「美食家」立原透耶

(PDFバージョン:bishokuka_tatiharatouya
 腹が減ったので指をかじってみた。
 意外にも美味かった。
 さらに腹が減ったので、腕をかじってみた。
 食べ応えがあった。
 ますます飢えが抑えきれなくなったので、足をかじった。
 筋張っていた。
 いよいよたまらなくなって、柔らかい腹をかじった。
 湯気を立てる臓物を引きずり出し、くちゃくちゃ音を立てて咀嚼した。
 とろけるほどに甘く、豊かな香りが脳髄をしびれさせた。
 頭をかじろうとして気がついた。
 自分で自分の頭を食うことはできぬ。
 仕方がないので、頭だけになって、外に転がり出た。
 ごろりごろりと転がりながら、滋味溢れる人間を探す。
 ごとりごとり。

 やあ、君は本当に美味そうだねえ。

 食ったはいいが、腹がないので肉も臓物もすべて落ちていく。闇に消えていく。
 ああ、困った。
 これではずっと腹が減りっぱなしだ。
 食い続けねば。
 永遠に。

立原透耶プロフィール


立原透耶(監修)
『三体』