「海の向こうの気になる本 気になる人――ソ連・東欧編」深見弾(「SF宝石」1980年12月号)

海の向こうの気になる本
気になる人――――ソ連・東欧編

東欧でもファンが組織するSF大会が……

深見 弾

 共産圏の活字情報は根気さえよければ、なんとか手に入る。ことに出版関係の情報であれば、かなり網羅的なカタログが出ているから、それを追えばよい。が、ことがいったん人間の動きに関することになると、まるでお手あげだ。
 だが、そうした状態も徐々にだが改善されそうな気配がある。それはまず、東西の人的交流が始まったことで、少しずつだが情報の流れがよくなっている。EUROCONをはじめ西側のSF大会などにソ連、東欧圏の関係者が積極的に顔を出すようになったことや、こちらからもあちらへ出かける機会がふえてきたからだ。以前から東欧圏内での人的交流は盛んであったが、その輪がさしあたってはヨーロッパにまで広がったということだろう。
 共産圏のSFイヴェントは、これまで作家・評論家主導型の会議が多く、その会期中に講演をやるといった形態が一般的であった。ソ連や東ドイツでは、今もってそれで押し通している。たとえばソ連では一九七八年九月から七九年五月までのわずか一年足らずのあいだに、レニングラードをはじめ、ウクライナのキエフ、アルメニアのエレバン、シベリアのノボシビルスクなど六つの都市でSF関係の催しが行なわれているが、いずれも、作家、編集者、評論家などが出る会議か、新人作家を養成するセミナーだ。主催者が作家同盟であればそういうことになるのは当然だ。だが、会期が最低で三日、長いと一週間もあるため、その間に、開催地のあちこちの公的施設でファンを対象にした講演会がもたれる。言うなれば、これがソ連式の上からのSF大会だ。
 七八年十一月にゲッチンゲンで行なわれた東ドイツのSF会議も、ドイツ民主共和国作家同盟が主催した。だがこちらには、西独のSF雑誌の編集者やオーストリアの評論家ロッテンシュタイナーなど西側の関係者が招かれている。
 しかしここ数年、東欧のなかにも、ファンが中心になって組織する、西側のSF大会に近い催しを行なう国が現われた。その代表的な例が一九七八年にワルシャワで開かれた第一回国際SF大会だ。これを主催したのはポーランドのファングループ連合で、ソ連とユーゴスラビアを除く東欧諸国と、他に西側のカナダ、スイスのファン計二百名が参加した。もちろん作家も出席しているが、ここではゲストとしてだ。この大会で、社会主義諸国SF情報センターの設立が採決されたということは注目に値する。第二回は今年の九月十六日から一週間、クラクフで開かれた。
 全国規模のSF大会が開けるところまではいっていないが、ブルガリアとハンガリーではすでにファングループの連合組織が生まれている。ブルガリアではソフィア大学の<オービット>をはじめとして、<オリオン>、<イカルス>、<レム>など多くの地方都市、企業、大学のファングループが独自に講演会、映画会、討論会などを開き、盛んに活動している。ハンガリーも似たような状態だが、こちらはファンジンの出版が盛んで、連合組織は、オフセット印刷のファンジン Pozitron を年二回発行するほか、英文の Newsletter を年に四回から八回出している。
 やがて、こうした国にもファンがイニシアチブを握るSF大会が開かれることは、まず間違いないだろう。

大野典宏注:その後、ソ連時代におけるSFファンダム史の詳細な研究がなされた。宮風耕治「1980 年代ロシア SF ファンダムの構造と変動」(2008年)に詳しい。URL:https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/47674 を参照されたし。