「『モンセギュール1244』プレイガイド〜準備編〜」岡和田晃

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『モンセギュール1244』プレイガイド~準備編~

 岡和田晃
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 中世カタリ派をプレイするモダン・ナラティブRPG『モンセギュール1244』の発売からしばらく経過し、私や版元が予想していたよりも、売れ行きは上々。ご愛顧に感謝します。オリジナル・デザイナーのウェブログでも紹介されました(https://thoughtfuldane.com/2023/07/29/montsegur-in-japan/?amp=1)。
 「『モンセギュール1244』って何?」と思われる方は、2023年6月29日配信の「FT新聞」No.3809掲載、「『モンセギュール1244』がやって来た、ヤァ! ヤァ! ヤァ!」(https://prologuewave.club/archives/10128)をご一読ください。

●完結した製品でも、やっぱりサポートは必要

 『モンセギュール1244』は、製品としては基本ルールに、後に追加された拡張セットや今年出た英語版第2版での変更点を盛り込んであり、ワンボックスで完結した仕様になっています。
 そこで今後はシステムが共通し、別の時代背景やテーマを扱うフォロワー作品の翻訳も行っていきたいと考えていますが、その前に、新しいスタイルの作品ですので、「FT新聞」のご厚意で、プレイのためのサポートを配信していきたいと思います。
 なお、この記事はあくまでも、翻訳者・岡和田個人の試行錯誤を参考として示すもので、ユーザーの方のスタイルを束縛するものではない、ということをお断りしておきます。

●歴史背景についての知識はどれくらい必要か?

 『モンセギュール1244』に興味を持った人が、一度は直面するだろう悩ましい問題です。西洋史に関心がある人であれば、カタリ派は必ず耳にしたことがあるはずで、高校世界史のレベルでもアルビジョワ十字軍にからめて言及があります。
 その意味で、カタリ派に言及した文献は多数存在するものの、フィクションの題材としてはマイナー扱いされがちです。ゆえに、どの程度知っておけばよいかという問いに対して、万人を納得させられるような正解はありません。
 気心の知れたプレイグループ内であれば、おそらく中世風ファンタジーRPGの延長線上でプレイしても、さほど問題ないものと思います。『モンセギュール1244』は字義的に厳密な「史実」だけではなく、聖杯伝承や魔女の術のような、カタリ派にまつわる伝承をも作中に取り込んでいる作品であるからです。
 もちろん、ファイアボールやマジック・ミサイルが飛び交うわけではありませんし、死者は通常、よみがえることはありません。そのことはしっかり念頭に置いておきましょう。
 ただ、未知の人を巻き込んだセッションともなると、参加者のうち、場を仕切る人(おそらくは製品を買った人でしょうが)については、ある程度の背景知識を持っておいたほうがよいかもしれません。そうでなければプレイできない……というわけではなく、現代の倫理観において、何がセンシティブで何がそうでないかを見分けるためには、現代との共通点と差異を、自分のなかで整理できるようにしておいたほうがよいからです。
 最良のテキストは、ルールブックに付属し、公式サイトでも公開されているエジオ・メレガの「『モンセギュール1244』の歴史的背景に関する補足」でしょう。単に時代背景の解説だけではなく、キャラクターカードやストーリーカード、シナリオ進行とリンクした内容になっているからです。
 けれども結構な分量があるのも事実です。幸い、カタリ派やモンセギュール城塞そのものの設定は、背景シートに明記されており、それが担当プレイヤーにあらかじめ渡されます。他の参加者にも徐々に開示されていく仕組みになっているので、自分なりの結論を出さないままにプレイするのでも問題はありません。むしろ「カタリ派の信仰とは何だったのか?」というのは、まさしくゲーム・セッションを通じて考究すべきテーマですから、あらかじめ結論を出さないほうがよいくらいです。
 むしろ、参考にすべきは、中世における生活感覚でしょう。「『モンセギュール1244』の歴史的背景に関する補足」において、【物語】として区分されたセクションを熟読しておきましょう。ただ、分量が多いので、どこから読めばよいか当惑する方もいらっしゃるかもしれません。そこで、特に重要と思われる戦争(=非日常)と、日常について記した箇所を、抜粋・要約という形でご紹介しておきます。抜き刷りをサマリーとし、参加者とあらかじめ共有しておくのもよいかもしれません。

【物語】中世の戦争:包囲、襲撃、強奪
・戦争と包囲は、『モンセギュール1244』の出来事の背景を形作るもの。男性キャラクターのほとんどは戦士で、戦があるからこそ仕事になります。戦争は儲かるものだったので、伝統的には暴力と結びついていなかったような人々も、ここに参入しようとしていました。
・中世の初期から後期に至るまで、戦争とは仕事で金銭を稼ぐ手段でした。戦争は本職の戦士が闘うもので、一般市民が武器を取ることは稀でした。最も高貴な騎士ですら、戦場での略奪行為を軽蔑などせず、敵をすぐ殺すのではなく捕虜にして後で身代金を要求していました。
・中世の戦争を、相対する2つの巨大な軍勢の激突のようなものと考えてはなりません。軍隊は小規模で、ばらばらな数千人の男性からなり、規律はなく組織化もされてはいませんでした。

