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『モンセギュール1244』リプレイ~中世主義研究会編(9)
岡和田晃
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本リプレイは、中世の異端カタリ派を演じるRPG『モンセギュール1244』(フレデリック・J・イェンセン著、岡和田晃訳、ニューゲームズオーダー)のプレイ光景をまとめ直したものです。連載第8回はこちらに採録されています(https://sfwj.fanbox.cc/posts/7794701)。未読の方は、そちらを先にお読みください。
■「アクト4:陥落」の開始
岡和田:それでは、いよいよアクト4ですね。これは松本さん、背景文を読んでいただければと思います。
フィリッパ(松本):わかりました。「このアクトでカタリ派の信者たちは敗北を悟り、待ち受ける運命に備える。――1244年3月2日」
モンセギュール城塞の陥落は誰の目にも明らかとなった。ピエール・ロジェは敵と交渉するため、険しい山道を降りていった。包囲を無意味に引き延ばしたいと思う者は誰もなかった。ただ、残された課題は、降伏の条件だった。
ピエール・ロジェは慇懃に迎えられた。彼は、比較的寛大な和平の条件を引き出して戻ってきた。14日間の休戦期間が設けられる。その間、何人たりともモンセギュール城塞を離れてはならない。しかる後、異端の教えを捨てる者は皆、受け入れられるというのである。
約束を違えぬとの保証のため、カタリ派側と十字軍側で、それぞれ捕虜交換が行われる。
フィリッパ(松本):ここで、「フィリッパのプレイヤーは、支援キャラクターから1人、捕虜を選択すること」という指示がありますね。誰がいいでしょうか?
アルセンド(健部):「私が志願するわ。ここにいても焼かれちゃうからね」
フィリッパ(松本):「本当にいいの、アルセンド? あなた、荒くれどものオモチャにされるかもしれないのよ」
アルセンド(健部):「慣れたものだから、大丈夫。それより、ファイユとアミエルを頼むわ」
フィリッパ(松本):「――わかった。あの子たちのことは心配しないで」と、フィリッパはアルセンドに捕虜を任せることに決めます。「あなたのことは、ずっと忘れない」と、強くアルセンドの手を握ります。
岡和田:いい場面ですね。それでは、背景文の続きをどうぞ。
フィリッパ(松本):「休戦の間、完徳者は、儀式を執り行う。夥しい数の信者たちが、救慰礼を授けられ、完徳者に従って死ぬことを選ぶ。死を覚悟した者は、友や家族と別れ、この世につながるものをすべて断ち切る。戦いに破れたカタリ派たちは、待ち受ける運命を直視せざるをえなくなる……」
岡和田:ありがとうございます。ルールに指示はありませんが、「救慰礼」の背景シートが残っているので、大貫さん、読んでくださいませ。
■背景シート:救慰礼(コンソラメンテ)
ベルトラン(大貫):わかりました。「救慰礼(コンソラメンテ)の儀式は2つの場合において執り行われる。完徳者(男性はペルフェッチ、女性はペルフェッチャ)に叙任されるときと、死にゆく人々を清めるときである。いずれの場合においても、儀式は同様の手順で繰り広げられる」と。あとは手順の列挙ですが、以下のような具合ですね。
・救慰礼を受礼するものは、完徳者の前に跪拝する。完徳者は受礼者に名を尋ね、完徳者としての魂のありかたを説明し、そうすることで、受礼者は神の子として受け入れられる。
・受礼者はカトリック教会とその十字架、洗礼をはじめとした神秘的な儀式の放棄を宣誓する。
・完徳者の義務が読み上げられる。罪人を赦すこと。敵を愛すること。片方の頬を打たれたら、もう片方の頬を差し出すこと。人を裁いたり、非難したりしないこと。受礼者はこれらに従うかどうかを訊ねられる。受礼者は「私は義務を胸に刻み、これに従います。神に力を与え賜えと祈りを捧げます」と答える。
・受礼者は罪を告白し、赦免が与えられる。
・受礼者の頭に福音が授けられる。完徳者は、「偉大なる父よ、汝のしもべを王国に受け入れ、汝の恩寵と清らかな魂を授け賜え」と述べる。
・『ヨハネによる福音書』の第1章第1節から、第1章第17節までを読み上げる。
・受礼者は聖なる糸で織られた帯を締めます。
・救慰礼を授けた完徳者は、新たな完徳者に平和の接吻をします。
・アクト4で、殉教を選んだキャラクターには、救慰礼が授けられます。
――と。ゲームなのになかなか本格的に手順が決まっていて、なるほどと思わせられます。
■そろそろ最後の決断が見えてきた……!?
