「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第32話」山口優(画・じゅりあ)

「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第32話」山口優(画・じゅりあ)

<登場人物紹介>

  • 栗落花晶(つゆり・あきら)
     この物語の主人公。西暦二〇一七年生まれの男性。西暦二〇四五年に大学院を卒業したが一〇年間無職。西暦二〇五五年、トラックに轢かれ死亡。再生暦二〇五五年、八歳の少女として復活した。
  • 瑠羽世奈(るう・せな)
     栗落花晶を復活させた医師の女性。年齢は二〇代。奇矯な態度が目立つ。
  • ロマーシュカ・リアプノヴァ
     栗落花晶と瑠羽世奈が所属するシベリア遺跡探検隊第一一二班の班長。科学者。年齢はハイティーン。瑠羽と違い常識的な言動を行い、晶の境遇にも同情的な女性だったが、最近瑠羽の影響を受けてきた。
  • アキラ
     晶と同じ遺伝子と西暦時代の記憶を持つ人物。シベリア遺跡で晶らと出会う。この物語の主人公である晶よりも先に復活した。外見年齢は二〇歳程度。瑠羽には敵意を見せるが、当初は晶には友好的だった。が、後に敵対する。再生暦時代の全世界を支配する人工知能ネットワーク「MAGIシステム」の破壊を目論む。
  • ソルニャーカ・ジョリーニイ
     通称ソーニャ。シベリア遺跡にて晶らと交戦し敗北した少女。「人間」を名乗っているが、その身体は機械でできており、事実上人間型ロボットである。のちに、「MAGI」システムに対抗すべく開発された「ポズレドニク」システムの端末でありその意思を共有する存在であることが判明する。
  • 団栗場 
     晶の西暦時代の友人。AGIにより人間が無用化した事実を受け止め、就職などの社会参加の努力は無駄だと主張していた。
  • 胡桃樹
     晶の西暦時代の友人。AGIが人間を無用化していく中でもクラウドワーク等で社会参加の努力を続ける。「遠い将来には人間も有用になっているかも知れない」と晶を励ましていた。
  • ミシェル・ブラン 
     シベリア遺跡探検隊第一五五班班長。アキラの討伐に参加すべくポピガイⅩⅣに向かう。
  • ガブリエラ・プラタ
     シベリア遺跡探検隊第一五五班班員。ミシェルと行動を共にする。
  • メイジー
    「MAGIシステム」が肉体を得た姿。晶そっくりの八歳の少女の姿だが、髪の色が青であることだけが異なる(晶の髪の色は赤茶色)。
  • 冷川姫子 
     西暦時代の瑠羽の同僚。一見冷たい印象だが、患者への思いは強い。
  • パトソール・リアプノヴァ
     西暦時代、瑠羽の病院にやってきた患者。「MAGIが世界を滅ぼそうとしている」と瑠羽達に告げる。MAGIの注意を一時的に逸らすHILACEというペン型のデバイスを持っている。ロマーシュカの母。
  • フィオレートヴィ・ミンコフスカヤ
     ポズレドニク・システムとHILACEの開発者。パトソールの友人。

<これまでのあらすじ>
 西暦二〇五五年、栗落花晶はコネクトームのバックアップが完了した直後に事故で亡くなったが、再生暦二〇五五年に八歳の少女として復活し、復活させた医師、瑠羽から再生後の世界について説明を受ける。西暦文明は既に崩壊し、「MAGI」と呼ばれる人工知能ネットワークだけが生き残り、再生暦文明を構築したと。しかしMAGIは人権を無視したディストピア的な支配を行っていた。瑠羽は、MAGIの支配からの解放を目指す秘密組織「ラピスラズリ」に所属しており、同じ組織に所属するロマーシュカとともに、晶を組織に勧誘する。
 一方、ロシアの秘密都市ではMAGIとは別の人工知能ネットワーク「ポズレドニク」が開発されていた。晶と瑠羽はMAGIの支配打破の手がかりを求めてポズレドニクの遺跡を探検し、「ポズレドニクの王」アキラやその仲間のソルニャーカと出会う。
