「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第31話」山口優(画・じゅりあ)

「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第31話」山口優(画・じゅりあ)


<登場人物紹介>

  • 栗落花晶(ルビ:つゆり・あきら)
     この物語の主人公。西暦二〇一七年生まれの男性。西暦二〇四五年に大学院を卒業したが一〇年間無職。西暦二〇五五年、トラックに轢かれ死亡。再生暦二〇五五年、八歳の少女として復活した。
  • 瑠羽世奈(ルビ:るう・せな)
     栗落花晶を復活させた医師の女性。年齢は二〇代。奇矯な態度が目立つ。
  • ロマーシュカ・リアプノヴァ
     栗落花晶と瑠羽世奈が所属するシベリア遺跡探検隊第一一二班の班長。科学者。年齢はハイティーン。瑠羽と違い常識的な言動を行い、晶の境遇にも同情的な女性だったが、最近瑠羽の影響を受けてきた。
  • アキラ
     晶と同じ遺伝子と西暦時代の記憶を持つ人物。シベリア遺跡で晶らと出会う。この物語の主人公である晶よりも先に復活した。外見年齢は二〇歳程度。瑠羽には敵意を見せるが、当初は晶には友好的だった。が、後に敵対する。再生暦時代の全世界を支配する人工知能ネットワーク「MAGIシステム」の破壊を目論む。
  • ソルニャーカ・ジョリーニイ
     通称ソーニャ。シベリア遺跡にて晶らと交戦し敗北した少女。「人間」を名乗っているが、その身体は機械でできており、事実上人間型ロボットである。のちに、「MAGI」システムに対抗すべく開発された「ポズレドニク」システムの端末でありその意思を共有する存在であることが判明する。
  • 団栗場 
     晶の西暦時代の友人。AGIにより人間が無用化した事実を受け止め、就職などの社会参加の努力は無駄だと主張していた。
  • 胡桃樹
     晶の西暦時代の友人。AGIが人間を無用化していく中でもクラウドワーク等で社会参加の努力を続ける。「遠い将来には人間も有用になっているかも知れない」と晶を励ましていた。
  • ミシェル・ブラン 
     シベリア遺跡探検隊第一五五班班長。アキラの討伐に参加すべくポピガイⅩⅣに向かう。
  • ガブリエラ・プラタ
     シベリア遺跡探検隊第一五五班班員。ミシェルと行動を共にする。
  • メイジー
    「MAGIシステム」が肉体を得た姿。晶そっくりの八歳の少女の姿だが、髪の色が青であることだけが異なる(晶の髪の色は赤茶色)。
  • 冷川姫子 
     西暦時代の瑠羽の同僚。一見冷たい印象だが、患者への思いは強い。
  • パトソール・リアプノヴァ
     西暦時代、瑠羽の病院にやってきた患者。「MAGIが世界を滅ぼそうとしている」と瑠羽達に告げる。MAGIの注意を一時的に逸らすHILACEというペン型のデバイスを持っている。ロマーシュカの母。
  • フィオレートヴィ・ミンコフスカヤ
     ポズレドニク・システムとHILACEの開発者。パトソールの友人。

<これまでのあらすじ>
 西暦二〇五五年、コネクトーム(全脳神経接続情報)のバックアップ手続きを終えた直後にトラックに轢かれて死亡した栗落花晶は、再生暦二〇五五年に八歳の少女として復活を遂げる。晶は、再生を担当した医師・瑠羽から、彼が復活した世界について教えられる。
 西暦二〇五五年、晶がトラックに轢かれた後、西暦文明は滅び、「MAGI」と呼ばれる世界規模の人工知能ネットワークだけが生き残り、文明を再生させたという(再生暦文明)。「MAGI」は再生暦の世界の支配者となり、全ての人間に仕事と生活の糧を与える一方、「MAGI」に反抗する人間に対しては強制収容所送りにするなど、人権を無視したディストピア的な統治を行っていた。一方、西暦文明が滅亡する前のロシアの秘密都市では、北米で開発されたMAGIとは別の人工知能ネットワーク「MAGIA(ロシア側名称=ポズレドニク)」が開発されていた。
