見ましたけど、デザインとかも綺麗なので、それなりに良い製品だなぁと思いました。ラピュタを観た子なら憧れるんじゃないでしょうか」
「そうなんですよ。これも調べてわかったことですが、群青とかウルトラマリンと呼ばれる絵の具には、ラピスラズリを砕いた粉末を使っていたそうですね」
「そうなんですか。初めて知りました」
「うちの院長先生に聞いたら、高校生の時に観て感動したって言っていましたけど、院長先生が高校生の時って……と思って調べてみたら、ほぼ四十年前に作られた映画なんですね」
「そこまで考えたことはありませんでしたね」
水田先生が少し微笑んだ。こうやって余談で緊張を解いて話を聞き出しやすくするのは「友達作戦」ともいわれる少し卑怯な手段だが、今回の場合には仕方がない。
「ともかく本題に入りましょう。水田先生としては、今回の件をどうお考えなんですか」
「まったくわかりません。こんな大事になるなんて思ってもいなかったし」
「ですよね。普通はここまでのトラブルになるなんて考えもしませんから。では、伺いますが、担任の先生としてどうなさるおつもりですか」
「……もうわかりません。学校の先生方に聞いても、初めてのことなのでわからないとしか言わないし」
「わかりました。では、担任の先生として、当事者おふたりの生徒さんに話を聞くことを許可していただけますか。親御さんへのお願いは私がしてもかまいませんが」
少し長めの沈黙があった。そして、陳腐だけど『藁にもすがる』としか言いようがない態度を初めて見た。
「永谷先生にお任せします」
この一言を引き出すための面接だったので、これは成功したと言っても良いだろう。教師として責任を取るべき範囲を超えてしまっているのだから仕方がない。
■面接 二人目(当事者の一人)
当事者の生徒と面談をすることになった。仮にA子としておく。
「こんにちは。水田先生からは何を聞いていますか」
A子は自信に満ち溢れ、物怖じしたような感じがない。聞いている範囲では、クラスでもリーダー格で、率先して自分の意見を述べ、行動するタイプとのことだ。地元公立学校のクラスなどという、偶然集められた三十人程度の集団では、自然とこういう役割を担う子が出てくる。
A子は、しっかりとした口調で言った。
「飛行石の話で揉めているので、その話を聞きたい人がいるとだけ」
病院の面接室などという場所に入ってきて、初めて会った大人を相手にしてもまったく戸惑いがない。これだけでも自信と気の強さがうかがえる。
さっそく話を始めることにした。
「私は永谷と申します。この病院でカウンセラーをしています。この前、ご担任の水田先生とお話ししました。ご両親にも了解を得て本日来ていただきました。私が何をお聞きするのかはご存知ですね」
「はい。わかっています」
「では、今回の問題と言うか揉め事に関して話してください」
「あれは私の物です。私が懸賞に応募して当たった物なんです」
「それを証明できますか」
「はい。だいたいB子の家はとにかく厳しくて、漫画や少女雑誌を買うことが禁止されているって有名だし。そんな子がどうやって懸賞に応募できるんですか。学級会で問題になった時、この事を言いました。あの子の親が厳しすぎるって、クラスでも有名ですから」
「でも、それが証拠になりますか。懸賞に応募するだけなら本屋さんで立ち読みしてメモを取れば誰でもできるわけだし」
「そうやって『もしも』とか『かもしれない』を考え始めたら終わりませんよ。出版社に発送者の名簿でも残っているんですか」
「それがですね。問い合わせてみたところ、懸賞の送付先って個人情報で残していないんですって。送らないと供出先のスポンサーとの仲が悪くなるからやっているけど、担当者にとっては面倒な仕事なので、やっつけ仕事でしかないみたい。もう時間が経っているから、封筒とか送り状が付いた箱などが残っているなんて私も思っていないし。だから決定的に証明できるものがないんです」