【物語】『モンセギュール1244』での日常
・中世の経済で回る生活物資は最低限のもので、資源と労働力は生活に必要なものを生産するのにギリギリ足りている程度でしかなく、余剰はほとんど、あるいはまったくありませんでした。
・実質的にプライバシーはなく、とりわけモンセギュールのような(防衛を目的とした城という)場所ではそうでした。
・カタリ派信徒の家々は、100平方メートルほどの床面積があり、3階建てか4階建てで、丘の斜面に寄りかかる形で建てられました。部屋は非常に小さく、窓はほとんどなかったので(ガラスは贅沢品でした)暗く、冬の間は脂でなめした獣皮で覆われ、人々や動物はそのなかで暮らし、補給物資も収められていました。
・武器や食料といった価値のあるものは、城塞に保管されていたものと思われます。貯水タンク、腐敗しやすい食料、財宝は地下に、貯蔵庫(酒や食料等の保管場所)は1階に、出入口は2階といった具合に(格納式のハシゴからしか出入りできないようになっていました)。そしてみなが食べ眠り働く共同部屋がありました。動物は人々とともに生活していました。
・銀貨はいくらか流通していたかもしれませんが(トゥールーズ伯かアラゴン王が鋳造させたものです)、稀でした。貨幣は、このコミュニティの外部で暮らす人間のために取って置かれました。
・日用品や戦士の武器についても、同じく余分なものはまるでありませんでした。衣服は実用を旨とし、亜麻や羊毛や麻で作られました。
・毎日の生活は、日の出と日の入りによって区切られました。1日は12時間ずつに分けられ、昼夜の長さは季節によって変わりました。城塞には鐘があり、これを使って節目となる時間、例えば昼食や宗教的な奉仕の時間を共同体へ知らせました。
・貴族と他の要人は別のテーブル(ハイテーブルで、文字通り他よりも一段分高くなっていました)で食事をとりました。犬はどこにでもおり、餌を求めて吠え、人々が床に投げ棄てた残飯を巡って相争いました。貴族の食事と平民のそれと一線を画すものにしていたのは、メニューの種類でした。ハイテーブルには、確保できればワインが連日のように供され、肉が出てくるのも普通でした。これに加えて全員が、熱い石炭で調理され地元のハーブで味付けされたデンプン質の食料と魚を食べていました。山羊や羊のチーズは特によく配膳されましたが、誰もがパンを主食としていました。ただし、カタリ派の完徳者(出家信者)は、当然ながら肉食を禁じられていました。

●女性や子どもの扱いについて

 中世の女性や子どもについての位置づけは難しく、おそらく日本語環境においては、信仰についての是非よりも、センシティブな表現となりやすいのは、むしろこの箇所ではないかと思われます。
 この点、『モンセギュール1244』はかなり“リベラル”な立場を採っているのは間違いありません。拡張ルールでは「同性愛者」と思われるキャラクターも普通に登場します。それが当たり前なのです。そうでなければ、英語やイタリア語など、多言語での翻訳紹介などされませんから。しかし、いたずらに“リベラル”という表現を前にすると、眉に唾をつけたくなる方もいらっしゃるでしょう。
 
 しかし、これは政治的なイデオロギー傾向を示すというよりも、性・人種/民族その他での差別を所与のものとしないことで、1人でも多くのプレイヤーに参加してもらえるような仕組みづくりをしよう、というものだとご理解ください。大文字の「政治」ではなく、生活感覚やマナーとまったく同じものなのです。
 中世において概ね女性の地位が不当なまでに低かったとして、それを批評性抜きに再現するのでは、歴史考証の名のもとに性差別を正当化しているとみなされても仕方がありません。サンプルキャラクターのなかには娼婦アルセンドのような、社会的に蔑視されていると思われる設定のキャラクターさえいるのですから、なおさらです。
 しかし近年の史学研究では、フェミニズムの観点で中世史を読み替えるのは、傍流でも何でもなく、特にアプローチの注釈なく普通に採られる方法です。
 子どもについても同様です。中世史研究について、子どもは「小さな大人」だから大事にされなかったとする言説や、そのような言説への反論があり、一つの論争史を形成しています。さりとて、子どもを無意味に虐待するような場面をさしたる意味もなく入れてしまえば、不快になるプレイヤーも出てくることでしょう。加虐的な場面には批評性が必要です。この点、テストプレイでも言及されたのですが、アゴタ・クリストフの小説『悪童日記』が参考になると思います。
 いずれにせよ、とりわけ初回プレイにおいては、女性や子ども、民族や人種に触れる場合、「偏見」抜きに扱ってしまって問題なく、むしろそうすることを推奨したいと思います。

●参考文献は何を読めば?