 MAGIによる支配を覆す秘密組織「ラピスラズリ」に所属する瑠羽は、仲間のロマーシュカとともにアキラを彼女らの組織に勧誘する。晶はしぶしぶ同意し、三人はポズレドニクが開発されていた可能性のある秘密都市遺跡「ポピガイXⅣ」の探検に赴く。そこで三人はポズレドニクに所属するソーニャと名乗る人型ロボット、そして、と出会う。ポズレドニク勢の「王」アキラと出会う。アキラは、晶と同じ西暦時代の記憶と持ち、復活した晶と同じ遺伝子(つまり女性の姿)を持つ人物だった(晶は彼女をカタカナ表記の「アキラ」と呼ぶことにした)。彼女はMAGIを倒す目論見を晶に語り、仲間になろうと呼びかける。が、人と人のつながりそのものが搾取を産むと語るアキラは、MAGIを倒した後には、人と人のつながりのない、原始時代のような世界にするつもりだと示唆する。晶はアキラの目論見に加わることを拒否、アキラと自分が同じ生体情報を持つことを利用してポズレドニク・システムのセキュリティをハックし、アキラに対抗する力を得る。
 アキラは晶が自らに従わないことを知ると、晶たちに攻撃を仕掛けてくる。それに助力するMAGIシステムのアバター「メイジー」。
 一方、自身がポズレドニク・システムとして作られたことを思い出したソルニャーカ・ジョリーニィは、晶たちに味方し、彼女等をポズレドク勢として受け入れた。
 それを知ったメイジーは、晶たちと敵対することを決意し撤退する。メイジー撤退の後、再びアキラとの交戦が始まる。晶は仲間たちの支援を受け、アキラを倒すことに成功、MAGIシステムを倒すために手を組むが、人と人のつながりを大切に思う晶は、MAGIを完全破壊する意思はなく、「MAGIを倒したときにそこにいた方がMAGIを完全破壊するかどうか決める」ということで、アキラとの共闘を取り付ける。晶は「ラピスラズリ」にも協力を求めるため、瑠羽の部屋を訪問した。瑠羽はこれまでの経緯をあらためて彼女の視点から語ろうと告げる。
 西暦時代の夢島区の病院にて、精神複写科の瑠羽は、「MAGIによって核戦争が起き、世界は崩壊する。それを防ぐために協力してほしい」と告げる奇妙な患者、パトソール・リアプノヴァと出会う。だがその夜ラジオでは核戦争の危機というニュース。パトソールの言葉を信じざるを得なくなった二人は、もういちど病院へ向かい、パトソールを救助する。彼女は、東京湾海底データセンターに向かうことで、核戦争を回避できると告げ、三人はキャンピングカーでデータセンターに向かう。しかし、結局核戦争は回避できなかった。パトソールは二人を「MAGIが核戦争を起こし世界を滅ぼした」という記憶を持たせたまま、石英記録媒体に保存し未来に送り込むことで、遠い未来にMAGIを倒す目標を二人に託した。「娘のロマーシュカもきっと仲間になるでしょう」と告げて。
 瑠羽の話を聞き、彼女の事情を理解する晶。西暦時代からの人々の思いを継ぐためにも、MAGIとの戦いに勝たねばならない。そう決意を新たにし、翌日の作戦会議に臨むことにした。

 MAGIのセンターノード、北極海データセンターは、文字通り地球の頂点に君臨するデータセンターだ。そのセンターモジュールは北極点の海底にあり、現在は全世界の二〇%以上のデータ処理を担っている。MAGIはネットワーク知性であり、センターモジュールを破壊しても撃破したことにはならないが、現在のMAGIの方針を定めている人格は北極海データセンターに存在する可能性が高いそうだ。
 それはアキラからの情報だった。
「ポズレドニク勢はかなりの部分、MAGIシステムとネットワークを共有している。共有と言ってもこちらが一方的に奪っているだけだが」
 アキラは淡々と言う。
 ポズレドニク勢の「セーブポイント」の会議室。
 セーブポイントには宇宙ステーションのような円筒形のモジュールの組み合わせで形成されており、寝室モジュール、廊下モジュール、そして会議室モジュールなどがある。会議室モジュールは連結することで拡大することができる。モジュールの直径は五メートル、長さは一五メートル程度。MAGIシステムで汎用的に使用されているロケットのペイロードとして標準的な大きさとなっている。
 会議室の中は、テーブルがずらりと並んでいる。天井の高さは五メートルなのでかなり余裕があるが、幅は三メートル程度しか取れないので、細長い会議室だ。その中に、ここに集められた関係者が集っている。
 まずポズレドニク勢。女王アキラとソルニャーカ。
 ラピスラズリ勢。瑠羽、ロマーシュカ。そして俺。
 MAGIの冒険者だったが俺たちの味方をしてくれた者たち。ミシェル・ブラン、ガブリエラ・プラタ。
 合計七人だ。
 戦闘時ではないので、皆、思い思いの格好をしている。私服状態のほうが露出が少なくなっているように見える。全くとんでもない世界だ。
