「円筒の空/ゼナの子供たち」伊野隆之

(PDFバージョン:zenanokodomotati_inotakayuki
 朝を感じる順番はいつも決まっている。最初は遠くから伝わる振動で、次は光だ。光は牧草を目覚めさせ、空気の匂いが変わる。
 羊たちのやかましい声に重なり、羊を追う私の兄弟、姉妹、年かさの子供たちの声が聞こえてくる。
 私は、柔らかくて清潔な藁のベッドの上で身じろぎをし、私の中から聞こえてくる小さな鼓動に耳をそばだてる。
 せわしなく小さな鼓動は、それでいて力強い。私の体内に宿る新しい生命の鼓動だ。
 わずかにずれて聞こえる二つの生命の鼓動。おなかにいる私の子供は二頭だけで、同じ腹の兄弟、姉妹が少ない。同じ母親の乳を吸い、寄り添って暖めあうには少な過ぎる。それを思うと、私は不安になる。子供には、いつだって多くの遊び相手が必要なのに。
「調子はどうだい、ゼナ?」
 鉄臭い扉が開き、作業服を着たカズユキがやってくる。羊と私の兄弟たちと薬品の匂いに隠された愛情の匂いには、わずかな不安の匂いが同居している。私の子供たち、半年前に生まれるはずだった子供たちは死んでしまった。カズユキもそのことを覚えているのだ。
 カズユキの手が私の背中をなでる。私は彼の肩に鼻先を押し当て、子供たちは元気だと伝える。
 私の子供たち。私が眠っている間に、私の中に置かれた子供たちだ。私は誰が父親か知らないし、関心もない。カズユキか、他の誰かが父親を撰んだのだ。
 カズユキの手が、そっと私のおなかに触れる。私のおなかは、もう目立って大きい。カズユキの手は、私が聞く子供たちの鼓動を聞いている。
「子供たちは元気なようだね」
 カズユキから伝わる安心の匂いは、私の心も落ち着かせてくれる。
 新しい命がもうすぐ生まれる。