アキラは晶と同じ遺伝子と同じ姿を持っていたが、一〇年以上前に復活させられており、そのときに経験した友人(団栗場と胡桃樹)からの裏切りを契機に人間同士のつながりを否定し、人同士のつながりのない原始的な世界を築く意思を示す。
 晶はアキラの計画に反対し、彼女と戦う力を得るために、彼女と同じ遺伝子であることを利用してシステムをハックする。アキラは攻撃を仕掛けてくるが、ポズレドニク・システムの端末であったソルニャーカや、MAGIシステムのアバターであるメイジー、それに、冒険者のミシェルやガブリエラらの協力もあり勝利する。戦いの後、晶はMAGIの現在の支配を否定しつつも、人とのつながりを排除することにも賛成せず、アキラにMAGIを倒す戦いの間だけ共闘することを持ちかける。
 MAGIとの決戦の前夜、晶は瑠羽の部屋を訪れ、瑠羽は西暦時代の彼女の経験を語る。瑠羽は精神複写科の医師として同僚の姫子と働きながら、核戦争を防ぐために協力を求める患者・パトソールと出会う。しかし、核戦争は回避できず、瑠羽は未来に目標を託されることになった。
 そして、夜が明け、作戦会議が開催される。晶はアキラに対し、人間の記憶や遺伝子が記録されている石英記録媒体、あるいはMAGIに味方する人間の冒険者を攻撃すればアキラと敵対するが、そうしない限りは味方すると告げ、「相手の目的を知ってうまく利用しろ」と言う。

 MAGIの頭脳の中心ノードである北極海底データセンターは、ロモノソフ海嶺の中央部、ほぼ北極点に位置する。ロモノソフ海嶺は北極海中央の、深度五〇〇〇メートルに達するくぼんだ地形である北極海盆の中央を、シベリア側からグリーンランド側にかけて貫く海底山脈で、最高高度は深度一〇〇〇メートルだ。標高差は四〇〇〇メートルに達し、この海底山脈はかなりの高度を誇る。
 その海底に連なる高嶺の一角に位置するのが北極海底データセンターである。データセンターにつながる通信ケーブルはロモノソフ海嶺に沿って、シベリア側とデンマーク側にそれぞれ接続している。そこから地上局に陸揚げされているケーブルもあれば、北極海盆をぐるりと囲むようにつながっているケーブルもある。
 重要なことは、北極海データセンターは意外なことに二本のケーブルでしか接続されていないという事実である。
この二本を切断するのが基本戦術になる。
 俺たちは戦力を三つに分けた。
 一つは俺とアキラ率いる戦力で、身長一〇〇〇メートルを超えるゴーレムを大量に造り、シベリアからロモノソフ海嶺のシベリア側ケーブルに向けて進撃させる。ここに瑠羽も加わっている。もう一つはロマーシュカ率いるラピスラズリ勢で、グリーンランド側ケーブルを衛星からのビーム主体の攻撃で破壊する。
 そして、ガブリエラ、ミシェル率いるMAGI冒険者有志が、新たにポズレドニクと契約した上で、遊撃戦力としてカナダ最北の島、エルズミア島コロンビア岬に待機している。
 地響きを立てて北極海を進撃する無数のゴーレム群、その先頭のゴーレムの肩に俺は立っていた。隣には瑠羽がいる。
 そして、隣を歩くゴーレムにはアキラが立っている。全てのゴーレムの内部には核融合炉が存在する。エネルギー源となる重水は海水から得る仕組みだ。MAGIのネットワークに頼らず、つまりMAGIに攻撃を予測させず、レーザーを好きなだけ撃てるのがゴーレムの最大の強みだ。また、無尽蔵のエネルギーを利用して、巨体にもかかわらず俊敏に動ける。
 無数のゴーレム群がふみならす地響きが深い海底からずん、ずんと響いている。
 まだ、MAGIは仕掛けてこない。
「いやあ、これは爽快な眺めだね。まるで私が巨人になったみたいだ」
 瑠羽が緊張感のない声で言う。
「うるさいな。はしゃぐな……いつ奴が仕掛けてくるか分からないんだぞ」