 意欲的な参加者の方のなかには、参考文献についても具体的に触れてみたいという方がいらっしゃるでしょう。エジオ・レメガが用いた資料はイタリア語の資料ばかりですので、訳出の際に参考にした日本語文献をあげておきました。
 有名なのは、ミシェル・ロクベール『異端カタリ派の歴史』(武藤剛史訳、講談社選書メチエ2016)でしょうか。この版元(講談社選書メチエ)はSNSの公式アカウントにおいても、『モンセギュール1244』を紹介してくれました(https://twitter.com/kodansha_g/status/1672879483941195778?s=20)。
 ただ、この本は大著なので、「最初の1冊」とするには重いかもしれません。他に推奨したいのは、アンヌ・ブルノン『カタリ派』(池上俊一監修、山田美明訳、創元社2013)。こちらはとにかく図版が豊富で、視覚的に理解がしやすいのです。
 もう1冊挙げるなら、佐藤賢一『オクシタニア』(上下巻、集英社文庫2006)。これは小説ですが、まさしく『モンセギュール1244』の時代背景そのものを正面から扱っています。佐藤氏は最近ではフランス革命やナポレオンを扱った小説の執筆で著名ですが、イチオシはやはり、これ。カタリ派伝説を取り入れたフィクションは少なくないのですが、真っ向から小説化したものとしては、本作のほかは知りません。
 巻末の参考文献一覧をご覧いただければわかりますが、フランス語での新しめの研究を博捜しており、にもかかわらず、カタリ派の完徳者(出家信者)となった妻と、ドミニコ会士(異端審問をする側)となる夫との、奇妙なロマンスを扱う筋立ては、「ここまでやっていいのか」というひとつの指針になってくれるでしょう。

●参加者は何名がいいか?

 『モンセギュール1244』は3~6名のプレイヤーに向けてデザインされたシステムですが、私の感覚からすると、最良の参加者数は6名です。
 なぜなら、『モンセギュール1244』の基本ゲームでは、キャラクターは12人が用意されており、プレイヤーはそれを分担して受け持ち、1人を主要キャラクターにし残りは支援キャラクターとして振り分けるのですが……参加者6人であれば、プレイヤー1名につき主要キャラクター1名・支援キャラクター1名を振り分ける形にすればよいので、とにかくわかりやすいのです。
 6名のプレイヤーを集めるのは大変と思われるかもしれませんが、TRPGにおいて、GM1人・プレイヤー5人というのと同じです。そう考えると、そこまで高いハードルではなく、標準的な仕様といえるのではないでしょうか。
 では、誰がどのキャラクターをプレイすべきかということですが、シナリオへの関与の度合いが高いのは以下の5人です。これらの担当プレイヤーは、ばらけさせたほうがよいかもしれません。

・レーモン(モンセギュール城主)
・ピエール・ロジェ(モンセギュール防衛のための指揮官)
・ベルナール(騎士。ピエール・ロジェの部下)
・ベルトラン(男性のカタリ派完徳者)
・セシル(女性のカタリ派完徳者)

 また、レーモンとベルナールは、さっそく「プロローグ:アヴィニョネの暗殺」への登場が必須になっているので、比較的ナラティヴ系のゲームに慣れたプレイヤーが担当するのがよいでしょう。あらゆるゲームがそうですが、序盤はプレイヤーの動きがぎこちないものですから。
 どのキャラクターが主要キャラクターで、どれを支援キャラクターにするのかということは、プロローグ終了後に決めることになりますから、この5人以外は、人間関係を示したキャラクター一覧のシートを眺めながら、「このキャラクターを演じてみたい」という直観で決めてしまってよいでしょう。支援キャラクターは他人の担当するものでも演じることはルール的に可能なので、気軽にお願いします。

●リプレイを計画中

 版元の許可をいただき、現在、『モンセギュール1244』のリプレイを計画中です。ただ、動画や音声記録をそのまま放出するのではなく、読むに堪えるリプレイを作成するには、相応の手間暇がかかります。皆さんからの反響が、大きなモチベーションとなりますので、おたよりやSNSで、ご意見や要望をいただけましたら幸いです(注:その後、無事に連載が開始されました。こちらも採録していきます)。
 『モンセギュール1244』そのものを未入手の方もいらっしゃると思います。廉価(1100円)の電子書籍(PDF+ユドナリウム用データ)単体での販売も開始されました。オンラインのみのプレイなら、こちらでも充分です。ご利用いたけましたら嬉しいです。

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Montsegur 1244(モンセギュール1244)
 Frederik J. Jensen (フレデリック・J・イェンセン) 著 / 岡和田 晃 訳

 モダン・ナラティブRPG
 3~6人用〔ゲームマスター不要〕/ ゲーム時間3~5時間 / 15歳以上向
 2023年6月20日発売

・ボックス版 税込3300円(本体3000円)※電子書籍版同梱
 https://booth.pm/ja/items/4828050
・電子書籍版 税込1100円(本来1000円)
 https://newgamesorder.booth.pm/items/4902669

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初出:「FT新聞」No.3865(2023年8月24日配信)