 アキラは戦闘用の鎧ではなく、Tシャツにジーンズという簡易な服装をしていた。無職のころのオレがよくしていた格好だ。彼女の精神のよりどころは、転生する前にあるのだな、というのがなんとなく察せられた。転生後の人生は、やつにとっては全くよりどころになるものではなかったのだ。
「センターノード以外の部分はかなり浸食しているが、センターノードだけは浸食し切れていない。あそこにやつの主人格――つまり分散化したネットワーク知性の中でも主要な人格が格納されているはずだ」
「ハッキングだけでMAGIを倒すことはできないのかい?」
 瑠羽が視線を、アキラ、ついでソルニャーカに向けた。ポズレドニクのアバターとして作戦会議に出席しているソルニャーカは首を振った。
 ソルニャーカは相変わらず鎧姿だ。というより、彼女の場合は機械の身体なので私服と戦闘用の服の区別などないのだろう。
「無理だね。ここ数百年ほど、膠着状態が続いているよ。物理的に破壊しなければ無理だろう。なぜそうなったかというと、同じシステムの上で動いている以上、仕掛ける手には限りがあるからさ。物理空間のほうが探索空間が広い。攻撃の手は非常に多彩になる。物理空間でRPGをやらせる、というのも、MAGIが人間を使って多様な攻撃の手を検討させるためだったともいえる」
「なるほど。私もMAGIコマンドを使う者として、それは納得がいきます」
 ロマーシュカが自分の胸に手を当てた。フリルのついた明るいひまわりのような黄色のキャミソールという服装だった。
「エネルギーは太陽を公転するソーラーパネルから得られますし、資源も太陽系に配置した自動配送ネットワークで自動的に地球に届けられる。地球上でもドローンが必要とする人が必要とする時間に届けてくれる。ここまで自在にエネルギーと資源を個人が操れるのは、MAGIがユーザとしての人間にある程度の信頼を置いているからでしょう。MAGIは人間を超える知性であり、あらゆる潤沢なリソースを人間に届ける能力を持ちますが、人間がどのようなリソースの使い方に価値を見いだすのかは、人間にやらせてみるのが一番です。寧ろそれが人間を理解する方法ともなる。それがMAGIコマンドだと理解しています」
「MAGICIANとして一言付け足すと、人間単体ではなく、人間の集団として、どのような使い方に価値を見いだすか、ということね」
 ミシェル・ブランがそう付け足した。暗色の無地のドレスに、魔女の被るような三角帽子を被っている。
「まあ物理的に破壊しなければならないとして、二つあるだろうね。戦いを始める前に、方針を決めておかなければならない問題が」
 瑠羽が議論をひきとった。彼女はいつもどおり、ジーンズにシャツ、そして白衣だ。
「一つは、センターノードにどれぐらいの石英記録媒体のバックアップが保管されているか。そして、MAGIが動員可能な人間の冒険者たちと、彼女らにどう対応するかという問題だ。いずれも、ハッキングするならば大きな問題にはならないだろうが、物理的に破壊するならば決めておかねばならない」
「バックアップデータは諦めろ。人間の冒険者は刃向かうなら殺す」
 アキラは淡々と言った。
「オレはMAGIの支配を覆すためなら何でもやるつもりだ。物理的に破壊しなければ覆せないならそれをやるまでだ。そこで発生する被害は全てコラテラル・ダメージだ。それを気にしていたら、何も達成できないだろう。必要な犠牲は甘受すべきだ。そうでないやつらとは戦えないな」
 視線が一斉に俺――晶に集まった。ちなみに俺は、キャミソールに短いスカートを着ている。私服として瑠羽が用意してくれたものがそれだったのだが、意外に俺の感覚にフィットしていた。どうやら幼女の身体に順応してきたらしい。尻のあたりがすーすーするのにも慣れてきた。
 俺は目の前のテーブルに手をかけ、軽くジャンプして、ひょいと乗り越えた。そして、アキラの目の前に立つ。座っているアキラの目の高さが、俺の目の高さと同じか、少し上になっている。俺は若干背伸びした。
「それがお前のやり方か」
「そうだ。オレを仲間にする以上、オレのやり方を尊重してもらう。お前の指揮下の部隊では別のやり方をしてもいいが、オレはオレのやり方を貫く。嫌なら再び敵になってもいいが?」
「好きにしろ。だが、俺はお前と行動を共にする。そして、お前が人間の冒険者の攻撃、石英記録媒体の攻撃を行った時点で、お前の行動を阻止するべく戦闘を行う。お前は、そうした行為をしない限りはMAGIだけを相手にしていればいいが、そうでない場合は俺とも戦う必要がある。その選択はお前に任せる。MAGI対俺たちの戦いになるか、MAGIと、お前と、俺の三つ巴の戦いになるかは、お前次第だ」
