「【追悼】八杉将司さんのこと」片理誠

 八杉将司さんの突然の訃報に接し、悲嘆に暮れております。戦友を失ってしまいました。
 彼は確かに以前も、企画が通らないと悩まれていました。でもそれは私もそうですし、今、ほとんどの作家はそうなんだと思います。以前、別の作家さんから「なぜ私たちはまだ正気でいられるのでしょう?」と聞かれたこともありましたが、今、私たちは永遠に続く撤退戦を戦っています。後退局面です。
 今、出版界はどこも青息吐息。現場の編集さんたちは血反吐を吐くような思いで頑張っていますが、吹きすさぶ逆風は日を追うごとにいや増すばかりで、個人や一企業の努力だけではどうにもならない部分も大きい。かつてあった発表の場が、どんどん失われつつあります。
 八杉さんも私も第5回日本SF新人賞出身で、言わば同期。でも彼は大賞受賞で、私は佳作入選ですんで、格が違うわけです。授賞式の時の彼は本当に輝いていました。希望に満ちていました。それがまさか、こんなことになってしまうなんて。本当に悲しい。
 SF Prologue Waveでも、八杉さんは初代編集長で、私は当時、副編集長。私にとって八杉さんは常にナンバー1だった。明るくて、朗らかで、いつお会いしてもニコニコされている人でした。作品も、ほんわかとした、優しい作風で、やっぱりご本人の人柄がよく反映されてました。
 一方でバリバリのハードSF志向の書き手でもあって、最先端の科学についても詳しく、とても勉強熱心なかたでした。「ほんわかしつつも、尖っている」という、独特な世界観を表現されてました。私は、八杉さんの作品はいつかきっと世間に刺さると思ってましたので、残念でなりません。
 これから小説家になろうと思っている人がもしこの文章を読んでくれていたら、私からあなたにアドバイスできることは一つだけ。「これからはセルフプロデュース力」です! これは以前、ある編集さんに教わったことなんですが、他人を頼ってたんじゃ駄目です。売れたかったら、自分で売るしかない。
 私が今も正気を保てているのは、たぶん、「Eclipse Phase」と「Twitter」のおかげ。EPではアナログゲーム(特にTRPG)に携わっている人たちから、ツイッターでは“なろう”や“カクヨム”、“同人誌”等で頑張っている作家さんや絵描きさんたちから、影響を受け、エネルギーを分けてもらっている。
 これらがなかったら、私もとっくの昔にエネルギーを失い、意気消沈したまま二度と浮上できなかったかもしれない。彼らは日々、遮二無二セルフプロデュースに励んでいます。リツイートひとつだって、立派な意思表示であり、アピール。新しい時代には、新しいやりようがあり、そこには新しい炎がある。
 かつてあった発表の場がどんどん失われつつある一方で、新しい発表の機会も生まれている。どこだろうと何だろうとなりふり構わずPRして、作家は自分の存在を世界に証明し続けるしかない。タフでなければ、やっていけません。繊細なタイプの書き手さんにとって今は相当に辛い時代だろうと思います。
 私は辛い時、「なぁに、アルバイトしながらだって小説は書ける。読者が一人もいなかったとしても、俺は俺の新作を読みたいし、読む」と思うことにしてます。
 コロナのせいで、SF作家クラブもしばらくリアルでの集会をできていなくて、その影響もあったのかもしれません。実際に会って、お互いに愚痴でも言い合えていたら、少しは違っていたのかもしれない。悪い時期に、悪いことが重なってしまった。
 八杉将司さんのために祈ります。
 八杉さん、どうか安らかに。
 沢山、ありがとうございました。