「でも新婚旅行が北極海というのも乙なものだね。きっと滅多にいないよ、こんなカップルは。ねえ晶ちゃん」
「いつ結婚したんだよ。勝手に関係を進めるな」
「だって私たちつきあってもう半年になるんだよ? そろそろ関係を進めてもいいじゃないか。年上の女性を待たせるとは、いけない幼女だねえ」
「幼女だから結婚できないだろ。想像交際も想像結婚もいい加減にしろ」
「次は想像妊娠かな?」
 そのとき、いらだたしげな声が通信に入った。
「おい。通信をこっちでも共有してるんだ。くだらん話をするな」
 アキラだった。
「アキラちゃん! 嫉妬かな? まあアキラちゃんも晶ちゃんだから、もう少し素直になれば私好みではあるんだけど、君は前世の性格が強く出てひねくれすぎてるからねえ」
「おい、栗花落晶。お前、こんなうるさい女を連れてきて何のつもりだ? オレとお前だけで良かっただろうが」
 隣のゴーレムを見ると、赤い鎧を身につけたアキラが、切れ長の赤い瞳でこちらをにらんでいる。同じく赤い鎧の俺は肩をすくめた。
「こう見えても瑠羽は機転が利くし頭がいい。戦略・戦術の参謀役が一人は必要だ。それに、回復役のドクターもな。俺たち二人とも、攻撃MAGICは得意でも回復MAGICは今ひとつだからな」
「ふん……お前がそういうのならいいが、オレはその女の飄々とした態度がどうも気に入らん。ラピスラズリだというが、本当はMAGIのスパイじゃないのか?」
「――こいつの信頼性は俺が保障する。くだらんことしか言わないが、馬鹿じゃないしいざというときは頼りになる。もし本当にこいつがスパイだとしたら、俺の見る目がなかったってことだ。潔く諦めるさ」
「そのときはお前ごとその女を倒すぞ」
「……好きにしろ」
 俺はため息をついた。
(もっとマシな人材がいればよかったんだが……ロマーシュカにはラピスラズリ勢を率いてもらわなければいけないし、ミシェルやガブリエラにはMAGI冒険者有志を率いてもらわねばならない。残りは瑠羽しかないってわけだ)
「晶ちゃん! 君はツンデレだったんだねえ」
 俺は後ろから強く抱きしめられた。
「いやいや、そこまで私のことを信じているとは。お姉さんちょっと嬉しい驚きだったな」
「確かに俺はお前の能力は買っているし、信頼もしている。その点ではポイントは高い」
「なんと! いやあうれしいねえ」
「しかし性格で大幅なマイナスポイントがつくから総合的にはマイナスだ」
「ツンもいいけどたまにはデレてほしいなあ」
 瑠羽がそんな世迷い言をいったとき。
 目前の海面が激しい水しぶきを上げた。
(ミサイル……!)
 俺はとっさに判断する。
 海底に着底させていた潜水艦からミサイルを発射したのだ。あるいは、あらかじめ設置していた海底ミサイルポッドか。
「岩の巨人よ……迎撃せよ! 『バハラーク』」
 俺はMAGICを唱える。
 岩の巨人が、俺の指示に従いレーザーを放ちミサイルを迎撃する。閃光が走りミサイルを叩き落とす。
その瞬間、海面から更なる攻撃が繰り出される。
「アキラ! 攻撃地点の座標を送る」
 俺は海底からミサイルが発射されたと思われる地点をアキラに送った。
「オレに破壊しろと言うのか?」
 やつは挑戦的に聞いてくる。
「好きにしろ! 俺はケーブルの切断に向かう! お前が発射地点をたたけばMAGIの破壊が効率的にできるだろうな!」
「――ふん」
 アキラは自分が乗っていた巨人の肩から離れ、鎧の背中から赤い翼を展開させて、空中に浮く。
「なぎはらえ!」
 配下の巨人たちに命じた。
 巨人の口が開く。ひときわ巨大な赤い閃光が海面を切り裂いた。
 もうもうとした煙が大気を覆い尽くす。モーセが海を割った故事の如く、アキラのゴーレムたちが放つレーザーが海底をあらわにしていき、ターゲット――海底のミサイル発射システムに到達、その瞬間、耳をつんざくような爆発が起こる。
 ゴーレムの肩ではもはや視界が塞がれている。
