対談「SF Prologue Wave のこれまでとこれから」(第2回)

【対談の経緯】2020年8月1日にFANBOXでの運用を開始した、SF Prologue Waveは、2011年5月1日に第1号が公開されており、準備段階を含めると足かけ10年の歴史があります。そこで、FANBOXでの運用開始に際し、創刊当時の編集長である八杉将司さんをお招きし、当時の副編集長であり、現在の編集長である片理誠と、SF作家クラブ公認Web-Magazineとして立ち上げたときの思いや、運営を続けてきた成果、作家クラブの公式事業として目指すもの等について、お話し頂きました。
 なお、本対談は、6月30日から7月13日にかけ、テキストベースで実施したもので、前回と今回の2回に分けて掲載しています。

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片理:逆に私からも八杉さんにお伺いをば!
 実際にSF Prologue Waveをやってみて、一番印象に残っていることって何ですか(汗)? 大変だったことや、面白かったこと等、何でもOKです!

八杉:あー、震災の議論、ありましたね。思い出しました。ぼくはそれで名前を変えるなんてことはしたくなかったので、もし公開したあと津波とこじつけたクレームが入ったら編集長として断固と退けるつもりでいましたけど、ぼくが知る限りでは何もありませんでしたね。
 印象に残ってることと大変だったことは……。
 総会でそうそうたる作家や評論家、編集者の前で企画の説明をして、難しい質問を受けなければならなかったことですね。今思っても冷や汗が出ます。
 それから預かった原稿の対応。大事な原稿を責任をもって扱わなければならなかったので神経をすり減らしました。自分も小説家ということもあって原稿の重さは命の重さに匹敵すると思っていただけにかなりしんどかったです。でも、そう考えていたくせにしっかり対応できたかというと……無自覚に叱られるようなこともたくさんしてしまった気がします。申し訳ないです。
 面白かったことは、この企画をどう形にして、どんなふうにしていくかを考えていく過程は結構楽しかったですね。小説を書いているような感覚でした。でも、虚構ではなく現実になっていくわけで、そこはやりがいを感じましたね。
 片理さんが「面白い」と思ったところは何ですか。

片理:あの頃の総会は緊張しましたよね(笑)。私たちはまだ新参者でしたし、そうそうたるメンバーがずらりと揃ってましたので。確かに冷や汗モノでしたね(汗)。
 私が面白いと感じた、と言うか凄く勉強になったのは、まずは「編集側の立場に立てた」という点です。「なるほど、編集する側の立場からすると、作家ってこういう風に見えるんだな」と(笑)。小説家って本当に色々ですよ。
 SF Prologue Waveでは作家同士ということで、皆さんにかなり良くしていただいたりもしていて、メールのやりとりでもこちらを気遣ってくださる人もいて、日々情けが身に染みております。普段、黙々と仕事をしているだけだと無味乾燥な毎日になってしまいがちですが、PWのおかげで色々な人と交流ができて、作品を通じて言葉のキャッチボールをできたのは本当に嬉しい体験でした。
 あとはやっぱり新しい出会いです! もしこのサイトをやっていなかったら、TRPGとも、「Eclipse Phase」とも出会っていなかっただろうと思います。こんな大胆かつ精緻な世界があるとは、まったく知りませんでした。しかも皆さん、エネルギッシュで熱いんですよ。情熱の塊みたいな人たちで。色々と勉強になりました。「楽しい」というのは最高のエネルギーなんですね。
 実際にインタビューを受けたりしても、かえってこちらが恐縮してしまうくらい、皆さん丁寧で、親切で、研究熱心で(汗)。「会って、話してみると、思っていたのと全然違う」ということが幾つもあって(汗)。驚きの連続でした。飛び込んでみないと分らないことが世の中には一杯ある、ということがよく分りました(笑)。
 一人の作家として、と言うことですと、一番の計算違いは「ショートショート」ですね(汗)。あんなに難しいとは思わなかった! 全然あの長さに収まらないんです(汗)。「書いたことはないけど、まぁ、何とかなるだろう」とか最初は気軽に考えていたのですが、甘かった(汗)。
 でも八杉さんはあまりショートショートに苦手意識はなさそうですよね。いつもお願いすると何本も書いて下さるので、凄く助かっております(笑)。

