蔵出しインタビュー「SF Prologue Wave編集長八杉将司」

【注意事項】本インタビューは、旧SF Prologue Waveのテストのために2010年8月に行われたもので、旧SF Prologue Waveでは公開されておりません。また、インタビューにおけるSF Prologue Waveの運用は、構想段階のものであり、その後の運用で変更されている部分があります。

――なぜ新しいSF雑誌をいまオンラインで立ち上げるのでしょうか。

八杉「SF新人賞と小松左京賞が終わってしまいましたよね。まさしくありゃーという感じでした。確かにわれわれ歴代受賞作家はほとんど活躍できていません。しかし痛しかゆしです。原稿はみんないっぱい書いているんだけれども、今のところ発表できる媒体がすごく少ない。『SFマガジン』とか『SFJapan』はあるのですが、とても足りません。発表できなきゃ意味ないわけですよ。今のところ少ない枠を奪い合ってる状態で、われわれ若手にまではなかなかお鉢がまわってきません。インターネットの自分のブログなんかで発表することももちろん可能ですけど、これまた埋没して誰も見に来てくれない可能性が高い。ならばSF作家クラブの看板の下に自分たちで新たな媒体を立ち上げ発表したらどうだろう。読者はもちろん編集者の人が読んでくれる可能性もあります。それによって次の仕事につながっていく可能性がある。そうしたことがこのネットマガジンという形式で出来るんじゃないだろうか、と考えたわけです」

――ただ、今はなき「SFオンライン」など、ネットマガジンはこれが初めてではありません。それらがみんな消えてしまった理由のひとつとして、パソコンで活字を長く読むのはつらいということがあったのではないですか。

八杉「そこでショートショートを主体にしたいと思っています。原稿用紙にして10~20枚程度に。それならさほど負担にならずにパソコン画面でも読んでもらえるのではないでしょうか。HPにしおりをはさむことはできませんからね。100枚の中篇などは難しい。ショートショートなら2~3分で読めますから。インターネットの新聞やブログの記事が長いのでそのぐらいじゃないですか。あまり長いとPCのディスプレイでは読者が疲れて脱落しかねないんですよね。継続して読んでいただくには、一つのコンテンツあたり2~3分で読めるものを供給するほうがいいのではないでしょうか」

――とはいえショートショートでは、連載小説ほど読者をひきつけ続けるのは難しくないですか。

八杉「SF Prologue Waveを始めることにした動機として、まず僕らの名前をアピールしたい、作品の発表の場がほしいというのがあるわけですよ。SF作家クラブはプロの集団で、中にはニコニコ動画のタグで言うなら「もっと評価されるべき」という感じの人たちもたくさんいます。つまりまだまだ知られていない、もっと知られてしかるべき作家がいるわけです。ひょっとしたらここに自分の好きな作家がいるかもしれない。それを読者はここでゼロから発掘できるかもしれないわけです。そして、名のあるベテラン作家さんの再録というのも考えていますんで。商業出版社が再版できなかったけど、貴重な作品、今まで滅多にお目にかかれなかった作品を載せていきたいと思うんです」

――確かに世は電子出版ブームです。一方にはすたれたりとはいえケータイ小説があり、もう一方にはipadやキンドルのように新しいフォーマットを使った配信が始まっています。では、そんな中でなぜウェヴ配信なのですか。

八杉「うーん。ひとつには、僕らが書いているものが携帯では読みにくいというのがありますね。ipadやキンドルに関しては縦書きPDFファイルとして配信することを計画しています」

――携帯電話では読みにくいという理由をもう少し説明してもらえますか。

八杉「携帯小説はひとつひとつの文章がすごく短いんですよ。そして改行がものすごく多い。まるで詩のようですよね。実際、携帯だとああいうスタイルが読みやすい。僕ら紙媒体で発表する作家が書いているようなぎっちり詰まった小説は、実際僕自身が読んでも携帯ではしんどい。では僕らが紙の上でやっているような形式に近いフォーマットは何かというと、やはり画面の大きなパソコンということになるんですよ」

