「SF Prologue Wave編集部メンバー他己紹介 その4」川嶋侑希(質問者 大和田始)

「SF Prologue Wave編集部メンバー他己紹介その4」川嶋侑希(質問者 大和田始)

SF Prologue Wave編「SF Prologue Wave って、どんな人たちが作っているの?」という声にお応えし、SF Prologue Wave編集部メンバーに、別のメンバーが質問をしてみました。

大和田始さんからの質問状への回答(川嶋侑希)

1・SF Prologue Waveに加入されてしばらくたちましたが、SFPWの中の自分をどのように感じていますか?

 学ぶべきことが多すぎて、いつも慌てているなと感じます。作品を寄せてくださる皆様や編集部の方々を遥か後ろから追いかけて、作家の世界の未知なる空気を五感を研ぎ澄ませながら常に味わっています。
 編集部で活動をしていて文章の書き方を学べるのはもちろんですが、作品がどのような過程を経て世の中へ出ていくのかを知るのが楽しいです。私が手伝わせて頂いた仕事の中に、雑誌『SF宝石』に掲載されていた深見弾のコラムの再収録があります。人生で初めて文字起こしをさせて頂きましたが、誤字脱字のチェックやレイアウトに苦戦しつつ、12回分を無事に終えることが出来ました。文字起こしは一見シンプルな作業ですが、内容を理解しないと誤字に気づきにくいですし、編集部内で確認を取らなければならない内容も多々あります。作品が世に出るには多くの人が関わりますが、文字起こしだけで見ても時間と労力が必要だということが実感できました。また、一度仕上がった作品を打ち直すことで、文章を書く基本的なルールを学べたと思います。記号や句読点の名称、使い方の知識は、この作業を通して得たものが多いと感じています。

2・SFPWに「Utopia」が掲載されて5年になるのですね。昨年は改稿された同題の中篇を発表されました。この間SFPWの中でいろいろな経緯があり、他の作家によって「Utopia」の世界観を共有する作品も書かれています。このことをどのように感じていますか?

 初めての公開から5年も経っているとは思いませんでした。小説を公開することも、シェアード・ワールド作品を書いて頂くことも、いまだに新鮮で驚くべき事象だと感じます。シェアード・ワールド作品では、私が伝えきれなかった世界観を他の作家さんが補い、広げて、物語を深く、濃くしてくださいました。それがまた新たなアイデアを生む刺激になりました。『Utopia』をこれで終わりにせず、続けていくモチベーションに繋がっています。
 伊野隆之さんの『Utopiaの影』は『Utopia』に少しだけ出てくる怪しげな男ジャックを主人公とした作品です。ハードボイルドな雰囲気がとても格好良くて、自分には出せない渋さとドラマチックな展開に驚きながら読んだのを記憶しています。セイラの冒険と同時進行していくので、ジャックが物語の裏側でどんな暗躍をしていたのかがわかります。『UTOPIA』ではあまり目立っていなかったジャックですが、この作品でしっかりと存在感を示してもらい彼に命が宿ったように感じられました。
 忍澤勉さんの『<情報街>のメンテおじさん』はセイラが初めに足を踏み入れた街<情報街>を舞台とし、新たな登場人物のロバート・マクミランを主人公としています。メンテナンスの仕事を通して見た人間と妖精の関係を語っており、新しく全く別の視点から物語を味わうことが出来ます。この作品だけ読んでも楽しめるような内容なので、『UTOPIA』を読んでいない方にも読んで頂きたい作品です。現在、忍澤さんがシェアード・ワールド作品をもう一つ書いてくださっています。私も一人のファンとして、公開が待ち遠しいほどに素敵な作品です。

3・どのようにして「文学」に出会い、どんな作家・作品を読んできましたか?