「でも、B子の事情を考えれば、必然的に私のほうが説得力ありますよね」
ここでA子との面接は終わった。
今回の件が面倒くさいのは、親と本人の対面などという目に見えない地域社会の暗黙が横たわってしまっているからだ。だいたい、雑誌の懸賞に出しても問題がないような商品なら、そんなに高価なものでもないだろう。出版社に提供元を聞いて同じ物を購入した方が早く済むと思う。だが、それでは済まなくなっている。メンツをつぶされたからといって命まで取られるのは任侠の世界だけで十分だ。さすがに命のやりとりはないだろうが、ご近所の目などという、とてつもなく厄介な代物がかかってくるとなると引くに引けなくなるだろう。
■面接 三人目(もう一人の当事者)
B子は、気が弱そうで、どこかオドオドしている感じでテーブルの向こう側に腰掛けた。
「初めまして。永谷と申します。本日お尋ねすることは水田先生から聞いていると思います。事が大きくなったのは、普段はまるで自己主張をしないB子さんが半狂乱で泣きわめいたからだそうですね。何が起こったんですか」
「A子や親から私が責められて、私がすべての元凶にされちゃったうえに飛行石まで取られたのが本当に悔しくて、耐えられなかったんです」
「では、懸賞で当てたのはB子さんなんですか」
「そうです。確かに家では私が漫画や少女雑誌を買うことなど厳禁です。でも、A子じゃない他の子から借りたんです。もちろん内緒です。親は私のカバンや引き出し、ノートの中まで見るので、隠すのは大変でした。でも、あの飛行石がとても欲しくなって、懸賞に応募してしまったんです。まさか当たるとは思っていませんでしたけど」
「親御さんはかなり厳しいみたいですけど、それは大丈夫だったんですか」
「なじられました。バカ娘とか、できそこないなんていう普段の言葉が全部出てきました。『そんなことだから成績が伸びないんだ』とか」
「え? ちょっと待ってください。こちらで聞いている限りだと、いつも成績の上位集団に入っているとのことですが……」
「親のメンツって言うやつだと思います。必ず一番でないと怒られるんです。試験の答案用紙を見せても、なんでこんなところで間違えたんだ! 最低の子を持ってしまったって大声で言うんですよ」
「それは酷いですね。今回の件は、雑誌の懸賞だということでも問題になりませんでしたか」
「父親は激怒して、母親は泣いていました」
「よく飛行石が捨てられませんでしたね」
「物に罪はないからだそうです。私の行った事が気に入らないだけなんです。しかも、A子のほうに渡ってしまったら、親は喜んでいました。揉め事を起こした私が悪いんだから、あげて解決するなら我慢しろって」
「それで泣き叫んだわけですね」
「だって、悔しすぎるじゃないですか。A子の集団って、私の家に押しかけて部屋の中を物色するんですよ。配られたプリントをなくしたからといって勝手に持っていっちゃったり、私が持っている本が賞をとって流行しているからと、勝手に持っていっちゃったり。飛行石も箱に入れていたのに、証拠を残さないためか箱ごと堂々と持って帰ったのだと思います。絶対に本人はとぼけて自分の物だと言うだけだろうし」
「それって窃盗ですよ」
「それを訴えてもA子が聞き入れるわけはありません。話を作るんですよ。本棚に入れてあった本がなくなっているのに、『お前の家にある古書籍をまとめてある置き場から持ってきたんだ』とか。捨てる予定の本だといっても、まだ回収場とかには出さずにまとめて置いてある状態なので、それを勝手に持っていくのは問題です」
少し気になったので、ネットで検索をしてみた。なるほど。
「場合によっては自治体の条例違反になる可能性もありますね。親御さんはそれをどう思っているわけですか」
「一言です。『あげれば良いじゃない。だって読んだんでしょ。友達なんだから、それくらい親切にしてあげても良いじゃない』です。もう親には何の期待もしていません」