――ただ、ネットマガジンは一度ポシャッたジャンルです。そこをあえて押していくためには何らかのセールスポイントが必要だと思うのですが。

八杉「まず、プロ作家の作品が無料で読めるということ、そしてそれを日本SF作家クラブという団体の名の下に出しているということがあります。無料ということは、今までSFを読んだことがない人が、新しい出会いの場を得られるかもしれない。僕ら新人は活躍の場が少ないのですが、こんなこともあんなことも書ける、こんな表現もできるんだということをぜひお見せしたい。紙媒体だと印刷されて、本屋に並んでそれから読者の反応を待つ、ということですから、どうしても時間差ができてしまいます。しかし、ネットならばほぼリアルタイムです。もっと前のめりに表現していくことができるのではないでしょうか。紙媒体では、どうしても名のある作家が中心になります。しかし、ネットならば、無名の新人にも平等にチャンスがあります。今まで出てこられなかった才能が見出される機会となるのではないでしょうか。短編小説アンソロジーでも、大森望さんたちがやっている『NOVA』や創元文庫の『年刊日本SF傑作選』のようにベスト版ならば売れるという現状があります。何か面白いものを読みたい、という需要はかなり高いと思うのですが、わざわざ本屋さんに足を運びSFの書棚まで行き本を探すほどのエネルギーのある人は残念ながらそう多くありません。でも、パソコンならばクリックひとつですぐ読める。それをきっかけにSFに興味を持ってもらうこともできるわけですよね。飽きられないよう、需要を受け止められるよう、何とか月2回ぐらいは更新していきたいと思っています。ショートショート2~3本、エッセイ、インタビューの新作を毎回お目にかけていくつもりです」

――なるほど、それは分かりました。でも、今までSFの新人賞作家の作品というのはちゃんと本屋で読めていましたよね。なぜ、いつの間に、こんなにも発表できなくなってしまったのですか。

八杉「まず、発表の場が少ないこと、早川・徳間の2誌のほか、多少定期アンソロジーがある程度です。徳間の「SFJapan」は新人に機会をくれている方ですが、年に2~3回しか出ません。しかも新人作家は格段に増えました。小松左京賞と日本SF新人賞の両方で30人近い受賞者がいるんです。作家1人あたり短編を年に1本発表できればいいほう、というのが現状です。そうなると編集者の目にも留まりにくいし、どのくらいの実力があるのかも分かりにくくなってしまう。一般の読者も忘れてしまってファンが定着しない。悪循環です。だから新たな発表の場を作ろう、ということになったわけです。もちろん編集者さんにもアピールしたいけど、一般読者が読んで面白い、と思ってくれれば、僕らの他の作品が載っているアンソロジーや単行本を本屋で探してくれるかもしれない。最近はネットで検索すればかなり簡単に分かるようになりましたからね」

――とはいえ、実際に世に出ている作品はとても少ない。となると、読者はどうすればいいんでしょう。

八杉「そういう時のためにメールフォームを設けました。ここで反響が大きければ出版社も放置しておかないはずです」

――さて、そうするとこのサイト、発足後は何を目標にしていくことになるんでしょうか。

八杉「まずは継続です。いろんな作品を見て、読んでもらう。プロが書いている作品ですから、『年刊傑作選』のようなアンソロジーに収録されるかもしれない。他のSF雑誌に転載されるかもしれない。まだアイデアの段階ですが、SF Prologue Waveとして独立したアンソロジーやレーベルを電子出版で立ち上げることも模索しています。SF Prologue Waveをやることによって、将来的に電子出版への足がかりを見出したい。ですから、書き手の方も、電子出版を視野に入れて作品を書いてほしいし、エッセイを書いてほしいし、インタビューを受けてほしい。いったいどんなスタイル、どんな文体が有効なのか。この場をいつかやってくる電子出版主流時代に向けての実験場にしたいと思います。だからこそ、キンドルやipone向けにPDFファイルでの同時配信も行うわけです」

――ではそこに登場するのはどんな作家の作品になりますか。

八杉「まずはあまり知られていないSF作家クラブ所属の新人ですね。SF作家クラブのネットマガジンですから、会員であることが絶対条件です。逆にどんな売れっ子でも、非会員の作品は掲載できません。むろんベテラン作家の方も歓迎します。入手しにくい作品や旧作に限らず、新作も歓迎します。できればショートショートをお願いします(笑)」

――では最後に編集長としての抱負をひとつ。

八杉「何よりもまず埋もれたSFの発掘です。新しい作家、新しい作品、そして幻の作品。読めなかったものを読む楽しさをぜひ味わっていただきたいと思います。とにかく、ここからブレイクする人を出したい。何か面白ことが起きるはずだと確信していますので見守ってくだされば幸いですし、どしどし参加してください。お待ちしております」

(2010年8月9日/TOKON10会場にて、聞き手・高槻真樹)