(PDFバージョン:mennsetusikenn_tatiharatouya)
しかめっ面をした顔、顔、顔。
緊張して僕は膝の上に置いている手をぎゅっと握りしめた。
「簡単な質問だ」
と中央のメガネが言った。
「君は……を殺したことがあるかい?」
緊張しすぎて、質問の一部分を聞き損ねた。だけど聞き返したら間抜け決定、即座に落とされてしまうだろう。僕はどうしたってこの仕事がほしかった。
ええい、直感で答えるしかない。
「あります。例えば蟻。小さい時、足で踏んづけたり、水を流したりしてたくさん殺しました。蟻に対して僕は全知全能の神であるかのように感じ、興奮しました」
……反応が鈍い。答えを間違ったのかもしれない。
慌てて、僕は付け足した。
「子持ちのやつを殺したこともあります。メスのお腹の大きいカマキリでした。腹の中がどうなっているのか知りたくて、カッターナイフで切り裂いたら、小さな奴らがうじゃうじゃ出てきて……」
だめだ、ますます反応が悪くなった。
「あ、もっと大きいのも。近所で子供に噛み付く野良犬がいたんで、火をつけていきながら焼き殺しました。いやあ、あの時の炎の美しさときたら」
しまった、我を忘れてうっとりしてしまった。
面接官たちが顔を突き合わせ、小声で何か話し合っている。
まずい、まずいぞ。ここで落とされたら、また無職が続く。
僕は大きな声を出した。
「それに、吸血鬼を倒したこともあるんです。ほら、太陽の光で……その、あの……」
おかえりください、と丁寧に追い出された。
どうも面接というのは苦手だ。
実技があるのはたいてい面接の後で、だからどうしたって僕のこだわり抜いた、芸術的な腕前を披露するまでには至らない。
なんて理不尽な世の中なんだ。
僕は腹立ち紛れに、駅のゴミ箱を蹴った。
狩人を募集していた。僕ほど適任はいないはずだ。それなのに。
今日はもう暴れるしかない。ウサ晴らしに何匹か狩るとしよう。
夢の中で人を殺して回る爪の長いあいつ。フレディだっけ。
あいつをバラバラに引き裂いてやろう。
先月はジグ・ソウとかいう親父を罠に仕掛けて苦悶の末に死ぬように仕向けた。
僕ほど素晴らしい逸材を逃すなんて、バカな会社だ。
悪人を殺す。
罪にはならないし、人には感謝される。ストレス発散にもなる。
なのに報酬を得られないだなんて。馬鹿げた世の中だ。
歩く僕の背後で、複数の黒服が動いた。
どうやら面接は、狩人を募集していたのではなく、獲物を探すためだったらしい。
僕はうってつけの獲物ってわけか。
さあ、来るがいい。
ジャックに怖いものなんてない。
立原透耶既刊
『ささやき (立原透耶著作集 5)』