(紹介文PDFバージョン:hakononakanoxshoukai_okawadaakira)
〈山野浩一未収録小説集〉の第四回目は、「月刊タウン」(アサヒ芸能社)の創刊号(一九六七年一月)に発表された「箱の中のX」です。
写真をふんだんに設えた男性向けの情報誌で、「プレイボーイ」のようなアダルトな記事もあれば、ヴェトナム戦争の模様などもレポートされています。
ここに掲載されたショートショートが、「箱の中のX」でした。二回目からは 「四百字のX」シリーズと銘打ち、「X塔」(二号、一九六七年二月)、「同窓会X」(三号、一九六七年三月)といった連載になっています。
やはり目を惹くのは、手書きの見開きというレイアウトになっていることでしょう。
原稿用紙一枚で何ができるか。
興味深い挑戦で、こうした縛りでコンテストをやってみても面白いかもしれません。
なお、コピーの際に中央の綴じ部分が読めなくなっているので、私が欄外に当該箇所を鉛筆で添えたものです。
続報ですが、「数学SF 夢は全くひらかない」の初出が判明しました。川又千秋さんのニューウェーヴSF誌「N」の十一号(一九七一年四月頃、奥付がないので推定)でありました。
もとは「プラネトイド」という名前でしたが、七号から「N」に改名し、十一号は「N」になってから五冊目。
同じ号に大和田始さんの批評「造反無理・革命有罪」が掲載されています。
なお、これにはちょっとしたこぼれ話がありまして……。
岡和田が、まさにこの「造反無理・革命有罪」を調べている際、偶然、存在を知った原稿なのですね。それでコピーを山野浩一さんに送ったので、山野さんの遺品から出てくることになったわけですが、私はすっかりお渡ししたことを忘れてしまっておりました。でも、山野さんはちゃんと持っていてくださったのです。
今になって、ようやく当時の様子が思い出されました。山野さんも、「数学SF 夢は全くひらかない」を書いた時期のことは、忘却の彼方にあったようでした。
あまりにたくさんの資料を整理していたがためですが、お恥ずかしい限りです。
ご協力いただいた、佐藤正明さん、林芳隆さん、三浦祐嗣さん、本間邦博さん、安田圭一さん、巽孝之さんに改めて感謝します。(岡和田晃)
(PDFバージョン:hakononakanox_yamanokouiti)
Kは会社にいる時も家へ帰ってからも、便所に入る時すら手放さない小さな箱を持っている。箱の中を誰にも見せず、尋ねると「Xが入っている」というのである。秘密にされるとよけい知りたくなるもので、会社の慰安旅行の時、同僚のMが眠っているKの枕元に忍び込んで箱の中を覗いてきた。ぼくはMに何が入っていたのかを聞いたが、彼も「Xだ」というのだ。いや、Mだけではない。よく注意してみるとラッシュの電車の中でも競馬のスタンドにも、小さな箱を大事そうに持っている人間はかなりいる。しかもぼくにはどうしても中身を見る機会が訪れなかった。いつか会社の中でも箱を持つ者がふえて、ぼくだけがとり残されていくように思える。遂にぼくはたまりかねて一番力の弱そうな男から無理に箱を奪い取り、そのまま便所の中に逃げ込んで中から鍵をかけた。そして、そっと箱を開いてみた。
――中には、Xが入っていた。
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