「瑠羽!」
 俺は一言声をかけ、翼を展開して上空に上がる。
「全く、アキラちゃんは乱暴だねえ」
 後ろから声がする。
「とにかく奴が自発的に迎撃してくれて助かったよ」
 俺は配下のゴーレムに、俺の後に続くよう指令を出す。
「ゴーレム――追随しろ」
 眼下、白い煙に覆われた大地から、大気を圧するような地響きが聞こえてくる。
 アキラの部隊――五〇〇のゴーレムを残し、俺は自分の率いる七〇〇のゴーレムを速い速度で進撃させ始めた。
(――アキラが海底まで蒸発させてくれて助かったな。進撃が速くなった)
 もしかして、アキラはそれとなく俺にどうすべきか教えてくれたのかもしれない。
 俺はそう思い立ち、自分のゴーレムにも命じた。
「我がしもべ、ゴーレムたちよ。海を割れ! バハラーク!」
 俺が命じたときには、既に五〇〇のゴーレムが内蔵された核融合炉に接続したレーザー砲を解放していた。燃料であるトリチウムは海から無尽蔵に吸収し、それを使ってレーザーを放射している。莫大な熱が予備動作なしで放射され、ゴーレム前面の海面がもうもうとした煙をあげながら割れ、海底が見えていく。その海の道が、すさまじい勢いではるか水平線の――いや地平線の向こうまで続いていく。
 そのついでのように、海底に配置されたミサイルポッドが小さく爆発していく。海底があらわになる直前にミサイルが発射されるが、もうもうとした煙に赤外線や可視光照準システムを狂わされ、レーザーによって灼かれてなすすべもなく爆発、掃射され続けるレーザーは俺の七〇〇と、アキラの五〇〇のゴーレム部隊の前面の海底の露出も維持する。
 レーザーが尽きるとすぐに海水は戻っていくが、その範囲のミサイルは掃討されただろうし、海流の乱れが激しすぎて、それ以外の海底からのミサイルの発射にも支障がでるだろう。
 それに、核融合発電は常に続けられている。すぐに第二射も可能となるだろう。やがて蒸発した水蒸気の煙も晴れてきた。
「晶ちゃん! 攻撃衛星が北極上空に集中している! 上から来るよ!」
 俺が答える前に、アキラが口を開いた。
「それぐらいは想定済みだ!」
 彼女がそういった瞬間、彼女のゴーレムが上空を向き、一斉に口を開いた。口から放たれたレーザーが上空へ吸い込まれていく。
 それとすれ違うように閃光が走り、ゴーレムの一部に命中した。俺が肩に乗っていたゴーレムにも命中、だが、その一瞬前に、俺は瑠羽を抱いて上空に退避している。
 アキラのゴーレムが放ったレーザーは、極軌道を周回する攻撃衛星に命中、MAGIの攻撃は防がれた。
「――こっちはMAGIネットワークにも接続してる。やつの手の内も見えてるんだ。なんでわざわざゴーレムを作ったと思ってやがる……」
 アキラがつぶやいた。
核融合炉という内蔵エネルギー源を使うことで攻撃準備を悟らせないことがゴーレムの強さだ。
「宇宙も海の攻撃手段も封じた。栗花落晶! このまま一気に進軍するぞ! MAGIの中枢を破壊し、MAGIシステムをポズレドニクによって完全に掌握する!」
「チッ……やはりそういう考えか。少しは残しておきたいんだがな」
 俺は瑠羽を抱えながら言う。
 そこで、アキラの雰囲気が変わった。前方を凝視しいている。
 急速に近づいてくる多数の物体がある。
「――ふん。……お前ならそう言うと思ったが……」
 アキラが言う。
「お前ももはや考えを変えざるを得ないんじゃないのか? 手加減して勝てる相手じゃないだろう。……アレを見ろ」
 彼女は前方の上空にあごをしゃくった。
 俺は目を見開く。
(――確かに、簡単に勝てる相手でもなさそうだ……)
 俺はため息をついた。
「……夢を見ているんじゃなければ、ちょっとMAGIを甘く見てたね……私たち」
 瑠羽が珍しく冗談交じりでない言葉を吐く。
 そこに、メイジーがいた。
 青い髪の、俺と同じ見た目の少女。
 そして、彼女だけではない。
 その背後には、白く輝く光の巨人が無数に浮かんでいる。