 計画を聞いたのは、ちょうど一年前だった。羊毛の市況は回復の兆しがなく、会社のバイオ技術を活用した新事業の立ち上げが課題になっていた。
 そのための実験の実施は、すでに決定事項で、現場職員に過ぎない僕には反対できないし、反対する理由もなかった。僕が管理している牧羊犬たちは改変された犬たちだったし、それを言えば、羊だって同じだ。見かけは牛ほどに大きくなり、毛は細くて長い。毛が伸びる速度も速く、生産性は原種であるメリノ種の羊を圧倒している。
「順調そうじゃないか」
 超音波スキャンの画像が表示されたディスプレイを、ボスのイソザキさんがのぞき込む。
「今回はうまく行きそうです」
 ディスプレイにはゼナの胎児が映っている。妊娠八十日を越えたゼナの子供たちは、すでに猫ほどの大きさにまで育っており、しっかりした頭部には小さな歯が見えていたし、心配された前肢の成長の様子も確認できた。
「オークランドが何を考えてるのかわからんが、社運のかかったプロジェクトだそうだ。元気な仔が産まれると良いがな」
 本社のことをオークランドと呼ぶのは長年の習慣でしかない。ニュージーランドの羊の数が住民より多かったのは、すでに過去の事になっており、羊毛の生産拠点は、より生産性の高いコロニー群に移動して久しい。本社をニュージーランドに置いておく理由はなくなっていた。
「今回は大丈夫だと思いますよ」
 ゼナの妊娠は今回が初めてではない。前回の実験では、ゼナは四頭の子供を流産していた。
「こんなことはやらせないで欲しいんだがな」
 イソザキさんはこのカンタベリーⅢの責任者だった。元々は園芸が専門で、動物を扱った経験はほとんどないらしい。全長六〇キロ、直径十二キロのシリンダー型スペースコロニーの基盤になっているのがコロニーの内面を覆う広大な牧草地だったから、カンタベリーⅢの管理者にはふさわしいのだが、犬を使う今回の実験は、専門外という感覚なのだろう。
「Ⅵは断ったんですよね」
 改変された羊たちを管理するために、最初に牧羊犬を導入したのがカンタベリーⅥだった。カンタベリーⅥは、地球産のボーダーコリーを遺伝的に改変し、低重力環境に適した大型の牧羊犬を作った。カンタベリーバラエティと呼ばれるその牧羊犬を他の牧場に供給しているカンタベリーⅥなら、問題なく今回の実験も実施できそうだったが、ゼナの胎児に加えられた改変は、サイズを変えるような単純なものではない。
「人も設備も足りないってことらしい」
 人手が足りないのは、どこも同じだった。ただ、カンタベリーⅢは羊の品種改良のための設備が充実している。マイクロマニュピレイターや胎児診断用の高解像度超音波スキャン、X線CT装置もここにしかなく、それが実験場所として撰ばれた理由だった。
「犬の専門家を派遣してくれればいいのに」
 ゼナの卵子の採取と改変は、僕自身が行った。卵子のDNAをオークランドの指示に従って編集し、半数体の卵子を二つ使って受精卵に相当する細胞を作る。羊と犬とでは若干勝手が違うとは言え、経験がないことではなかったから、実際の作業としてはそんなに大変だったわけではない。
「ここではおまえが専門家だよ」
 僕の専門は、あくまで羊だった。同じほ乳類でも犬を扱った経験はない。
「犬は初めてです」
 地球上での他の犬種を対象にした予備的な実験は成功している。その経験を元に、空気の密度が高く、重力の小さいカンタベリーⅢで実証実験をしようというのだ。実際、新たに挿入すべきDNA断片のシーケンスを含め、ゲノム編集の内容は全て地上で決められたものだった。
「羊の経験があれば十分だよ。それに、オークランドでもデータは見ている」
 ディスプレイの画像が、超音波スキャンから現在の産室の様子に切り替わる。原種のボーダーコリーから引き継いだ典型的な白黒の被毛のゼナは、低重力環境に適応した長い脚を折り畳み、藁を敷き詰めたベッド上で横になっていた。
「今は落ち着いてますね。体温も平熱です」
 出産が近づくと母犬の体温は低下する。それは改変された犬でも同じだ。
「新しい餌はちゃんと食べてるか?」
 妊娠後期に入り、餌は高蛋白、高カルシウムのものに変えている。
「ええ、骨形成を含めて胎児の成長も順調です」
 カンタベリーⅢの自転は遅く、牧草地の広がる標準基底面での重力は地球の六十五%だった。大型化した動物には適した生育条件だったが、一方で副作用もある。胎児期の骨形成の遅れはその一つだった。
「減胎は正解だったな」
 イソザキが言ったのは、着床によって形成された胚を間引く作業のことだ。今回は、オークランドの指示で減胎処置をしている。
「そうですね。今までの経過を見る限り、減胎して良かったようです」
 ゼナの身体に戻した細胞のうち、八つが着床して成長を始めたが、五週目に、母胎の負担軽減と胎児間の栄養面での競合を避けるため、そのうちの六つを間引いてあった。
「出産はいつ頃になる?」
 原種の犬の妊娠期間は九週程度だったが、カンタベリーバラエティの妊娠期間は大型化の影響もあって十二週程度に延びている。それに今回の改変が妊娠期間に与える影響は未知数だった。
「たぶん、来週になると思います」
 出産が遅れて胎児が大きくなり過ぎるのは母体にとって危険がある一方で、出産が早いと骨格の形成が不十分になる心配があった。
「薬は使うのか?」
 イソザキさんの言う薬は、羊たちに使うための陣痛促進剤のことだ。ゼナに使うかどうかは胎児の状態を見た上での判断することになる。けれど、使わずにすむものなら、使いたくはない。陣痛促進剤を使う判断が僕だけに委ねられている訳ではないのはありがたかったが、実際にゼナに触れてもいない誰かに指示をされるのも癪だった。
「きっと大丈夫ですよ。犬は安産ですから」
 そう応えてはみたものの、希望的観測でしかない。ゼナのおなかの中には犬とは違う生き物がいる。だからこそゼナには、なるべく自然な形で赤ん坊を生んで欲しい。

