「『カササギの栄光』――『エクリプス・フェイズ』ソロアドベンチャー「既知宇宙(ノウンスペース)の鍵、二つの指輪」リプレイ小説」齊藤(羽生)飛鳥

「『カササギの栄光』――『エクリプス・フェイズ』ソロアドベンチャー「既知宇宙(ノウンスペース)の鍵、二つの指輪」リプレイ小説」

齊藤(羽生)飛鳥

【おことわり】
 本作は、「Role&Roll」Vol.208に掲載された『エクリプス・フェイズ』のソロアドベンチャー「既知宇宙(ノウンスペース)の鍵、二つの指輪」をプレイし、その模様を小説風に再構成したものです。同作の核心に触れますので、あらかじめご承知のうえお読みください。


無機質な部屋。
たぶん、義体安置所。
私?
私はニネッタ・ガッツェ。たぶん。
ジェンダー・アイデンティティは女。たぶん。
料理とVRゲームに興味がある。たぶん。
今ここで明確にわかっているのは、義体修理工のジョークがつまらないことだけ。
うまい返しが思いつかないので、なぜ私はここにいるのか。
思い返してみた。


量産型のドローンや、不快なナノサイズの群体義体(スウォームノイド)に着装していた。明確。
仕事内容は、曖昧。
でも、いっそぼろ雑巾の方がマシな酷使のされ方をしていた。明確。
そして、マネキンのようなプレジャー・ポッドに再着装させられた。明確。
いつでもどこでも、奴隷のような日々。明確。
この境遇から脱出するため、私は義体の再着装を望んだのだった。明確。
それで……どうしたのだった? 忘却。
いくら思い出そうとしても、思い出せない。
回想から我に返り、指輪をつけた手に身体を撫でまわされ、微かに不快感を覚える……はずが、大部分の感情はフィルタリングされていて、何の感興もわかない。
さっきから、私の記憶には「され方」「させられた」「されていて」と、何かと受け身が多い。明確。
私に主体性がない気がする。たぶん。
一瞬、意識が途切れる。たぶん。
だいぶ時間がたったかもしれないから、はっきりとしたことは言えない。曖昧。
気がつくと、私は自分の体に微妙な違和感を覚えた。明確。
何かを埋め込まれたのか。たぶん。
分岐体作成(フォーキング)がなされたのではないか。たぶん。
どちらも、曖昧模糊としていて、わからない。
いずれにしろ、私はありとあらゆる主体性を奪われている。明確。
何としても、突き止めなくては。
まず、自分の身体に何かを埋められていないか、確認。


確認したところ、知らないうちに何かが埋め込まれてしまっている。確定。
〈インターフェイス〉か〈ハードウェア:電子工学〉の技能でテストだ。
技能が高い〈ハードウェア:電子工学〉確認。成功。
これは、パペット・ソックか。
生体義体(バイオモーフ)のボディを、他人が操れるようにするインプラント。明確。
私は私でありながら、私のままとは言えない。たぶん。
いったい、どういうこと?
自問自答に答えるごとく、私の脳内にある強迫観念が押し寄せてくる。
「指輪、指輪を探さねば……」
何よりも大事な指輪。
他人から見れば、黒くて、目立たない。艶光もない。地味。見過ごしてしまう。そんな指輪。
その指輪が、何よりも大事。確信。
私は、無重力と低重力環境に適応したバウンサー義体に再着装していることに気づいた。明確。
手足のあちこちが驚くほど柔軟。明確。
やおら〈芸術:音楽〉をテストしたくなる。明確。
この衝動の意味。不明。
私はテストをするだけだ。
成功。
ロッシーニの歌劇『泥棒カササギ』を思い出す。明確。
ネタバレだけど、真犯人は光物に弱い鳥(カササギ)だった。明確。
元になった実話だと、無実の罪なのに主人公は処刑された。たぶん。


