
《3行(句点三つ)また4行(句点四つ)に圧縮したショートショート作品》◇8◇「絵のない3コマ4コマ本」
『安全確保』
指差した壁には「バーテンダーは安全をいつも確保しています」と小さな張り紙があった。
「物騒な世の中だから、いつも拳銃をかまえているってことなのか?」とわたしは凄んで見せた。
バーテンダーは静かに小皿の上に安全ピンをのせた。
「あなたのズボンのチャックが壊れているようですから」
『吸取神』
この神社の「吸取神」が密かに売れています。
この吸着シートを掃除用のコロコロするやつにつけるだけでいいんですか。
いったい何が取れるんですか?
あなたの家では主に貧乏神ですかね。
『改札機』
あそこの駅の自動改札機が話題だ。
間違ったきっぷを入れたり、チャージされていない非接触カードをかざしたら容赦がない。
真っ二つ。
胴斬り水平スライド型ギロチンになっているのは、やりすぎ。
『増設』
この住宅は細胞分裂して、どんどん部屋数が増えていきます。
独身から結婚し、子供が増え、その子がさらに子どもを産むようになってもその人生の節目、節目で部屋数が増えていきます。
おかんがお棺にはいられたときですか、もちろん対応しています。
お墓参りがとても便利になります。
『モデルハウス』
ええ、たいていの損壊は住宅自身が修繕します。
いわば、自然治癒する人間の肉体そっくりの優れものです。
でも、住宅の方が居住者を人体に入ってきた異物ととらえることもしばしばで、こうやって表玄関からすぐ廊下を通り抜け、裏口に押し出されることもままあります。
本日はわざわざモデルハウスにお越しいただきましたが申し訳ありません。
『懇願されて』
博士はエイリアンが見える特殊な眼鏡を発明した。
掛けてみるとそこら中にエイリアンがうようよいることがわかったらしい。
それに気づいたエイリアンが、「せっかく知られずに平和に地球人と共存しているのに、その発明品はボツにしてくださいよ」と懇願してきた。
博士は「そんなわけだから、この発明品を公表していないのだよ」と笑って教えてくれた。
『エレベーター島』
深海にいる人魚もたまには海上で陽に当たりたくなるときがある。
そんなときには浮いたり沈んだりを繰り返しているエレベーター島をよく使う。
人魚は水深が浅くなると人間に近づき、深くなると魚そっくりになるので、おおよその深度がそれでわかる。
『一日子ども券』
テーマパークの券売機には「おとな、子ども、一日だけ子ども」とあった。
係の人に「この左端のボタンの一日だけ子ども券という対象者は何歳くらいなんですか?」と尋ねてみた。
「誰でも買えますが、一日子ども券を選んだ方にはこの小学生用の服装に着替えてもらっています、黄色い帽子も被っていただいて」と答えが返ってきた。
それにした。
『思い出美化ウイルス』
人間が死んだ後、活動を始めるウイルスというのがあると聞きました。
人間、死んだ後はいいように言われたいものですね。
ですから、亡くなるとすぐそのウイルスが拡散して働き、周囲の人たちに「思い出美化ウイルス」を次々と感染させていくという話です。
だから、故人をしのぶ話は美しいものばかりになるのです。
『宇宙エレベーターの応用編はどこが間違っているだろうか』
「宇宙エレベーター」の実用化研究が始まっているようですが、エレベーターを使って宇宙に出られるのなら、安上がりで簡便ですね。
ではいっそのこと、エレベーターの外側も長い筒状のロケットにして、それも飛ばすようにしたらどうでしょうか。
中のかごのスピードと外側の長い筒ロケットのスピードが足し合わされて限りなく光速に近づくのではないか、それをいくつも軌道上に配備しておき潜り抜けると、すぐ火星に到着する。
この仕組みを使って流しそうめんを一気に地球から火星に流してみたいなと妄想が暴走します。