「春の遺伝子――公開戯曲読解」関竜司

「春の遺伝子――公開戯曲読解」(岡山県天神山文化プラザ)
関 竜司(日本SF作家クラブ会員・評論家)

 2021年12月4日(土)・5日(日)に岡山県天神山文化プラザで「春の遺伝子」(脚本:河合穂高、演出:角ひろみ)の公演が行われる。今回はそれに先駆けて公開戯曲読解として、脚本家、演出家、出演陣を交えた「春の遺伝子」の公開戯曲読解が行われた。こうした公演前のプレゼンテーション・公開稽古は海外ではしばしば行われるが、日本では稀だ。
 河合穂高の「春の遺伝子」は、2020年劇作家協会新人戯曲賞の最終候補2作品まで残りながら惜しくも受賞を逃した非常に質の高い戯曲だ。
 遠くない未来の日本。原発事故で汚染された瀬戸内地域で、一人の裸体の男性が記憶を失った状態で発見された。遺伝子検索技術の結果、男性は無事、家族のもとに帰るが、時を同じくして男と同じ遺伝情報をもつ死体が発見される。謎の解明のために家族は、帰宅困難地域で稼働を続ける無人施設にたどり着く。
 遺伝子操作、臓器移植、再生可能エネルギーのみで動く〈第六産学複合都市〉などSFマインドをくすぐる用語・設定を散りばめながら、生命倫理、人間と動物との境界、人間とは何か(どう扱うか)という問題へと物語は展開する。事実を感情的にではなくフラットな視点で積み重ねる〈報告劇〉は、戯曲賞の選者たちにも高く評価された。
 講演終了後、河合氏と話す機会があったが、現役の医学研究者として医療の最前線にたずさわっているだけあり、強靭な思考力と社会の変化を鋭敏に読み取る感受性の強さ、教養の深さ・広さに感嘆した。またやはり伊藤計劃の『虐殺器官』にも共鳴するところがあったようだ。今から本番が楽しみな戯曲読解だった。
(戯曲本文はこちら:(リンクお願いします。ここから→)https://playtextdigitalarchive.com/drama/download/307(←ここまで))
(2021年8月1日)

【作者コメント】
『春の遺伝子』は、東京大学などで実際に行われている、動物の体内でヒト細胞由来の臓器を作成する研究に着想を得て、2018年岡山で執筆・上演されました。当時は30年ほど先の未来を想定して書いていましたが、初稿から3年経った今、中国でヒトとサルのキメラが作られるなど、時代は想像以上の早さで進んでいるようです。普段研究に携わっていても、日々更新される新たな知見は、私の想像を遥かに凌駕し、「事実は小説より奇なり」を肌に感じる世の中になっていると思います。
 この戯曲では、突如現れた「ヒトの姿をした人工豚」を前に、人々が混乱し、一見破綻のない意見同士が対立します。それは、今の世界に通じるものがあります。このコロナの時代に、岡山でこの戯曲が再演されることをとても嬉しく思うと同時に、今だからこそ配信・上演される意味があると感じています。

河合穂高