 おなかの中で赤ん坊が動いた。
 身体の奥深くで痛みが生まれ、波紋が広がるように、私を満たす。私は、この痛みを知っている。今までもこの痛みに耐えてきたし、痛みの先には大きな喜びがあることも知っている。
 私はおなかの子供たちを思う。子供たちが生まれたら、一緒に牧草地に出て、羊を追う。私の子供たちなら、良い牧羊犬になるだろう。ガズユキも誇りに思うはずだ。
 カズユキはおなかの子供たちのことをいつも以上に気にしている。前の子供が死んでしまったからだろうか。
 ヒトは羊ほど単純ではないけれど、わかりやすい生き物だ。いつだって自分の感情の匂いを垂れ流している。
 カズユキは、私と子供たちのことを気にかけているし、私はカズユキに喜んでもらいたい。

 カンタベリーⅢは月に六〇度先行するラグランジュポイントにあるスペースコロニー群の一つだった。コロニー群が建設された当初は、地球からの大規模な移住を想定していたものの、現実は違った。毎年のように大量に発生する環境難民ですら、地表の都市を離れようとしない。結果として多くのスペースコロニーが放置されることになり、維持管理費用の削減のために建設費用を大幅に下回る額で民間に払い下げられた。
 スペースコロニーを購入した事業者の一つが、当時、ニュージーランドのオークランドに本社を置いていた僕の会社で、二千万人の入植者のためのスペースが、遺伝子操作によって改変された羊たちのための牧場になった。
 農業資本が宇宙に進出するのは必然だった。大規模な単一品種のプランテーションは、地球の生態系を人類以前の状態に回復しようという地球聖域化運動の攻撃の的になっていたし、牧場も同様に生態系をゆがめるものとして非難されていた。生産性を向上させるためのバイオエンジニアリングも、改変された生物の環境中への拡散に対する懸念が指摘されていた。
 一方で、生産拠点を宇宙に移せば過激なエコテロリストによる攻撃を受けることはない。宇宙空間自体が完璧な物理的封じ込めになるから、地球の生態系に影響を及ぼすこともない。つまり、スペースコロニーが家畜たちの遺伝子操作の実験場になったのは必然だった。
 モニターに映る産室の様子を眺めながら、僕はそんなことを考えていた。人類は、技術的に可能だとわかったことは、ほぼ例外なく実現している。人体の改変にはまだ強い抵抗があるものの、家畜の改変にはさしたる抵抗もない。もともと育種と称して遺伝的性質に改変を加えているし、結果として家畜と家畜の原種との間には大きな違いが生じている。犬はその最たるもので、原種の狼から多くの品種が作られている。犬の個体数は狼の個体数を遙かにしのいでいるから、犬は改変されたことで繁栄したとも言えるかも知れない。
 すでに夜半を過ぎていた。ゼナの体温は平熱から下がっており、いつ出産が始まってもおかしくなかった。
 闇の中で身じろぎをするゼナ。犬の中でも最も賢いとされるボーダーコリーを改変したカンタベリーバラエティは賢い。その中でもゼナは良い犬だった。賢いだけでなく、性格が優しく、母親としても優秀だった。
 実験の素材としてゼナを撰んだのは僕だった。これからゼナは、自分とは全く違う赤ん坊と対面することになる。
 犬は、自分が生んだ奇形の仔を殺すことがある。ゼナにはそんなことをして欲しくなかったし、赤ん坊を失うわけにはかない。赤ん坊の危険を避けるために必要なら、ゼナから赤ん坊を取り上げなければならない。
 照明を落とした産室の中で、ゼナが立ち上がった。両足を踏ん張り、いきむ。モニター越しに聞くゼナの息づかいが荒い。僕は、慌てて産室に向かった。