岡和田:ありがとうございました。アクト4はプレイヤーの人数ぶん、6シーンあります。プレイヤーはそれぞれ、休戦のあいだ、シーンをセッティングすることになりますが、もうストーリーカードを引くことはできません。シーンカードを引いたり、それを使ってシーンを奪取したりできるのはこのアクトが最後になります。
ベルトラン(大貫):ストーリーカードを使うことはできるんですか?
岡和田:はい。使用は問題ありません。他のアクトと同じく、2枚までですね。では、白幡さん、シーンのセッティングお願いします。
健部:その前に質問なんですが、エピローグでは主要キャラクターの運命を、殉教か棄教か、夜闇に紛れて逃亡かを選ぶとありますが、そうなると支援キャラクターについてはどうすればいいんですか?
岡和田:特に決まっていないので、無理に選ぶ必要はないのですが、支援キャラクターについても選ぶと盛り上がるでしょうね。ただ、主要キャラクターはエピローグまでの生存が確定していますが、支援キャラクターは話の流れで死んでしまうこともあるわけです。死んでしまったほうがよいような場合もある、というのが正確でしょうが(笑)。
小宮:なるほど……。
健部:ルールパートでは、主要キャラで夜闇に紛れて逃亡できるのは1人だけとありますが、支援キャラは複数逃亡してもいいんですか?
岡和田:おお、ベテランらしい解釈が(笑)。できるといえばできるんじゃないでしょうか。ただ、とにかく生き残らせるよりは、『深淵』じゃないですけど「美しく滅ぶもまたよし」という考え方もありますよね。実際、エピローグの背景文には、「夜闇に紛れて逃亡するキャラクターは最大で1人である」とありますから、1人しか逃れられないとも読めますね。
健部:ええ、わかります。
岡和田:このあたりは、最終的にはプレイグループの同意が取れる解釈を選ぶべきでしょうが……。史実では、焼かれることを選ぶ人が圧倒的なんですよね。もちろん、必ずしも史実に従う必要はないわけなんですけど。
健部:松本さん、フィリッパとファイユでは、どちらが主要キャラなんでしたっけ?
松本:ファイユだったと思います。
健部:了解です!
岡和田:おお、何か面白いことを企んでおいでですね……。
健部:いえ。ファイユには聖杯を持たせるわけですから、ファイユは逃亡ルートで確定だと思っただけですよ(笑)。
岡和田:別に聖杯を、十字軍に見つからないよう埋めたりしてもいいわけじゃないですか(笑)。
ファイユ(松本):誰かに託してでもいいわけですしね。
コルバ(岡和田):とはいえ、私はファイユが聖杯を持つことには賛成なんですよ。
■すれ違う想い
ガルニエ(白幡):では、こちらがシーンをセッティングします。休戦帰還に何をするかというシーンなんですよね? シーンカードは、「積雪が呼び声をかき消す」にしましょう。ガルニエはレーモンの家を訪ねます。エスクラルモンド、フィリッパ、コルバの前が揃っているところに、「エスクラルモンドをオレと一緒に脱出させろ」と説得に来た、と。
エスクラルモンド(小宮):なるほど~。
ガルニエ(白幡):「ここにいたら燃やされて死ぬだけだ。しかし、思い出してほしい。エスクラルモンド、お前の家は領主の一族だ。だから、最低1人は生き残るべきではないかね。オレなら、エスクラルモンドを無事に脱出させてやれる」
エスクラルモンド(小宮):でも、エスクラルモンドとしては脱出したくないんですよ(笑)。完徳者のセシル様に憧れて同じ髪型にしているくらいですから。なんか、いい話を言ったりもしたらしいけど、私はその場にいなかったんですよね。だから、「なぜ逃げなきゃいけないのかわからない……」
ガルニエ(白幡):ぐぬぬ。ここはコルバに説得するよう頼みます。
フィリッパ(松本):「一族で1人というなら、私が生んだこの赤ちゃんでもいいじゃないの。その方が連れて逃げやすいでしょ」……まあ、父レーモンとの近親相姦の子どもではあるんですが。
コルバ(岡和田):「エスクラルモンド、あなたは救慰礼を受けるんでしょう?」
エスクラルモンド(小宮):「受けますわよ、もちろん! 清らかな身体になって死ねるなんて、なんて幸せなことなんでしょう!」
コルバ(岡和田):「だったら、一緒に逃げなくてもいいんじゃないかしら」
一同:説得してない~!(笑)
コルバ(岡和田):「代わりに、私なんてどう?」
ガルニエ(白幡):「この家から1人でも救えるなら、オレは誰だってかまわないよと、コルバで連れ出しましょう」
フィリッパ(松本):コルバは領主の家系じゃないのに、いいのかしら(笑)。フィリッパは赤ちゃんが大事なんです。
コルバ(岡和田):コルバが赤ちゃんを連れて行ってもいいんですよ(笑)。
ガルニエ(白幡):フィリッパ的にはどうなんですか?
