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『モンセギュール1244』リプレイ~中世主義研究会編(5)
岡和田晃
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本リプレイは、中世の異端カタリ派を演じるRPG『モンセギュール1244』(フレデリック・J・イェンセン著、岡和田晃訳、ニューゲームズオーダー)のプレイ光景をまとめ直したものです。連載第4回はこちらに採録されています(https://prologuewave.club/archives/10244)。未読の方は、そちらを先にお読みください。
■ホームドラマの開始
岡和田:いま、健部さんが引いたストーリーカードは、アクト2の最後、小宮さんにナレーション権が移ります。シーンカードを選んでください。
小宮:ここは「鉄錆のような血の味」で。
健部:こわっ!(笑)
小宮:だって、並んでいるカードが全部不穏なものばかりなんですもん(笑)。今まではピエール・ロジェのクズっぷりが際立つような場面ばかりでしたが、ここは別の人も登場させたいなと。いまは夜でしたよね……。
健部:別に、朝にしてもいいんですよ。ナレーション権のある人は、何をしてもいいんです(笑)。
小宮:なるほど! それでは、ファイユとアルセンドのホームドラマが見てみたいですね。アルセンドはその前の晩に面倒な話し合いに巻き込まれて、疲れているかもしれませんけど。
アルセンド(健部):おっしゃるとおり、疲れていますよ。話し合いというより、仕事柄ね。
ピエール・ロジェ(小宮):俺が前夜にアルセンドのところへ行ったからな(笑)。
アルセンド(健部):ピエールはね、ストレスが高まると、決まって私のところに来るんですよ(笑)。
岡和田:ということは、このままピエール・ロジェもシーンに登場するということでOKですか?
ピエール・ロジェ(小宮):いえ、このところ出ずっぱりだったので、ちょっと引っ込んでおきます。
岡和田:わかりました。こんな具合に、ナレーション権のあるプレイヤーのキャラクターを、別段、シーンに登場させなくてもいいんですよ。
アルセンド(健部):朝ごはんを作ろうとするんだけど、ピエール・ロジェのせいでろくに寝られていないので、だいぶやつれています。
ファイユ(松本):じゃあ、慣れた手つきでそれを手伝います。
アルセンド(健部):「ごめんね。アミエルに後で言っておいてほしいんだけどね……。つい私が手をあげちゃったのは、男どもはすぐに戦争に行きたがって、みんな死んじゃうからなの。私は、アミエルをそんな目に遭わせたくない」
ファイユ(松本):「ええ、わかってるわ」
アミエル(大貫):アミエルは昨日泣きまくったので、ものすごく腫れた目をしながら、眠そうに起きてきます。それで、アルセンドに「昨日はごめんなさい」と言います。
アルセンド(健部):「あなたが謝ることじゃないわ。私はあなたに死んでほしくないだけ」
アミエル(大貫):神妙な顔をしてご飯を食べています。
アルセンド(健部):バツが悪いんで、洗濯に行きます。
■「鉄錆のような血の味」がしたのは……!?
アミエル(大貫):いきなり、ファイユに訊いてみましょう。「お姉ちゃんは、最後にお母さんを見たのはいつなの?」
ファイユ(松本):「あなたがまだ、赤ちゃんだった頃よ。戦いのなかであなたを逃して、そのまま死んでしまったのよ」
アミエル(大貫):「どうして僕たち、いつもこんなに戦ったり、襲われたりしているんだろうねえ」
ファイユ(松本):「さあね、わたしにもわからないけど、ここの人たちは自分たちが正しいって言っているから、きっと相手の方が間違ってるんだわ」
アミエル(大貫):「そうなんだねぇ」
ファイユ(松本):「アミエル、あなたはお父さんのこと、憶えてる?」
アミエル(大貫):「ううん、でも、すごく逞しい腕をしていたことだけ、なんとなく記憶にあるんだ」
ファイユ(松本):「そうなのね。お父さんみたく強くなりたいってことかしら」
アミエル(大貫):「お父さんもそうだけど、ピエール・ロジェおじちゃんみたいに強くなりたい」
一同:(爆笑)
ピエール・ロジェ(小宮):俺、子どもに慕われてるんだ(笑)。
ファイユ(松本):「ピエールおじさん、タフそうだもんね。仕方ないよね(苦笑)」
白幡:「鉄錆のような血の味」はいったいどこに(笑)。
松本:そんなのありましたね(笑)。
岡和田:ルール的には、こじつけでもいいので、どこかで「鉄錆のような血の味」を出さないと駄目です。
ファイユ(松本):では、朝ごはんで食べたソーセージが「鉄錆のような血の味」がしたということで(笑)。「ちょっと、このブラッドソーセージ生臭いけど、美味しいわね」
一同:そう来たか~(爆笑)。
小宮:ファイユがちょっと、サイコキラー的な発言を(笑)。
岡和田:これは伏線かもしれませんよ(笑)。
ファイユ(松本):「ほら、アミエル、大きくなりたいんなら、ちゃんと食べないと駄目よ」
アミエル(大貫):「このソーセージ、僕にはあまり美味しくないけど、強くなるためには……(もぐもぐ)」
小宮:ホームドラマに「血の味」カードなんて出してすみません。ここでカットします。
□アクト2:過酷なる冬
岡和田:これでアクト1は終わりです。アクト2はベルトランが活躍する箇所が多そうなので、大貫さん、読み上げをお願いします。
大貫:それでは、読み上げます。「このアクトでは、当初予期していたよりも、状況はいっそう悲惨だと知る。――1243年11月」
一同:おおお!