ああ、これは処置なしだ。B子を親御さんから保護したくて仕方がなくなっているのだが、法的な措置などは取れない。
これ以上、B子から話を聞くのも無駄だろう。大抵の場合、面倒くさい問題の原因には、面倒くさい人間が関わってくるものなのだが、今回の原因はB子ではない。
■反則的な解決
A子は事実上、クラスの支配者で、気が強くて主張が激しく、しかも「自分は何をやっても許される」とすら考えているという根拠のない特権意識に凝り固まっているようだ。これは中学生に限らず、大人になっても同じようなパーソナリティの人が存在するので、世の中から揉め事が消えないのだが……。
その一方でB子が何かを強く主張すると、生意気だとか、ちょっと成績が良いだけのくせに……などと案件とは無関係な理由でネチネチと悪口を言われてしまうので本人も萎縮しきっている。飛行石の件はよほど悔しかったらしく、かなり感情的になって泣き叫んだ結果として、親に知られて表面に出てきただけで、似たようなことは数多くあったに違いない。
実際、警察と教育委員会が行った調査によると、B子に対する嫌がらせは日常化しており、美術の授業で上手くできているとして飾られた作品が壊されても何も言わなかったなど、親の目もあって非暴力を徹底されていたB子に対する物理的・心理的な暴力、嫌がらせ行為などが数多く報告されていた。その一方でB子の方はと言えば、両親は地元にいる成り上がりの有力者なので、親の世間体などという退屈な価値観が最も重要らしく、子供に対しても「問題は起こすな」、「何をされても全部許せ」、「反抗して荒立てるな」との理不尽な家庭内教育が行われていた。かくして「B子は何もやり返さないから、何をやっても良い」という共通の認識ができあがってしまったわけだ。これまで問題が大きくならなかったのは、問題が表面化すると、何の落ち度もないB子本人が「問題を起こした罪」によって親から強く叱責される構図が、クラスどころか学校全体にまで共有されていたからだ。要するに、B子は、親からも、周りからも虐待され、教師は何もしていなかったことになる。
だいたい、近くに生まれついただけで同じ学校に通い、教師の何らかの意図で分類されたクラス分けなどという何の意味もない集団の中で、全員と仲良くするとか、友だちになることなど、しょせんは無理なのだ。生徒間の人間関係を全く考慮していない。これはなんとも無責任な話だ。昨今では、仲の悪いグループを一緒にしてしまったという理由から、再度のクラス分けが検討される時代だというのに……。
そうなると、当然のごとくB子が標的になる。成績が優秀でも、どこか萎縮した雰囲気のある子は、存在するだけで「むかつく」のだ。そこに具体的な理由はない。なんとなく気に入らない、誰ともつるまないというだけで「むかつく」という訳のわからない言葉が出てきて、すべての種類に渡る苦痛を与える大義名分になってしまう。たいてい、中学生くらいの子が使う「むかつく」という言葉は、いわばワイルドカードなのである。
映画「時計じかけのオレンジ」を持ち出すまでもなく、ただ暴れたいからホームレスに暴力をふるう、無意味に動物を虐待するなどといった行為を平気でやってしまう。単独で行うこともあるが、多くの場合には集団でつるんでいるので、全能感に支配されてしまうのだ。
まぁ、殺人までいかなかったのが幸いだが、窃盗は起こっている。これは刑事罰になる。法的には公開された刑事裁判ではなく、非公開の少年裁判になるのだが、罪は罪として残るのだ。
この事態をどうやって回避するのか……。はたして、この話に解決方法など存在するのだろうか。水田先生も頭が痛いに違いない。指導力のなさゆえに、生徒たちとPTAの間で板挟みになり、大きなストレスを抱えてしまったわけで、同情はする。
