「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第22話」山口優(画・じゅりあ)

「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第22話」山口優(画・じゅりあ)

<登場人物紹介>

  • 栗落花晶(つゆり・あきら)
     この物語の主人公。西暦二〇一七年生まれの男性。西暦二〇四五年に大学院を卒業したが一〇年間無職。西暦二〇五五年、トラックに轢かれ死亡。再生暦二〇五五年、八歳の少女として復活した。
  • 瑠羽世奈(るう・せな)
     栗落花晶を復活させた医師の女性。年齢は二〇代。奇矯な態度が目立つ。
  • ロマーシュカ・リアプノヴァ
     栗落花晶と瑠羽世奈が所属するシベリア遺跡探検隊第一一二班の班長。科学者。年齢はハイティーン。瑠羽と違い常識的な言動を行い、晶の境遇にも同情的な女性。
  • ソルニャーカ・ジョリーニイ
     通称ソーニャ。シベリア遺跡にて晶らと交戦し敗北した少女。「人間」を名乗っているが、その身体は機械でできており、事実上人間型ロボットである。
  • アキラ
     晶と同じ遺伝子と西暦時代の記憶を持つ人物。シベリア遺跡で晶らと出会う。この物語の主人公である晶よりも先に復活した。外見年齢は二〇歳程度。瑠羽には敵意を見せるが、当初は晶には友好的だったが、後に敵対する。再生暦時代の全世界を支配する人工知能ネットワーク「MAGIシステム」の破壊を目論む。
  • 団栗場 
     晶の西暦時代の友人。AGIにより人間が無用化した事実を受け止め、就職などの社会参加の努力は無駄だと主張していた。
  • 胡桃樹
     晶の西暦時代の友人。AGIが人間を無用化していく中でもクラウドワーク等で社会参加の努力を続ける。「遠い将来には人間も有用になっているかも知れない」と晶を励ましていた。
  • ミシェル・ブラン 
     シベリア遺跡探検隊第一五五班班長。アキラの討伐に参加すべくポピガイⅩⅣに向かう。
  • ガブリエラ・プラタ
     シベリア遺跡探検隊第一五五班班員。ミシェルと行動を共にする。
  • メイジー
    「MAGIシステム」が肉体を得た姿。晶そっくりの八歳の少女の姿だが、髪の色が青であることだけが異なる(晶の髪の色は赤い茶色)。

<これまでのあらすじ>
 西暦二〇五五年、コネクトーム(全脳神経接続情報)のバックアップ手続きを終えた直後にトラックに轢かれて死亡した栗落花晶は、再生暦二〇五五年に八歳の少女として復活を遂げる。晶は、再生を担当した医師・瑠羽から、彼が復活した世界について教えられる。
 西暦二〇五五年、晶がトラックに轢かれた後、西暦文明は滅び、「MAGI」と呼ばれる世界規模の人工知能ネットワークだけが生き残り、文明を再生させたという(再生暦文明)。「MAGI」は再生暦の世界の支配者となり、全ての人間に仕事と生活の糧を与える一方、「MAGI」に反抗する人間に対しては強制収容所送りにするなど、人権を無視したディストピア的な統治を行っていた。一方、西暦文明が滅亡する前のロシアの秘密都市では、北米で開発されたMAGIとは別の人工知能ネットワーク「MAGIA(ロシア側名称=ポズレドニク)」が開発されていた。
 MAGIによる支配を覆す可能性を求めて、ポズレドニクが開発されていた可能性のある秘密都市遺跡「ポピガイXⅣ」の探検に赴いた瑠羽と晶、そして二人の所属する探検班の班長のロマーシュカ。そこで三人はポズレドニクに所属するソーニャと名乗る人型ロボットと出会う。ソーニャは自分達(ポズレドニク勢)の「王」に会わせると語る。ソーニャの案内でポピガイⅩⅣの地下深くにあるポズレドニクの拠点に赴いた晶らは、そこで晶と同じ遺伝子、同じ西暦時代の記憶を持つポズレドニクの「王」と名乗る人物と出会う(晶は彼女をカタカナ表記の「アキラ」と呼ぶことにした)。MAGIを倒す目論見を晶に語り、仲間になろうと呼びかける晶。が、人と人のつながりそのものが搾取を産むと語るアキラは、MAGIを倒した後には、人と人のつながりのない、原始時代のような世界にするつもりだと示唆する。晶はアキラの目論見に加わることを拒否、アキラと自分が同じ生体情報を持つことを利用してポズレドニク・システムのセキュリティをハックし、アキラに対抗する力を得る。
 アキラは晶が自らに従わないことを知ると、身長一〇〇メートルに達する岩の巨人を出現させ、晶と仲間たち、そして新たに支援に駆けつけたガブリエラ、ミシェルをはじめ多くの冒険者たちを攻撃する。攻撃は苛烈で、晶たちはいったん撤退を決意する。
 一方、自身がポズレドニク・システムとして作られたことを思い出したソルニャーカ・ジョリーニィも、晶たちに味方し、彼女等をポズレドニク勢として受け容れていた。
 それを知ったMAGIシステムは、晶たちと敵対することを決意し、そのアバターをレーザー照射で消去してしまう。
 MAGIシステム撤退の後、再びアキラとの交戦が始まる。ゴーレムが迫る中、晶は瑠羽ら仲間を逃がし、自分一人だけでアキラと戦うことを決意する。