大貫:「十字軍の兵士たちは、モンセギュール砦に釘付けになることは、当初予期していたよりも、いっそう過酷ということに気づく。
包囲戦は冬まで続く。増援部隊と補給が必要とされる。敵は大義名分を掲げ、人を寄せ付けない風景のただなかで、冬を越す覚悟を決めた。
この決定はモンセギュール城塞の人々にとり、決して朗報とはいえなかった」
岡和田:ここでベルトランには背景シートの「信仰」を渡しますので、内容を読み上げてください。
ベルトラン(大貫):しん……こう、わかりました、これですね、読み上げます(以下。長文のため独立したセクションとして表記する)。
□背景シート:信仰
カタリ派の人たちは、自分たちをカタリ派と呼んでいるわけではない。集団とみなす必要のある場合には、単に自分たちを帰依者《アミクス・ド・ディウ》と呼ぶ。
カタリ派の信仰はキリスト教の正統に逆らうものだ。というのも、彼らは旧約聖書で描かれる神、世界の創造主とはサタンであると信じているのだ。あらゆる人間には聖なる魂が内在しているものの、肉体という物質に囚われてしまっている。人々が食事をするとき、性的な交わりを持つとき、血や体液に触れるとき、物質世界の悪に穢れに犯されるとみなすのである。
結婚や子作りも望ましいものではない。子供とは悪魔である。正しい生き方を自覚的に選んではじめて、彼らの魂は救われるのである、それまで彼らの魂は、単に地上の牢獄へ囚われてしまっているのだ。
禁欲を貫く清らかな生活、祈り、節制によって、人々は自分たち自身を清めようとしている。大多数の者にとり、これは不可能な課題である。だが、うまくすると、肉体が滅んだときに魂は新たな地上の牢獄のもとで再生するのだ。ごく少数の、戒律に向き合う覚悟ができた者らは、完徳者《ペルフェッチ》(男性信者)または完徳者《ペルフェッチャ》(女性信者)となる〔訳注:厳しい戒律に縛られるのは完徳者だけで、一般の信者は兵士として人を殺そうが妻帯しようが拒否されることはなかった。しばしば差別された「高利貸し」や「食肉加工業」の人も、カタリ派では受け入れられた。「この世はすべて悪だから、いかなる貴賤も存在しない」という考えが基礎にあったからである〕。
■ストーリーカードの導入
岡和田:ありがとうございます。それではアクト2の続きをお願いします。
大貫:「1244年1月初旬まで、戦局は何ら決め手を欠く。冬至が過ぎる。子どもが生まれる。老人や身体の弱い者が病を得て、死亡する」
岡和田:はい、それではアクト2が始まりますが、これまでとの違いは、3シーンしかないということです。アクト1は6シーンでしたから、その半分ですね。また、皆さんの手元にあるストーリーカードを望めば使うことができます。シーンカードの内容は、あくまでも仄めかしにすぎませんが、ストーリーカードには、よりダイナミックな内容が書かれています。
小宮:NPCやアイテムなんかが書かれているわけですよね。
岡和田:ええ。ただ、使用回数に上限があって、1つのアクトで最大2枚まで。これは1人でではなく、参加者全員で、です。なので、どれを使い、どれを取っておくのかは、きちんと考えておく必要があります。
健部:ストーリーカードはどのタイミングで使えるの?
岡和田:基本的にはナレーション権があるときですね。自分にナレーションがないときは、これまで選択し終えて手札にあるシーンカードを使ってナレーション権を奪取せねばなりません。
とはいえ訳者としては、『モンセギュール1244』は協力型ゲームなので、別に奪取を連鎖させずとも、プレイグループ内で話し合って同意を得れば、ナレーション権がないときに使ってしまってもよいのではないかと思います。
それではナレーション権が白幡さんに移って、アクト2のスタートです。
■カタリ派は火葬か土葬か?