話は完全に芥川龍之介作「藪の中」のような案件になってしまっている。考えた末に「藪の中」で使われていた方法からヒントを得て、同じような手を使ってみることにした。たぶん当事者二名はスピリチュアル系に弱いと予想したので、パワーストーンを使ったヒーリングを行っている自称霊能力者の役を同僚にお願いすることにした。もちろん、私が書いたシナリオ通りの事を話してもらうだけなのだが……。ようは、イタコ作戦である。
私が書いたシナリオは次の通り。
「ラピスラズリは数あるパワーストーンの中でも最大の力を秘めた石です。持つ者にはとてつもない力が与えられます。しかし、その石を邪悪な方法で手に入れた場合、力は反転します。今日はそのラピスラズリによるリーディングで、あなたの本心を読み取ります。結果がどうあれ、あなた方にはとてつもない心霊的な力がかかりますが、その事だけは理解しておいてください」
私は二人一緒に面接室に来てもらい、このリーディングごっこを行った。私のシナリオでは、「本当の事を話せばパワーが得られる。しかし、大きなパワーを持つ石を持つ際には気をつけてください」と言ってもらうことになっていた。
面接室から出てきた時、A子は即座に「こんな石はいらない」と言い出した。犯人は明らかにクラス内で支持が得られるA子のほうだとわかっていたし、B子の親が口うるさいクレーマーでなかったらウヤムヤにされていたことだろう。ただ、決着は付かなかった。B子のほうも「いらない」と言い始めたのだ。
A子は嘘をついているので、もちろん石のたたりを恐れて「いらない」と言うし、B子も自分の親が何か言わなかったら、たかが千円程度のアクセサリのためにクラス内での環境がさらに悪化する恐怖を感じていたわけだ。
もちろん、A子のしたことが許されるわけではないし、B子に降りかかる環境の悪化など、起こってはならないことだ。とはいえ、人が三人集まれば派閥ができる。二人でも上下関係ができる。面倒な話だが真実だ。対等な人間関係など、しょせんは幻想にすぎない。
さて、そこで宙に浮いてしまったレブリカの飛行石だが、後日、私は密かにB子の元に返した。三度目になるが内緒でB子に面接室へと来てもらい、私が直接渡した。面接室内でこのような会話が行われたことだけは記しておく。
「いいかな。飛行石って奇跡の石だったわけなんだけど、ラピュタの人たちは幸せになれていたかな。大きな力を持つと、それだけで自分が偉くなったような気になって、その力を使っちゃうものなの。結局、ラピュタから人は消えていたし、最後には壊れちゃうよね。飛行石を持っているとわかったシータは、ムスカに追われるし、巻き込まれたパズーも命がけの冒険をすることになるわけ。あの作品だけで何人が亡くなっているのかな。それを考えてみて」
「私は単純に奇麗だな、素敵だなと思って懸賞に応募しただけなのに、こんなことになっちゃうのなら最初からしなきゃよかった……。今は悔やんでいます」
「そうなの。この飛行石は確かに奇麗だけど、今回のような厄介なことにもなっちゃうわけ。だから、この飛行石は元の場所に戻すのが正解だと思うから渡すけど、そんな不幸な目に遭いたくなかったら、持っていること自体を秘密にして。服で隠れるように付けてみるとか。ラピスラズリのパワーは持っている人だけに効くんでしょうけど、周りから不幸を呼び寄せちゃうこともあるわけ。残念だけど、世の中ってそんな仕組みなんだよね。親だってしょせんは他人、友達なんて幻想なの。用心だけはしてね」
「だったら、私はどうしたら……」
「うん、難しい話なんだけど……幸福と不幸は裏表の関係だと知っておいて。だから、最後はシータとパズーが破滅の呪文を唱えたわけでしょ。他人の幸福は妬まれがちだし、それが原因で攻撃されたりすることもあるから、今回の事はよく覚えておいてね」
B子はうなずくと、レプリカの飛行石を大事そうにポケットにしまった。
何とも後味の悪い話だった。
(了)
※参考文献 内藤朝雄、「いじめの構造 ? なぜ人が怪物になるのか」、講談社現代新書。