 藁のベッドの上で体を起こす。両足を踏ん張り、おなかに力を入れる。息を詰め、息を吐く。おなかの奥から波打つような痛みが広がる。
 突然に破水する。両腿の内側を熱い液体が流れ落ち、足下の藁を濡らす。
 私のおなかにいるのは大きな赤ん坊だ。その赤ん坊が、今、身体を引き裂くような痛みとともに、外に出てこようとしている。
 つるりとした羊膜に包まれたものが、足の間に落ちる。一つ、さらにもう一つ。羊膜をむしり取り、へその緒を噛み切る。それは、本能に組み込まれた一連の動作だ。赤ん坊の顔がのぞき、私は鼻先を舐めてやる。せき込むように息をした赤ん坊を横に押しやり、もう一つの羊膜に包まれた固まりに取りかかる。
 私は藁の上に横たわる羊水にまみれた小さな生き物を舐める。私の鼻を満たす匂いは私と同じ。私の赤ん坊の匂いだ。
 小さな鳴き声が私をせかす。後産の処理を終えた私は藁の上に横たわる。乳首に吸いつく私のかわいい子供たち。
 私は幸福だった。
 でも。
 でも、何かがおかしかった。匂いは健康な赤ん坊の匂いなのに、子供たちの前肢が違った。付き方が違うし、動きも違う。指は妙に長く、細い。指の間は膜になっている。赤ん坊の姿を見た私は途方に暮れた。私の乳首から乳を飲んでいるこの生き物は何なのか、私は思わず立ち上がる。
 産室の扉が開き、あわてた様子でカズユキが入ってくる。カズユキは私の首を抱き、優しく私の背をなでる。カズユキに促され、私は藁のベッドの上に体を横たえる。
 藁の上に腰を下ろしたカズユキの一方の手が赤ん坊に触れていた。その手は奇妙な前肢の赤ん坊を撫でている。
 私はカズユキに尋ねたい。この生き物はなに?
 私にカズユキの思い/匂いが伝わる。安堵と誇り、私と赤ん坊に向けられた愛情。二頭の赤ん坊は私の乳房を求めて小さく鳴いた。私は赤ん坊に応えたい。
 それでも私は混乱している。

 僕は、突然立ち上がったゼナと子供たちの間に割って入る。ゼナの首を抱き、ゼナを落ち着かせる。
 ゼナは驚いていた。ゼナは自分とは違う姿の子供たちに気づいてしまった。
 ゼナは混乱しているだろう。二頭の赤ん坊のゲノムはほぼ全てがゼナに由来する。遺伝子の違いは全体から見ればごくわずかで、匂いもほとんど違わないはずだ。それなのに、二頭の赤ん坊の前肢は全く別物に作り替えられている。それはもはや足ではない。
 右手にゼナ、左手に赤ん坊たちがいた。ゼナは足を折り、床の上に横たわる。何かを言いたげに小さく鳴くゼナ。その時、赤ん坊の一頭が僕の左腕にしがみついてきた。
 僕はうれしくなる。走ることに特化し、鎖骨のない犬は、前肢をそんな風には使えない。
 今回の改変で一番難しいポイントが鎖骨の形成だった。犬には鎖骨がないが、同じ食肉目の猫には鎖骨がある。犬は鎖骨を作る遺伝子を持っており、その遺伝子を発現させて鎖骨を形成することで、前肢を前後だけではなく、左右にも動かせるようになる。
「ゼナ、すごいぞ!」
 僕が何を喜んでいるのかわからず、ゼナは、戸惑っているように見えた。

