「終末の波が世界を拭えば」片理誠

 はい、もしもし、やぁ、久しぶり。急にどうしたの? え? あぁ、それで心配して連絡してくれたのか。
 いや、特に変わりはないんだよ。ただ、パソコンが飛んじゃってさ。うん、そうなんだ、またなんだよ。で、しばらくSNSからは遠ざかってたってわけ。
 まぁこうしてスマホはあるわけだから、更新しようと思えばできなくはなかったんだけど、どうもおっくうでね。あのフリック入力ってやつが未だに苦手で。パソコンのキーボードに慣れちゃってるからさ。
 うん。新しいパソコンは買ってきた。後は、ちょっとした設定をするだけだから、もうすぐネットに復帰できるよ。
 しかし、数日SNSを留守にしただけで、こうして心配してもらえるなんて、ありがたいね。ネットワーク様々だよ。
 それにしても、パソコンも壊れやすくなったよねぇ。俺が最初に組んだマシンなんて十年以上は平気で動いてたけど、今じゃ五年保てばって感じだもんなぁ。そう言えば、メーカーの保証期限が過ぎた途端に飛んだのもあったっけ。なんかねぇ、実に良くできてるよなぁって思っちゃうよねぇ。まぁ、こっちの一方的な被害妄想なんだろうけど。
 でも結局さ、計算機の性能もどんどん上がってるじゃん、それも凄まじいスピードで。高性能になればなるほど、熱を出すようになるらしいよ、コンピュータって。でも基板とかチップとかって、熱に弱いんだってさ。だから、何かそういうのも関係あるんじゃないのかなって思うんだけどね。うん。ホント。永遠に壊れないパソコンを作って欲しいよね。
 でもそう考えると、結構気が遠くならない? だってさ、今こうして、お互いにスマホで会話してるわけだけど、それぞれの手のひらの中に、いったい何千、何万のパーツがあるんだろう? CPUやGPUだけだって、きっととんでもない数の部品でできているんだと思うよ。
 そういう凄まじい数の構成要素の中のどれかが壊れたらさ、壊れた箇所によっては、もうまともに動かなくなっちゃうわけじゃない?
 しかも俺たちのこの会話を実現しているのは、スマホだけじゃないんだよ。俺たちのスマホとスマホの間には、アンテナだったり、基地局だったり、ネットワークセンターだったりと、様々なもんが沢山挟まってるんだ。これらが全部、問題なく動いているから、こうして普通に話せてるんだよ。
 これらの中のどれかが壊れたら、って思っちゃうよね。うん、まぁ、そりゃプロのエンジニアたちはもちろん、各マシンやパーツの信頼性もきちんと計算した上でネットワークを組んでるんだろうけどさ。
 でも知ってる? 宇宙から降り注ぐ放射線、宇宙線て言うらしいんだけど、そいつのせいで、電子機器って誤作動することがあるらしいよ。
 それどころか、電磁パルスって言う強力な電磁波を浴びると、電子機器って壊れてしまう場合もあるんだとか。これは大規模な太陽フレアなんかで発生するそうなんだけど、凄くない? コンピュータが全部壊れてしまったらと考えると、結構ゾッとするよね。
 もしも、もしもだよ、世界中の電子機器が一瞬で、全部壊れてしまったら、地球はどうなるんだろう。
 だってさ、元に戻そうと思っても、例えば今のCPUなんて、人間が直接、手で作れるようなもんじゃないだろ? 専用の製造機が必要なはずだよ。で、その製造機を制御するためには、やっぱりコンピュータが必要になるじゃんか。つまり、半導体を作るためには半導体がいるんだよ。ところが、その半導体が一個もないわけ。さぁ、どうなる?
 歴史をもう一回繰り返すしかないのかな。でもコンピュータに関する膨大な量の設計図とか資料とかって、今は全部、電子化されてるんじゃないの? それらは当然、読めないよね。
 フレドリック・ブラウンの短編に、世界中から電波や電気が消えてしまうってのがあったけど、それに近いことが起きるのかもね。もっとも、そんな凄まじい太陽フレアはそういつまでもは続かないだろうから、いずれは全てが復活して、元通りの日常になるんだろうけどさ。
 でもどうかな。戻れたとしても凄く時間がかかるだろうから、その間に人類に何が起こってもおかしくないよね。それに、例えば小説の原稿だってさ、一回全部消えちゃった後にもう一度書き直しても、たぶん以前のとまったく同じにはならないと思うんだよ、プロットは一緒でもさ。だからコンピュータの歴史も、寸分違わぬものにはならないんじゃないかな。どう変わるんだろう? ちょっと見てみたい気はするよね。
 うん。そりゃ、まぁね。少なくとも今はまだ人類は一度もそんな経験はしてないよ。そこまで凄まじい電磁波が本当に起こるのかなんて、俺にも分からないけどさ。でも太陽や宇宙のことなんて、まだまだ分からないことだらけなんだろうし、万が一、もしかしたらってことはあるんじゃないのかな。
 え? いや、もちろん、これはあくまでも“もしかしたら”の話だよ。そんなことが本当に起きるはずはな