「SF Prologue Wave編集部メンバー他己紹介その1」大和田始(質問者 岡和田晃)

「SF Prologue Wave編集部メンバー他己紹介その1」大和田始(質問者 岡和田晃)
「SF Prologue Wave って、どんな人たちが作っているの?」という声にお応えし、SF Prologue Wave編集部メンバーに、別のメンバーが質問をしてみました。 
第一弾は大和田始さん。質問者は岡和田晃さんです。

◎大和田始さんへの質問(岡和田晃より)

1・SF Prologue Wave(SFPW)に入られて1年半になりますが、率直な所感はいかがですか?
 最初は掲載される作品の多くが星新一流のSS(ショートショート)に思え、あまり評価できなかったのですが、いろいろ読んでいるうちに自分の好みの作品も見つかるようになり、それは奇想天外な発想とそれを演繹する展開と奇天烈な着地の作品だと判ってきました。自分では書けないので、僥倖を待つしかありませんが、さらなる傑作が登場することを期待しています。

2・SFPWでは大和田さんの評論シリーズの復刻を進めてきましたが、ご感想はいかがですか?
 ほとんどが20代のころの理論無し、無手勝流の放言です。時代の雰囲気を表しているとは言えるかもしれません。唯一、大島弓子論は起承転結の整った文章だと思いました。

3・2に加えて、「ナイトランド・クォータリー」Vol.25の大和田インタビュー、翻訳書『ヴィリコニウム~パステル都市の物語』の刊行と、大和田さんの快進撃が続いています。これは山野浩一・佐藤昇・土方潤一・バラードインタビューの採録・公開といった、広い意味でのニューウェーヴSFの復権と連動しているという認識です。総合的な見地からご見解をお聞かせください。
 大戦が終わって少し時間がたち、解放された精神が世界中で文化の革命を展開していた。その末尾に、英国に遅れて日本の片隅でSFの革命を、山野浩一の金魚の糞として、じたばたしていました。山野さんは〈新しい波〉は日本において一定の成果を得たと考えていたようです。アメリカでも、近年は女性作家やアメリカ人以外の作家が台頭し、ようやく〈新しい波〉と呼ぶにふさわしい作品が現れているのかもしれません。エル=モフタール&グラッドストーンの『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』はその1つでしょう。

4・SFPWではスタンリー・ワインボウムの訳が公開予定ですが、次にやってみたいことはありますか?
 1960年代の英国SFを漁ってみようと思います。ただクリストファー・プリーストもイアン・ワトスンもまだ習作の段階なので、他を発掘してみようと考えています。

5・SFPWでオススメの作品や書き手はありますか?
 川嶋侑希さんは文学の香りあふれる作品で読むのが楽しいです。深田亨「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」は完璧な作品かと思います。吉澤亮馬「姉の夜髪(やはつ)」は発想が素晴らしく、ダークで、ケイトリン・キアナンを思い起こしました。

6・SFPW外で注目していること・人・作品等はありますか? 狭義の小説やSFに限りません。
 ようやく学魔さん(英文学者の高山宏氏)を知りました。はちゃめちゃに面白いです。
 日本古代史は九州王朝論が深化して豊国王朝論が面白くなっています。新庄智恵子さんの『謡曲の中の九州王朝』を読んで以来、万葉集を北部九州で詠われたものとして解釈してきましたが、さらなる解釈が可能になるようで、わくわくしています。

7・普段はどういう生活をしているか、差し支えない範囲で1日の流れを教えてください。
 平日の日中は家業の雑務。土日は庭の手入れ。朝早く起きると翻訳、読書。 夜は女子サッカーの試合の観戦、中国韓国の歴史ドラマ観賞。韓国のは下世話だが、中国のは現世を超越した視点があって感銘することがある。

◎質問を終えて
 「ナイトランド・クォータリー」Vol.25で大和田さんにインタビューした際、「静かなラディカリズムを翻訳や批評に活かして」とのタイトルにしました。大和田さんは謙遜されていますが、平岡正明や山野浩一の影響を受けた大和田始さんの評論は、むしろSF批評がラディカリズムを喪失した現在でこそいっそう輝いているものと言えます。翻訳においても、その選書や文体の格調には、「新しい波」を見据え続けた大和田始印が、はっきり名刻されています。

□大和田始(おおわだ・はじめ)
 翻訳家・評論家、SF Prologue Wave編集部員、日本SF作家クラブ会員。1949年宮崎県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。1972年に「NW―SF」5号の「遊侠山野浩一外伝」で評論家デビュー、「SFマガジン」掲載のロバート・シルヴァーバーグ「太陽踊り」の訳で翻訳家デビュー。以降、「SF論叢」、「トーキングヘッズ」等に参画。主な翻訳にブライアン・アッシュ『SF百科図鑑』(共訳、サンリオ)、J・G・バラード『コンクリートの島』(共訳、NW―SF社/太田出版)、ブライアン・オールディス『世界Aの報告書』(サンリオSF文庫)、M・ジョン・ハリスン『ヴィリコニウム パステル都市の物語』(アトリエサード)、クリスチャン・ライリー「山の中へ、母なる古齢の森の中へ」(「ナイトランド・クォータリー」vol.19)、カイラ・リー・ウォード「そして彼女の眼の中で、都市は水没し」(同Vol.19)ほか。また「ナイトランド・クォータリー」Vol.25にインタビューが掲載。「SF Prologue Wave」では評論の再録企画も推進されている。最近の評論に「素潜り「集中都市」」(「ナイトランド・クォータリー」Vol.27)、「死の探求 『再着装の記憶』書評」(「TH」No.89)、「「『いかに終わるか 山野浩一発掘小説集』書評」(「SF Prologue Wave」)ほか。実父である詩人・フランス文学者の服部伸六、伯父である翻訳家・小説家の神戸政郎の顕彰活動でも知られる。