 その大きさは俺達のゴーレムを超えるだろう。
(なぜ浮かんでいる……原理が全く分からない)
 MAGICロッドによる火炎放射、燃料はドローンから補給。それにレーザー。核融合。小惑星による攻撃。あるいは体内への薬剤投入による治癒、ウィルス投入よる攻撃……。これまでのMAGIコマンは、全て西暦時代の技術に基づいており、俺が原理を理解できるものだった。
 だが、あのような重量物を、回転翼も固定翼もなく空中に滞空させる術など俺は知らない。
(重力の操作か……? それは西暦時代の技術の範疇を遙かに超えているぞ……)
「……ちょっと訳が分からない技術だね……。それとも、この世界はリアルじゃなくて、ただのシミュレーションだったというオチかな? それなら寧ろ分かりやすいんだが」
 再び瑠羽が真面目なことを言う。
「風邪でも引いたか? 急に真面目に分析し始めたな」
「……やっぱり自分の配偶者のことはきちんと心配してくれるんだね!」
「――いつも通りで安心したよ」
 俺は言葉を続ける。
「シミュレーションはないだろうな。それにしては精緻すぎる。MAGICを駆使してゴーレムに組み込む核融合炉を自分で作ってみたが、うまく動いている。この世界で核反応まできちんとシミュレーションするということは素粒子レベルで物理演算をしているということだ。それほどのサーバを立てるぐらいなら、現実もシミュレーションもエネルギー効率は変わらない。寧ろシミュレーションをする方が効率が悪い」
 それに、と俺は続けた。
「今は再生暦二〇〇〇年代なんだろう。だったら、西暦が終わってから二〇〇〇年が経っているということだ。たとえ奴が重力の操作をしているとしても、それほどの技術が発展する時間的余裕は充分にあるさ」
「同感だな」
 アキラが通信で伝えてくる。
「……アキラ。ポズレドニクはあの光の巨人も掌握できるのか? MAGIシステムをハックしているんだろう?」
 俺は唯一、俺達が勝てそうな可能性に言及してみた。
「いや。無理だな。MAGIシステムはあいつらの制御に全く関わっていない」
「そのとおりです」
 メイジーだ。
 通信で伝えてくる。
「この……MAGIという名のシステムは、あなたたち人間を遊ばせておくための箱庭のようなもの。ポズレドニクの侵入を許していたのも、『遊び』の一環です。再生暦の間、私はこのシステムを維持しつつ、全く新しいシステムの構築を続けていました。再生暦世界がカルダシェフ・スケールのタイプ2文明だとしたら、新たに創る世界はタイプ3文明となるでしょう」
 カルダシェフ・スケール。それは使用するエネルギーの規模に関わる指標だ。タイプ1は地球全て、タイプ2は太陽系全て、タイプ3は銀河系全ての入手可能な全てのエネルギーを使用する文明となる。既にタイプ2文明であったことも驚きだが、太陽のエネルギーをかなりの割合で使用していることは薄々感づいていた。ハイレベルの冒険者とはいえ、個人があんなに気軽に高出力レーザーが撃てるのも、タイプ2文明ならではなのだろう。そして、目の前にいるのはそのエネルギーレベルですらも理解不能な存在というわけだ。
「どうする? といっても、一方的に倒される以外の選択肢があればの話だが」
 タイプ2文明では最強の個人であったアキラも、このメイジーの前では生き延びることすら危ぶまれる……というわけだ。
「――今それを考えているところだ。少し待て」
 俺は必死で考え続ける。それをメイジーは哀れむように見やった。
「ご心配なく。皆さん全員、死にませんよ。復活可能ですから。そして、今後こそは、人類全員が、私の箱庭の中で、幸せに暮らせる世界を創って見せましょう……。さあ、再びのリセットの時間です。今日までこの世界で遊んで(プレイして)くださって、ありがとうございました。新しい世界へのログイン(再生)も、お待ちしております……」
 メイジーは目を細くして、微笑んだ。