気がつくと、私の目の前に遺棄された宇宙船があった。明確。
このまま放置しておけば、既知宇宙を放浪し、宇宙の藻屑となるだろう。たぶん。
私は標準型宇宙服に身を包み、ヤモリの足を擬したような吸着パッドで宇宙船の環境部分の端にくっついている。
さっきまで義体安置所にいたはず。たぶん。
それとも、ずっとここにいたのか。たぶん。
わからない。
わかっているのは、前に私を撫でまわす手に嵌っていた指輪を、今は私が嵌めていること。明確。
これと対になる、もう一つの指輪を見つけ出すのが、私の任務。明確。
目指す指輪は、間違いなくここにある。確定。
誰がそのことを私に教えたのかは、不明。
私は慎重に時間をかけ、ガーディアン・ポッドがアクティヴになっていないか、時間をかけて改めて調べ直す。たぶん。
これがいけなかった。明確。
「たぶん」のノリで〈目星〉をテストしたから、調べ直しを失敗した。
機械ロックを焼き切り、宇宙船のボディをこじ開ける100秒あまりの時間に、あらかた機能を停止したと見えたガーディアン・ポッドが、突如アクティヴになって、警戒活動と言う名の攻撃を開始する。確定。
ポッドに不意を打たれ、フラクタル状にきらめく付属肢で打ちのめされる。連打。連打。連打。
私、死亡、確定……。


義体安置所で目を覚ます。たぶん。
義体修復師のつまらないジョークを聞かされる。明確。
今度は、少女時代に思いを馳せる。
鏡に移った自分の目を覗きこむことで、自分の知らない心の底までもが見透かせるのではないかと考えていた。たぶん。
それから、指輪を求め、もう一度廃棄された宇宙船まで戻って来た。明確。
今度は完全に機能停止していないガーディアン・ポッドを見つけ出し、動き始める前に、装備品として持たされていた無力化装置を使用する。明確。
装備品を持たせた相手は、不明。
でも、無力化装置の効果は、抜群。
これで宇宙船の中に入れる。たぶん。
宇宙船の中は仄暗い。奇妙に静まり返っている。明確。
私はどちらへ向かうべきか? 曖昧。
わからない。
船倉へ行ってみよう。指輪がありそうだ。たぶん。


船倉は厳重に封鎖されていた。たぶん。
私が嵌めた指輪をかざしたら、あっさりと開いた。確定。
いったん入れば、戻れるかどうかわからない。たぶん。
ここは進まず、他の場所も調べてからにしよう。
私はコックピットへ行った。明確。
コックピットに入るパスコードは、攻めてくるエイリアンを銃で打ち倒す、シューティングVRゲーム形式になっていた。明確。
このパスコードを作った人物は、おちゃめな人物だ。確定。
成功数5以上を目指してゲーム開始。
負傷をだいぶ受けた。明確。
でも、成功数5以上を得られた。確定。
コクピットに入り、目ぼしいものがないか、遺物、断片的なデータ問わず、片っ端から回収。迅速。
他のスカベンジャーが見過ごしたデータを綜合・分析。
そう言えば、私はいつからこんな能力があったんだ? 曖昧。
わからない。
きっとどこかで身に着けたのに忘れたんだ。たぶん。
綜合・分析した結果、この船は地球の軍事企業に関わっていた。確定。
地球人類の9割が死滅させられた“大破壊”(ザ・フォール)後、災厄をもたらした元凶たる超AIのティターンズの痕跡を探っていたようだ。たぶん。
船内にき○この山とた○のこの里の空容器がいくつか転がっていたので、船内できのこたけのこ戦争が勃発した可能性も否めない。
とにかくこの宇宙船にて、何らかの事故が起き、活動停止した。確定。
ナノバンデージ1つをついでに回収し、負傷1つ回復。
次は、居住スペースを調べよう。確定。


居住スペースは、汚部屋だった。確信。
群体義体や小バエ・サイズのドローンであるスペックス(スペック)の侵入を防ぐため、バグ・ザッパーが張り巡らされている。明確。
トランスヒューマンには無害なレベルの電磁波しか出さないはずのそれが、ところどころ制御をこえた異常な電磁波を出している。確定。
調べる価値がありそうだ。たぶん。
〈学術:ナノテクノロジー〉と〈フリーランニング〉でテスト。
失敗し、治りたての負傷の損傷がまた口を開く。明確。
何とか強化バグ・ザッパーに引っかからず、監視カメラの記憶をジャックできた。明確。
記録映像は、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。確定。
何らかの理由で変異した乗客が、互いに血みどろの殺し合いを繰り広げていた。
これが過激派同士の衝突による、きのこたけのこ戦争か。たぶん。
最後に生き残った一人が、船倉へよろよろと向かった。
すぎ○こ村の空き容器を手にしていることから、第三勢力だったため、あまり攻撃を受けなかったらしい。たぶん。
しかし、もうすぐ死ぬことには変わらない。明確。
最後の生き残りが、すぎ○こ村の空き容器を落とした。その時、手に見なれた指輪が嵌められているのが見えた。明確。
あれこそ、私が求めている物! 確定! 確信! 確実! 
私は、後回しにしていた船倉へ直行した。明確。
もう迷わない。たぶん。
船倉の先へ進むぞ。確定。