*  *  *

 僕は、大型のカートに乗り、ゼナと子供たちを連れて、牧草を養生中の区画に来ていた。羊たちに踏まれた牧草地は、仔犬が走り回るにはいい場所だった。
 僕の横にはイソザキさんもいる。子供たちを初めて外に出すのだ。立ち会いたいと思うのも当然だろう。
「ゼナ、行くんだ」
 ケージを飛び出したゼナが、牧草地を軽やかに走る。子供たちはケージの中で戸惑っているようだったが、ゼナが一声ほえるとおそるおそる外に出た。二頭の子供たちは、ゼナと同じ白黒の被毛で、模様もそっくりだった。
 子供たちに駆け寄るゼナ。まるで、走り方を教えるように、二頭の子供たちの周囲をギャロップで回った。その様子を見て、僕はゼナに申し訳なく思う。子供たちはゼナと同じように走り回ることができない。
「走るのは下手そうだな」
 イソザキさんが言った。子供たちは下半身に比べて発達した上半身をうまくコントロールできずにいた。
「そういうつくりにはなってませんから」
 ゼナの子供たちは、頭から首と下半身は犬らしい外見をしている一方で、胸から肩、前足の構造が犬とは違っていた。上半身の筋肉が大きく発達し、力強い肩と胸の筋肉が前足を支えている、その前足の先端部、ヒトであれば手に当たる部分は、指骨が長く伸び、肘から肩に向かって折り畳まれていた。
「で、どうやって飛び方を教えるつもりなんだ?」
 イソザキさんの質問に、僕は思わずため息をついた。
「何から何まで丸投げなんですね」
 責任者なら知っているべきことだった。
「俺は動物は専門じゃない。それに、できる奴に任せるのが俺のやり方だ」
「それを丸投げ、って言うんですよ」
 妊娠中のゼナの世話をしながら、オークランドと協力して準備していた物がゼナたちのケージの横に積んであった。
「いや、そんなつもりはないんだが」
 骨格はプラスチックで、動力は電気。ボディは、ゼナと子供たちが馴染みやすいように、羊とゼナの毛で作られている。
「これで教えます」
 僕はそれを起動する。

 私はカズユキの方を見ていた。カズユキは、カートの荷物のところにいる。
 私はその荷物を知っている。鉄とプラスチック、羊とカズユキと私の匂いが混ざり合った匂いがする。カズユキが触れると、それは生き物のように動き、四本の足でカートから降りた。
 不器用に草の上を歩くそれは、私の子供たちに似ている。
「まあ、見ていてください」
 カズユキがカートから降りたそれの背をなでる。
「飛べるのか?」
 カズユキと一緒にいるヒトが言った。
「そのために作りました」
 子供たちが近づこうとするのを止めようとしたところへ、カズユキが割って入ってきた。
「大丈夫だ、ゼナ」
 それが前肢を宙に浮かせたかと思うと、左右に大きく開いた。長く、間に膜の張った指を広げると、私の子供たちがまねをする。
「さあ、お手本を見せるんだ」
 カズユキの言葉に、それは指を畳み、前肢を折って、地面に体を沈める。
 次の瞬間だった。大地を蹴って飛び上がったそれは、差し渡しが二メートルを超える大きな翼を広げて宙を舞った。
 カズユキも、もう一人のヒトも、子供たちもそれを見ていた。力強く羽ばたいたそれは、より高いところへと飛んでいく。
 その時、私の子供たちの奇妙な前肢が何のためにあるのか、私はやっと理解した。子供たちは空を飛ぶのだ。

「こんなものが商売になるのか?」
 イソザキさんがそう言った。
「ここをテーマパークにしたいようです。羊と犬と、それから空を飛ぶ犬と触れ合える唯一の場所です」 
 形は違っても、ゼナの子供たちは一万五千年もの間ヒトと暮らしてきた犬だ。空飛ぶ犬とヒトは、この円筒の空の下で、きっとうまくやっていける。翼を広げ、羽ばたくそぶりをする二頭の小さな生き物を見て、僕は、そう確信していた。

完 

伊野隆之プロフィール


伊野隆之既刊
『蒼い月の眠り猫』