八杉:そうですね、ぼくも編集者側に立てたのは面白かったです。たずさわった作品のアクセスが伸びたりしたら、自分の小説がヒットしたみたいに嬉しかったのも新鮮でした。
 ショートショートは長編や短編とも考え方からして違いますからね。しばらく創作しなくなると、勘が戻らなくて全然書けなくなりますよ。最近その傾向が強く出てしまって、以前よりも執筆速度が極端に落ちました……。あと何本も書くのは、数撃ちゃ当たるノリでやってるからです。(笑)
「超短編」みたいな作品も書きたいんですが、あれはまったく別のセンスを求められている感じがして今のところ無理だなあ。
 ショートショートといえば田丸雅智さん。何気に衝撃でした。たしか片理さんの紹介でしたよね。作品を読んだときにえらいひとがきたと思いましたよ。
 こないだ「情熱大陸」に出ていたのはびっくりしました。(笑)

片理:私は井上雅彦さんからご紹介をいただきました。確かにシンデレラ・ボーイですよねぇ。あれよあれよという間に、どんどんメジャーな存在に! 田丸さんはショートショートだけをじゃんじゃん書くという、ショートショート専門の作家さんで、私もビックリしておりました。凄い人がいるなと(汗)。ショートショートって書けない時は本当に一文字も書けないんですけど、田丸さんはお願いするといつもバンバン書いてくださるんで、やっぱり得意な人は全然違うなぁと(汗)。太田忠司さんや立原透耶さんも、むしろショートショートの方が書きやすいと言われてましたので、作家と言っても得手不得手は本当に人それぞれなんですねぇ。
 日本SF新人賞って長編SFの賞でしたので、やっぱり私たちのほとんどは長編が得意なタイプの作家なんだと思うんですが、八杉さんは短編もどんどん得意になっていって、「SF Japan」にもかなり掲載されてましたよね。SF Prologue Waveではショートショートもそうだったわけで、苦手がないというか、書いている内に自然と得意になっているというか、やっぱり凄い(汗)。こういう、自分とは全然違う個性に触れることができたのも、個人的には大きな収穫ですね。作家クラブに入ってなかったら自分という殻の中のことにしか触れられなかったでしょうし、SF Prologue Waveに関わっていなかったら、数々の凄い才能の煌めきとも無縁だったんじゃないかと思います。
 そんなSF Prologue Waveなわけなのですが、この度、日本SF作家クラブのサーバーからpixivFANBOXに引っ越し、リニューアルすることになりました。コンテンツの提供、という意味では今までと変わらないわけなのですが、これを機に今までの「日本SF作家クラブ公認」という立場から、「日本SF作家クラブ公式」という立場にサイトが格上げされることになりました。pixivFANBOXはクリエイターを支援するために生まれたサービスですので、これからは“作品を書いて、読んでいただく”という他に、“支援”という新しい形もできてゆくことになるのではないかと思います。
 初代編集長として、これからのSF Prologue Waveに期待されることって、ございますか?

八杉:ぼくは何かを言える立場ではないのですが、掲載された作品がいい形で報われるようになっていくことを願ってます。
 ところで、これまでのSF Prologue Waveの成果も語っておく必要がありますね。
 ぼくのときは一行ショートショートとか企画はいろいろやったように思いますが、成果として結実したのは片理さんが編集長になられてからと思うんですよ。印象に残っていることはありますか?