フィリッパ(松本):コルバ1人じゃなくて、子どもはせめて連れて逃げてほしいと思っているんです。
ガルニエ(白幡):では、ガルニエは頷いて、コルバと赤子を連れていきます。
コルバ(岡和田):でも、コルバは虎視眈々と、その赤子を手にかける機会を狙っていますよ(笑)。
一同:なんで~!?(笑)。
コルバ(岡和田):うーん、だんだんコルバが悪い奴になってきましたね……(←完全に自分のせいである)。
■雪原へ
ベルナール(健部):シーンを奪取して乱入します。「オレはこの城塞と運命をともにするつもりだが、全員がそうなる必要はない。悪いこと言わないから、生命が惜しい奴は棄教しろ。そうすれば助けてくれるって。連中は言ってるぞ」
ガルニエ(白幡):では、ガルニエはそれを聞いて、エスクラルモンドにもう一度だけ訊ねます。「信仰を捨てて、助かる気はないのか?」
エスクラルモンド(小宮):「ないわ。セシル様と一緒に死ねるなんて、こんな幸せありませんもの」
ガルニエ(白幡):これは……アカン(笑)。
エスクラルモンド(小宮):本当に、ガルニエはなんでこんな娘に惚れたんでしょう(笑)。エスクラルモンドはもう死ぬ気でいますから、「逃げる? なんで? 意味がわからない」と思ってます。
フィリッパ(松本):「私は自分とこの子(赤子)が助かるのが大事だから、棄教するわ」……この流れだとそうなるでしょうね。棄教したら赤ちゃんは助けてもらえるんですよね?
健部:一応は、カトリックの側に組み込まれるわけですからね。孤児救済の対象になったりすることはあるのでは?
岡和田:それなりに嫌な思いはするかもしれないけど、親が赤ちゃんも改宗させると言えば、すぐに殺されることはないと思います。
フィリッパ(松本):では、フィリッパはきっぱり教えを捨てます。
コルバ(岡和田):一方、コルバはガルニエの食事に媚薬を盛ろうとして……(笑)。
一同:なんで~!?(爆笑)
エスクラルモンド(小宮):コルバは出番が少ないのに、やることがいちいちエゲツナイ(笑)。
ガルニエ(白幡):では、城には必ず抜け道があるので、ガルニエとコルバは積雪に覆われた雪原の方へ足を踏み出す、というところでシーンエンドです。コルバの別れの声が、積雪に消えていきました。
松本:(感心して)おお~。
健部:でも、ガルニエが逃げると、ファイユが逃げられなくなるかもしれない。
ガルニエ(白幡):大丈夫です。ガルニエは途中で死なせるつもりですから(笑)。
一同:爆弾発言!(爆笑)
岡和田:まあ、そうは言ってもどうなるか、最終決定はまだ先でかまいませんよ。
一同:ふう、一安心です(笑)。
(続く)
初出:「FT新聞」No.4131(2024年5月16日)