新刊紹介「折口裕一郎教授の怪異譚 葛城山 紀伊」 市川大賀
著:市川大賀
表紙・挿絵・春曄
この国の歴史が書かれた書物、『古事記』『日本書紀』それらを学んだ大学教授が、行く先々で怪奇な事件やこの世のものではない存在たちと出会う。
東京都内の某大学に勤務する、民俗学の教授、折口裕一郎は、『古事記』『日本書紀』を手に、助手で歴史には詳しいがどこか間が抜けてお調子者の金城や、ゼミの女生徒宝井と共に、野や山をフィールドワークしていく中で、古代の日本が遺した負の遺産ともいうべき、妖怪や『記紀』に記された荒神などと出くわしていく。
主人公の折口は陰陽道も呪詛も使えない。体力すら平均以下の主人公が、行く先々で巡り会う「この国の、表と裏の間に流れている、はさまれた真実」の使者たちとの伝奇譚スペクタクルディスカッションドラマ!
2020年『スマホ・SNS時代の多事争論 令和日本のゆくえ』で書籍デビューした市川大賀の、満を持しての小説第一弾。
各章解説
『奈良葛城山の土蜘蛛伝説』
奈良と和歌山の県境にある葛城山を登る一人の男。折口裕一郎は、以前この山を登って土蜘蛛と呼ばれる妖怪の内乱に巻き込まれ、一人の女性土蜘蛛を救った経験があった。
「土蜘蛛は、他者を愛するということが出来ないんです」
その、女性土蜘蛛の言葉を最後に別れた二人であったが、折口は帰京後、多忙な日々を送る中で今一度、その土蜘蛛に会うべき理由を自分の中に見つけ出す。再び葛城山へ向かった折口を待ち受けるものは?
『紀伊熊野の地之龍』
折口ゼミの女生徒の宝井が、毎晩悪夢にうなされている悩みを折口達に打ち明けに来た。調べてみると、その悪夢は、中国の数千年前の武具と、宝井の先祖の故郷、紀伊熊野が絡んでいるらしい。折口は助手の金城と宝井を連れて、早速現地へ向かうことにするが、そこで三人を待ち受けていたのは、数千年の古来から繰り返される、血の血脈と八俣遠呂智の戦いと、我々が知る現実や歴史と、『記紀』の記述との間に挟まれた「三つ目の歴史」であった。
「地之龍」と呼ばれし化け物の幻影と、数千年を経た戦いの宿命が、折口達の目の前で繰り広げられる!
筆者談
ライターとして四半世紀以上やってきて、商業小説はこれが初めての上梓になりました。とはいえ、僕が自分で「折口くんシリーズ」と呼んでいる、この、どこかで聞いたようなテンプレっぽい外枠と、誰も読んだことがないジャンルの内面を持つ小説群は、実は若い頃から書き続けて今があったりもします。
例えば僕の私的な作品としては、『シン・ゴジラ』を30年先駆ける形で『超ゴジラ』という作品を、90年代前半に書いたこともあり、その時の狂言回しとしての主人公も折口くんでした。ただの退魔物、ただの民俗学綺譚と思われがちで、マーケティングの最先端で数字を争うタイプの編集の、誰に見せても「もっと専門性を落とさないと誰も読まないぞ」「分かりやすいキャッチーな展開にしろ」「諸星大二郎漫画をパクりたいなら、ちゃんと超常的に解決するまでを克明にしろ」と突き返されること数年。ようやく日の目を見た作品です。この作品に関するこぼれ話や四方山話は、僕の個人サイトで何度もアップしておりますので、そちらも合わせ読んでいただけると幸いです。折口君が「次」に挑む、謎と事件も既に構想の骨組みは出来上がっております。どうか皆様にお楽しみいただけますように。
『折口裕一郎教授の怪異譚 葛城山 紀伊』https://www.amazon.co.jp/gp/product/4802078188