新刊紹介「星霊の艦隊シリーズ」山口優

「星霊の艦隊1~3」(早川書房)
著:山口優
イラスト: 米村孝一郎
キャラクター・衣装原案:じゅりあ

「最も計算効率が良いラップトップ=究極のラップトップ」という思考実験があります。「宇宙のプログラムする宇宙」(セス=ロイド著、水谷淳訳、早川書房刊)という本に載っているもので、「質量一キログラムのパソコンは原理的に最大どの程度の計算が出来得るか」というテーマで試算を行い、一キログラムの質量全てを量子ビットの切り替えのエネルギーに使うことが出来るなら、一秒間に一〇の五一乗回の演算を行うことが出来る、と結論しています。また、ムーアの法則が途切れることなく続くなら、それが実現するのは西暦二二〇五年であろう、と。
 この本ではそのラップトップがどんな形態をしているかについては言及がありませんが、演算の原動力となる質量すなわちエネルギーを最も効率よく詰め込んだ形態がどうなるかについては、我々はよく知っています。
 ブラックホールです。
 この小説「星霊の艦隊」シリーズは、ブラックホールを基盤とした、現在のコンピュータを遥かに超越する演算機が文明の基盤となり、人類文明が天の川銀河全体に拡散した西暦二五〇〇年代の未来を描いています。究極のラップトップの完成予想時期からおよそ三〇〇年後、演算機の質量が惑星や恒星と同レベルとなり、演算力も質量に比例して更に飛躍的に増大します。こうした、現代から見れば想像も演算機を制御するAIが存在するのですが、このAIを巡る戦いが作品の中心テーマです。
 AIは人間の道具なのか、人間と対等な新たな知性種なのか、それとも、人間を遥かに超越した新たな文明の担い手なのか、という対立です。
 この対立がどう帰結するのか――どうぞ本書シリーズをお手にとって、見届けてください!

星霊の艦隊 1
星霊の艦隊 2

*本作の著者である山口優氏は、SF PrologueWaveで「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ)」を好評連載中です。