白幡:読み上げ文にあったので、実際に籠城中の老人が、病で死んだことにしましょう。レーモンは疫病を防ぐために焼くべきだと考え、その準備をしています。そこに、完徳者の女性であるセシルと、ベルトランが出てくることにします。その他、希望するキャラクターは適当に入ってきてください。
岡和田:カタリ派って火葬と土葬、どっちなんでしょうね。
大貫:どっちなんでしょう(笑)。
白幡:研究室に置いてある、『モンタイユー ピレネーの村』(エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ著、井上幸治・渡辺昌美・波木居純一訳、上下巻、刀水書房1991)が手元にあれば調べられるのに。
岡和田:ちょうど『モンタイユー』は、近しい地域でのモンセギュール陥落の後の時代を、社会史と小説を折衷したようなスタイルで扱っていますものね。
松本:私もすぐに思い出せないんですが、カタリ派って、肉体を取っとかないといけないという思想なんですかね。
岡和田:そうではないと思いますが……。翻訳のメイン資料で使ったアンヌ・ブルノン『カタリ派 中世ヨーロッパ最大の異端』(池上俊一監訳・山田美明訳、創元社2013年)には、実は詳しい記述がないんですよね。渡邊昌美『異端者の群れ カタリ派とアルビジョア十字軍』(八坂書房2008)には、異端とみなされた者らが、野ざらしにされる記述があります。見るに見かねて埋めたとか。
白幡:思い出した、確か、鳥葬じゃないけど、死が近づいたら山のなかに入って、勝手に死んじゃうんですよ。
大貫:ああ、ありましたねぇ。
松本:それだったら火葬にも抵抗なさそうですけどねぇ。
レーモン(白幡):だったら、それについてレーモンが、二人の完徳者に意見を求めることにしましょう。ここは学会じゃないんで、物語的に盛り上がる方を採りたい。
一同:うまい!
レーモン(白幡):「完徳者のお歴々よ、遺体を焼いてしまうことは、善きことなのか、それとも悪しきことなのか教えてはくれまいか」
ベルトラン(大貫):「そなたもわかっておろうが、我々はこの肉体を、魂の牢獄だと捉えておる。なので、この肉体に執着する必要はまったくない。ゆえに、その老人を焼いてしまっても、まったく問題なかろう」とはいえ、実際どうだったのかは調べないとわかりませんが……(笑)。
レーモン(白幡):「しかし、私が気になるのは……普段ならば死んだ亡骸は野に放たれてなすがままに任されます。そこに神のご意思が介在するはず。けれども此度は、人間の力で焼こうとしている。そこに引っかかりを覚える。それについて、どう思われるのかな」
セシル(岡和田):「確かに、人の手で人を焼くのは、ドミニコ会の異端審問官らが気に入らない者らを異端だと言って焼き払うのに、よく似ていますね。ですからレーモン殿の危惧も、一理あります。そこでわたくしは、モンセギュールの山頂に運び、鳥や狼の食糧とすることを提案しましょう。なぜならば、鳥や狼も、わたくしたちの仲間の生まれ変わりだからです」カタリ派って転生思想を信じていて、徳が高いと生まれ変わるときに、より高位の存在になれて、徳が低いと動物や虫になっちゃうんですよね。
ベルトラン(大貫):東方の影響を感じさせますね。「セシルがそのように言うなら、私もそうしてかまわないと思う」
■スーパーハイテンション!
セシル(岡和田):ここで私が試しにシーンを奪取します。手元のシーンカード「乾いた汗のすえた臭い」を使って、ストーリーカードをオープンにします(開く)。
小宮:おおおお、「聖杯」のカードじゃないですか! アーサー王伝説研究者の血が騒ぐ、もう『ドラクエⅧ』のスーパーハイテンションですよ!
一同:(笑)
セシル(岡和田):カードを読み上げます(以下、内容を示す)。
○15:聖杯
モンセギュールの秘密
「こはイエス・キリストの血……」
モンセギュールには、ごく少数の者のみが知る秘密が隠されている。それは本物の聖杯なのか? イエス・キリストとマグダラのマリアに関した聖遺物なのか? アクト4において、この聖杯は別の場所へ移さねばならない。だが、モンセギュールから離れたことが発見されてしまえば、休戦協定は破られ、捕虜は死ぬ羽目になってしまう
このキリストとマグダラのマリア云々というのは、『ダ・ヴィンチ・コード』に出てくるネタですね。
そして、この聖杯はセシルだけが知っている隠し場所に埋められているとします。そろそろ、誰かに持ち去られないように、亡くなった老人を野ざらしにしに行くかわりに、聖杯を持ち帰ってきます。
ベルトラン(大貫):なるほど……。
アルセンド(健部):この「乾いた汗のすえた臭い」のシーンは演出しないと駄目なの?
セシル(岡和田):いえ、単にカードを出すだけでいいと思います。でないと、同じような場面が繰り返されかねませんから。単に聖杯を出したかっただけなので、ここでシーンを切ります。
レーモン(白幡):短い(笑)。
セシル(岡和田):はい。セシルだけのシーンですね。
(続く)
初出:「FT新聞」No.4012(2024年1月18日)