 高校生の頃に友人から野村美月氏の『文学少女』シリーズ(エンターブレイン刊)を借り、文学って面白いなと感じたのが出会いです。夏目漱石や宮沢賢治など、日本の代表的な文学作品を読むことから始め、大学生の頃には中原中也や萩原朔太郎などの詩作品に魅了されました。大学の講義で象徴主義文学に興味を持ってからは、ヴェルレーヌ詩集が愛読書となっています。
 また、高校時代の部活動では演劇をやっており、第三舞台や劇団☆新感線、演劇集団キャラメルボックスの舞台を部活動や個人で鑑賞していました。演劇には文学的な要素が多々ありますが、特に不条理劇の中には文学性を感じていたのかと思います。私と同じような学生がいくらかいたのか、演劇部の大会などで創作の台本を使用する学校では、ナンセンスや不条理を用いた舞台がよくありました。抽象的な表現への理解や魅力を感じるようになったのは、この頃からかと思います。キャラメルボックスの舞台『さよならノーチラス号』を観て、初めて手に取ったSF小説が、ジュール・ヴェルヌ『海底二万哩』でした。
 大学生に至るまでSFやファンタジーの小説を読んだことはほとんどありませんでした。それまでに触れてきたのはアニメや漫画、ゲームに留まり、「マクロス」シリーズや「ファイブスター物語」、松本零士作品、高橋留美子作品などで、そのほとんどは親が好きだった品です。鶴田謙二の『Spirit of Wonder』に衝撃を受けた辺りからSFを再認識し、新たなSF作品との出会いを探すようになりました。

4・『レゴリス/北緯四十三度』(林美脉子著)の書評は見事なものでした。川嶋さんは詩を書く時にどのような思いを抱いていますか? また現代詩界において注目している詩人、作品はありますか?

 ありがとうございます。詩に限らず創作全般で心掛けていることですが、ありのままの自分を隠さずに表現したい。と常に考えています。私にとって、詩は普段は言えないことや記憶に留めておきたいことを忘れないために、記録している媒体とも言えます。たとえそれが独善的だったとしても、今はその気持ちを隠さずに、自由に書いていようと思います。
 注目している詩人は中井絵美さんです。『タンサンのパンケーキ』(砂子屋書房刊)を読んだ衝撃が忘れられません。

5・SFPW内で注目する作品や書き手はありますか?

 どの方も個性があっていつも楽しく読ませていただいていますが、中でも大梅健太郎さんのショートショート作品が好きです。アイデアにあふれていて読む度にワクワクします。

6・SFPW外で注目している事柄・推しの人物・作品等はありますか?

『王ドロボウJING』というダークファンタジーの漫画が昔からずっと推しです。作中に文学や映画、絵画のパロディが沢山盛り込まれており、絵の見事さと相まって、芸術作品と言えるほどクオリティの高い漫画となっています。象徴主義文学に通じるような難解な物語が多いですが、自分の知識が増えるほどパロディの意味を理解し、物語自体の理解度や面白さを高められます。「第七監獄編」が最も好みです。

7・何か「野望」はありますか?

 地元群馬の図書館に県出身作家コーナーがあるのですが、そこにいつか、私の著書が並んだらいいなと思います。まだまだ遠い道のりですが、夢だけは大きく持ちたいです。
 先日「図書新聞」へ、蜷川泰司の『絶滅危惧種』の書評を掲載して頂きました。初めての商業原稿となり、不安の中での執筆でしたが、作品の魅力が伝わるよう精一杯書かせて頂きました。こうした新たな経験を少しずつ積み重ねて、物書きとしての腕を磨いて行きたいと思います。

◎質問を終えて 大和田始
 川嶋さんは「Utopia」の作者としてSFPWに登場された若い書き手で、この作品に触発されてSFPW界隈で初のシェアード・ワールド小説群が生まれました。それほどに魅惑的な短篇でしたが、ここでご御本家から伊野隆之さんと忍澤勉さんの作品について言及してもらえました。それだけでわたしの質問者としての役割は果たせたものと思います。
 文学への取っ掛かりが野村美月さんの『文学少女』シリーズだったり、キャラメル・ボックスの演劇からのSF開眼だったり、驚くやら納得するやらでした。
 川嶋さんが推薦された詩集を註文してみました。どんな詩集が届くのか楽しみです。唐突で勝手な要望としては、宮崎の詩人、嵯峨信之や「みえのふみあき」も読んでもらいたいと思っています。

川嶋侑希(かわしま・ゆき)
1996年群馬県生まれ。詩人・作家。SF Prologue Wave編集部員。岡和田晃編集部員の大学講義元受講生。大学在学中の2018年、小説『Utopia』をSF Prologue Waveにて発表。その後補作、改稿、自作楽曲を加えた同タイトル小説にてデビュー。2021年にSF Prologue Wave編集部へ加入し、小説や『ナイトランド・クォータリー』シリーズ(アトリエサード)、林美脉子著『レゴリス/北緯四十三度』(思潮社)などの書評を発表。北海道の詩誌「フラジャイル」に参加しており、詩作品を寄稿中。2023年2月25日発行の「図書新聞」へ蜷川泰司著『絶滅危惧種』の書評を寄稿。