船倉の内部は、白い襞のような奇妙な造りになっていた。明確。
重力の制御もなされていない。確定。
機械と言うより、巨大な生物みたいだ。たぶん。
「指輪を開くには、もう一つの指輪が必要なり」
どこからか、声が聞こえる。たぶん。
聴覚センサーに反応していないからだ。
でも、声は聞こえる。明確。
まさか、私の精神に対し、直接語りかけがなされているのか? たぶん。
「指輪は持ち主を選ぶ。そなたは、相応しいか? さまよえるオランダ船から振り落とされずに済むかな」
さまよえるオランダ船……どこかで聞いたことがある。たぶん。
無補給で航海できるハイスペック帆船だった気がする。たぶん。
エンジンダウンしていた船が動き始めた。明確。
隙間から空気が漏れ出していく。明確。
〈知覚〉と〈航法〉でテスト。《勇気》を駆使して、両方とも成功。
「あとは勇気だ」と言った九人の戦鬼のうちの一人の言っていたことは、当たっていた。確信。
未知の形態をとってはいるが、船は遠隔計測法による自動操縦で支援AIはその行き先を、未知の太陽系辺縁部に指定されているかのようだ。たぶん。
これまでの進路がポップアップされ、私のいるのが宇宙船アニック=ノヴァ号で、天王星の衛星オベロンにあるワームホール、フィッシャー・ゲートを通って外惑星圏へやって来たとわかった。


私は備え付けの酸素マスクを引っ張りだし、なんとか呼吸を確保する。明確。
それから、エアロックを改めて閉め直す。
トラウマ1つ解消された。たぶん。
奥の区画がアンロックされる。重力が反転され、天井にへばりつきながら、進む。明確。
部屋のあちこちに四面体の紙パックのようなものが吊るされている。明確。
中には人型サイズの生き物が入っている。たぶん。
おそらく、この中に私の目指す「指輪」を嵌めた者がいる。たぶん。
私はフレックス・カッターで四面体を切りひらき、中を探る。明確。
〈ネットワーキング:犯罪者〉でテスト。成功。
中身は、私が今の義体に再着装する前にXPニュースで目にしたことのある犯罪者達だ。たぶん。
私が前の義体の記憶を思い出すとは珍しい。
でも、こいつらが犯罪者なのはわかる。明確。
いったい、私は何なんだろう? 曖昧。
深く考えたいが、それよりも指輪を求める衝動が高まる。明確。
彼らは、仮死状態のまま眠りに就いているようだ。たぶん。
〈無重力活動〉でバランスを取りながら〈手先〉で目指す指輪を探す。
ここは《勇気》を駆使しよう。
失敗。
失敗。
四面体の中のものをうっかり傷つけてしまい、そいつが暴れ出す。確定。
宇宙船内に警告音が鳴り響く。明確。
突如、エアロックが開いた。確定。
グリップ・パッドで貼りつく暇もなく、吸いこまれる。確定。
私は、宇宙の藻屑となる。
この調子なら、大脳皮質記録装置も回収してもらえない。
先程迎えた死とは異なり、誰も私を再生できない。決定。
だけど、これでよかった。確定。
これからも、主体性を奪われ、操られ続ける人生なんて、ごめんだ。確信。
感情のフィルタリングも勝手に調整されているなんて、生きているとは言えなかった。確信。
でも、この失敗は私自身がしたこと。
私を操っていた者がしたことではない。
すなわち、この終結は、私がもたらしたもの。明確。
私を操っていた者よ、ざまあみろ。
私は、自分を取り戻せた。
これは敗北ではない。
勝利だ。
おまえは、自分を絶対者だと自惚れている。
しかし、実際のところ、わたしという人形一つ満足に操れない、できそこないの絶対者ではないか。明確。
これは、私の勝利。確定。
だから、こんなにも私は栄光に輝いている。
私、ニネッタ・ガッツェが、おまえに打ち勝った勝利の輝きだ。
勝利。勝利。勝利。勝利。勝利。勝利。勝利。勝利。勝利。勝利……。

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