片理:一番印象に残っているのは、創土社さんにご協力いただいて実現した、牧野修さんのイベントですね(笑)。あれは濃かった~(笑)。凄いメンバーが集まってました。ファンの皆さんの熱気も凄くて。とにかく大盛況。席が足りなくなってしまって、立ち見の人も大勢いて、それでも会場に入りきれなかった人がいるくらいでした。終始、和気藹々としたアットホームな雰囲気で、私が想像していたホラーのイメージとは全然違いましたけど(笑)、ハッピーな空間でした。牧野さんは本当に大勢の人から愛されてらっしゃるんだなぁ、と羨ましかったです。
 他にも、高島雄哉さんの「わたしを数える」や、林譲治さんの「ある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査」が年刊日本SF傑作選に選ばれたり、太田忠司さんの「密原トリカシリーズ」が本になったりと嬉しいサプライズが色々とありましたね。
 それから、八杉さんの短編が、韓国のSF誌「未来鏡」に掲載されたのは、結構大きな成果ではないかと。年刊SF傑作選以外で、しかも海外に作品が売れた例になったわけですから。海外にもアピールできる、というのは大きいですよね。
 ただ自分に関して言えば、反省することばかりです(汗)。もっと出来たはずでした。とにかく色んなことがあって、裏方はしっちゃかめっちゃかで(汗)、私程度の力では現状維持だけで精一杯でした。己の力不足を痛感しております。ただ、日本SF作家クラブも任意団体から一般社団法人になって、ようやく少しずつ落ち着いてきたんじゃないでしょうか。今回、ご縁があってpixivFANBOXをやらせていただくことになったんですけど、これも法人だからこそできるわけで、任意団体のままなら無理でした。なにしろ銀行口座も持てませんので(汗)。色々な方々の努力で、日本SF作家クラブも少しずつ変わってきております。
 SF Prologue Waveも今回の引っ越し&リニューアルを機に、今までの「日本SF作家クラブ公認」という中途半端な立場から、「日本SF作家クラブ公式」という正式な立場に格上げされることになりました! やっとですよ八杉さん! 準備期間の頃からすると丸10年以上かかりましたね(泣)。
 pixivFANBOXは個人で設置しているかたが多いようで、サークルなどで開設されている場合でもその人数は数名規模の場合がほとんどのようです。会員が百人以上もいる日本SF作家クラブのような団体が行うのは、凄く珍しいのかもしれません(汗)。これからどうなるのか、まったくの未知数なんですけども、「公式」となったこれからがSF Prologue Waveの本番なんじゃないかとも思っております。

八杉:「未来鏡」に掲載させていただいたのは、ぼくにとっても初めての海外翻訳でしたからとても嬉しかったですね。ちなみに載ったのは「ブライアン」と「幽霊」と「追想」です。なぜか「幽霊」にたくさん脚注がついたのが面白かった。
 SF Prologue Waveの編集長としては、ぼくは最初の立ち上げと、そのあと二年ぐらいでダウンしてしまいましたからね……本当にお疲れさまでした。
 公式になれたのはおっしゃるように日本SF作家クラブ自身が変わったのが大きいですよね。これからもきっと嬉しいサプライズがあると思いますよ。いい方向に進んでいくことを祈っております。
 pixivFANBOXに移転してからの展望というか、やりたいことなどありますか。希望も含めてあれば教えてください。

片理:pixivFANBOXに移転してからの展望ですが、今回の件は急にあったお話でして、pixivFANBOXのことを知っている人がそもそもSF Prologue Wave編集部にはいなくて、慌てて色々と調べたりして、ちょっとあたふたしておりました(汗)。ですので対応するだけで精一杯で、明確な「展望」とかはまだ描けていないのが正直なところです。でも、時代はまた変わったんだなぁ、と感心しております。デジタル化の先には無限のバリエーションがある。FANBOXのようなサービスもまた、その未来の中の一つなわけですが、クリエイターに対する敬意を伴った、とても興味深い変化が現れたなと思っています。
 その一方で出版を巡る状況には相変わらず厳しいものがありますが、しかしどんな状況だろうと、クリエイターは己の存在価値や存在理由を世に問い続けなくてはならないわけで、SF Prologue Waveがその舞台としての役目をこれからも果たしていけたらと願ってます。
 その上で、そこに何か新しい潮流のようなものが生み出せたら最高ですね。
 例えば、SF Prologue Waveで人気が出たら、作家は自分個人のFANBOXを始めたっていいわけです。自分のFANBOXとBoothを使えば、同人誌も売れます。アマゾンのKDPで電子書籍を作って、それのPRや解説なんかの四方山話をFANBOXでしてみるのも面白いかもしれません。新しい使い方や未知の相互作用が、まだまだあるはずです。個人的には、とても楽しみです!

(完)

次回に「蔵出しインタビュー」として、今まで公開されていなかった八杉SF Prologue Wave初代編集長のインタビュー(2010年8月実施)を掲載します。