「……オレと同じレベル九九のお前が敵になるかどうかは、オレ次第という訳か」
「そうだ」
 アキラは俺のキャミソールの肩紐をつかみ、乱暴に引き寄せた。彼女の顔が間近に来る。らんらんとした赤い瞳が俺をにらんでいる。
「嘗めるなよ? オレはお前ごときが敵になるかどうかで、オレのポリシーを変えるつもりはないぞ。冒険者の命、石英記録媒体に記録された命――そういうのを全部護りながら戦うのはすさまじく効率が悪い。全てを失う可能性もある」
「だが三つ巴よりは効率がいいんじゃないか? 冷静に考えろ。お前が言ったことだ、全てはバラバラの個であるべきであり、『仲間』や『社会』などくだらないとな。だから俺はお前の仲間ではないし、もちろん配下でもない。俺とお前両方を縛るルールや戦略、戦術などは存在しない。自分の自由にならない戦力を自分の意に沿うように動かすにはどうすればいいか、よく考えろ」
「ではこの作戦会議の意味とは何だ?」
「あらかじめ知ることは無意味ではないだろう。俺たちが、お前がどのように行動したときに、どのような行動を取るかを。この場は俺とお前にとっては、意思表明と警告と脅迫の場だ。お互いにとってのな」
 アキラは俺の胸を押し、突き飛ばした。俺はふらついたが、なんとかバランスを取って踏みとどまり、キャミソールの肩紐の位置を直す。アキラは立ち上がった。俺は視線を上げ、彼女に視線を合わせ続ける。
「ふん……気に入らんな。その尊大な態度も、お前を支える仲間とやらのおかげだろう。オレは孤独だった。一人で戦っていた。ここまでの力を得るのに一〇年かかった。お前はオレの情報をバイオハックしてすぐにその力を得たがな」
 俺はテーブルの上に座った。少しでも目の位置を上げるためだ。片膝をつき、余裕の態度を作ってアキラに視線を合わせ続ける。
「……そうだよ。そのとおりだ。バイオハックは瑠羽の発案だし、お前の本拠地まで効率よく攻め込めたのはロマーシュカのリーダーシップのおかげだ。ガブリエラとミシェルがいなければ、ここまで生き残っていない。他にも多くの冒険者が途中で助けてくれた。……これからMAGIの本拠地に攻め込む中でも、新たに仲間になってくれる冒険者はきっといるだろう。石英記録媒体に記録された人々も、復活させれば必ず味方になってくれる人がいるだろう。彼女らは、俺とは全く別の人格だ。考え方も違うし、おそらく目指す世界も違う。命じれば言うことを聞くような人間は元来一人もいない。だが、条件によっては、俺と共闘してくれるだろう。現にここにいる仲間たちはそうだ」
 アキラは押し黙った。
「晶ちゃん……かっこいいこと言うのはいいけど、その姿勢、おそらく向こうからはパンツ見えてる」
 隣に座っていた瑠羽が耳元でこっそりささやいた。
「ひゃっ……うるさい……」
 俺は脚をそろえた。
「お前……俺がしゃべってるときに雰囲気を崩すな」
 瑠羽はしょげた顔をした。
「いやいや、パンツ見えてることを注意して怒られるなんて心外だよ。君が露出好きの変態性癖を持っているとはね……」
(くそ。しまらない)
 俺は咳払いする。
「いいか。とにかくだ。この瑠羽だって俺とは全く違う考え方を持っているんだ。それでも条件次第では仲間になる。仲間というのは、いや、社会というのは、他のやつらの望みや人生感を理解し、使えるところは使っていけばいいということなんだ。折り合えるところで折り合っていけばいいんだ。折り合える部分が全くない奴のことは気にする必要はない。俺はMAGIのように『社会』を強制しない。『社会』が、『仲間』が、お前に何も全く与えないというのなら、もう好きにしろ。それが俺の考えだ。だから俺はお前に条件を伝える。後はお前の選択次第だ」
 アキラはどかりと椅子に座った。
「ふん。ではオレの好きにさせてもらう。お前らも好きにするといい。それで? 作戦会議とやらはこれで終わりか?」
「いや――まだ続くさ。ただ、これはあくまで、俺たちがどう行動するか、というのをお前に伝えるためにやっていることだ。そして、お前も、可能であれば、お前がどう行動するのか、俺たちに伝えろ。それをお互いに知ることで、お互いがMAGIを攻めるのに役に立つこともあるだろう。互いを利用することで互いの目標をより達成しやすくする――それが『社会』の本質だからな」