 
 数合、アキラと剣を打ち合わせ、撤退しようとした俺の背後からゴーレムが殴りかかる。
 俺はそのスピードのある一撃を辛うじて避け、ゴーレムの腕を駆け上がりながら、剣を構え、原初MAGICを打ち出す。
「炎よ灼き尽くせ――アグニ!」
 炎系原初MAGIC『アグニ』――だが、それがゴーレムの頭部を直撃する前に、アキラが俺の正面に回り込み、同じMAGICを放ってそれを相殺する。
 俺達のMAGICを成り立たせるため、無数のドローンが周囲を飛び回り、燃料を補給し、空中にぶちまける。
 上空の衛星からは絶えずレーザーが降り注ぎ、大気と大地を焦がす。
「――流石はオレと同レベルだ!」
 俺との距離を詰めてきたアキラが顔を間近に近づけて言う。
「それだけの力――お前ならもう分かるはずだ。仲間など足手まといにしかならないと!」
 俺は何も答えない。アキラとの会話よりも重要なことを頭の中で働かせていたからだ。
「反論できまい! この世界は個人で全て充足できるようにできている。分業など不要!社会など不要! MAGIがそのように作ったんだ! それでもMAGIは、人間の真の幸せは何かを模索した結果などと言ってその全てを台無しにし、再び『パーティ』などを設定し始めた」
「さあ、オレに証明して見せろ! お前がオレに何が勝っているのか。お前の仲間がいることで、どうオレを出し抜いてみせるのか!」
 俺はアキラの猛攻を受けながら、小さく口の中で唱えていた。
「光よ、岩を切断せよ。この岩どもを以て、岩の身体を為せ。現れよ。我が巨人――」
 俺は特殊MAGICを唱える。
「ゴーレム!」
 アキラに向けて、凄まじい量のレーザーが上空から降り注いだ。岩石が切り出され、砂塵があふれ出すように充満する。そこに無数のドローンが飛び込んでいく。
「何?!」
 アキラが後ろに退避する。同時に、彼女が操るゴーレムも背後に退避していく。砂塵の煙は上空に昇り、濃さを失いながら巨大化していく。
 そこに、巨大な人型のシルエットがゆらりと揺れる。
(――大きい……期待以上だ)
 俺はそいつの肩の上あたりまで移動した。
 そのときには砂塵はきれいに晴れている。俺は、夕陽に照り輝くそれの肩に着地した。
「……ゴーレム!」
 アキラが驚愕の顔をする。当然だろう。彼女が出した岩の巨人の、ほぼ二倍の大きさがあるのだ。
「どうやって……!」
 俺は首を振った。
「俺も詳細は知らない。彼女等の関数を組み合わせて、最後のMAGICを唱えただけだからな」
「彼女等……」
「俺の仲間たちだよ。岩石を切り出すMAGIC、それを組み合わせるMAGIC――ゴーレムの構成要素となるMAGICを作っておいてくれるよう頼んだんだ。俺は、それを俺の頭の中で実行しただけだ。MAGIシステムにおける高位MAGICの実行権限は俺にしかないが、コードの作成なら誰にでもできる。寧ろ、俺は今、彼女等の望みを叶える媒体に過ぎない。お前という災厄を倒したいという、望みを叶えるためのな」
 アキラは俺を睨み据えた。
 背後からアキラのゴーレムが迫ってくる。俺のゴーレムは、振り向きもせず、腕を後ろに回してアキラのゴーレムの頭を押さえ込んだ。無数に放たれるビームの応酬。
 二つのゴーレムが互いに放つビームだが、俺のゴーレムの方がその量と出力が高いようだ。
 アキラのゴーレムが、ゆっくりと大地に沈んでいく。
「……アキラ。社会というネットワークはスケールフリーにできている……つまり極大ノードがしばしば出現し、そのありようは極めて不平等だ。ネットワークでノード同士が結ばれ、通貨でも評判でもいい、交換可能なものを交換していくとき、数学的に極大ノードが生まれることは避けられない。ノード本人の意思に関係なく、だ」
「俺は、今の俺はそれだと思っている。BRAVE――勇者。俺は確かにこの社会に不満を感じ、何らかの手段でこれを解消したいと願い動き続けたが、お前と同じバイオメトリクスデータを持っていたことなどは、俺の意思とは無関係に俺がこの世界に生まれた時から定められていたことだ。ノード本人の意思とは、最終的にそこに集まった力をどう使うか――あるいは、俺の立場として望まれていることにどれだけ沿うか、ぐらいしかないのではないかとも思う」
「お前のように全てのつながりを断ったとしても、俺はお前のようになれたかもしれない。だが、それでも、今の俺が体現しているような人々の望みの総算にはなれなかったのではないかと思う」
 俺はMAGICソードを構えた。
「勝負だ、アキラ。お前は俺で、俺はお前だ。そして、お前と俺の違いはたったひとつしかない。そのたったひとつがどれだけの違いを産むか、俺達の間で決着を付けよう」