(PDFバージョン:pakisutannni_fukudakazuyo)
小説の取材で、短期間ですがパキスタンに行ってきました。
昨今パキスタンと言えば、真っ先に思い出すのはパキスタン・タリバン運動(TTP)かもしれません。例の、イスラム系のテロ組織であります。アルカイダのトップだったビン・ラディン氏がパキスタンの隠れ家にいるところを米国の特殊部隊が急襲したとか、今でも米国の無人機がタリバンを攻撃しているとか、間違って一般市民まで攻撃してしまって、非難にさらされているとか、最近日本の新聞にパキスタンが載るといえば、そんな話題です。女子の就学について世界に訴えたためにタリバンに撃たれた少女、マララ・ユスフザイさんも強く印象に残っていますよね。外務省の海外安全ホームページでは、アフガニスタンとの国境付近一帯やカシミール地方などはほぼ「退避勧告」となっておりますし、もっとも安全とされるイスラマバードなどの首都圏でさえ、「渡航の是非を検討してください」となっております(2014年2月6日現在)。
私が旅行したのは1月21日から25日まで、ラホールから首都イスラマバード、基地の街ラワルピンディと回りまして、世界遺産のロータス・フォート(城)やタキシラ遺跡にも行きました。ある旅行会社のツアーに申し込んだのですが、現地に着いたらツアー客は私ひとりで、日本語ぺらぺらの現地ガイドさんと運転手さんと車を独占状態だったという、ある意味とても贅沢なツアー旅行(?)となりました。パキスタンで二番目に発展していると言われるラホールに私が着いたのが21日の夜なんですが、20日にもラワルピンディの基地近くで爆弾テロがあったようです。21日には、イランからパキスタンに戻るシーア派の巡礼バスが爆弾テロに遭いました。どちらも多数の死者が出ております。22日の現地の新聞には、「タリバンが次の目標をラホールに設定した」という記事が大きく載っておりまして、おいおい、ラホールに着いたばっかりの私を脅す気か!と思いましたよ。
で、そういう硝煙くさいイメージのあるパキスタンなんですが。
これがですね、実際に行ってみると、なんとも味のある楽しい国でございまして。
なにしろ人懐こい人が多いのです。外国人の、特に女性はまだ珍しいということもあるのでしょう。私がガイドさんと観光地を歩いていると、パキスタンの地方から観光に来ている若者たちが、わらわらと寄ってきて一緒に写真を撮ってもいいかと何組もせがまれました。OKすると、何の集まりかと思うほどいろんな人が写真に入ってきて、もう、小学校の集合写真かっての。ラホール・フォート(城)でその集団と分かれて、次の公園に行ったら、また同じ集団にばったり出会って、嬉しそうに手を振ってくれたりするわけですよ。いやはや、なんと陽気な人たちでしょう。
パキスタンに発つ前に、現地で長く仕事をしていた日本人の著作などを、下調べとして複数、読んで行ったのです。いろいろ書いてありましたね……パキスタン人はムスリム(イスラム教徒)で、男性は女性に対する免疫がないので、笑いかけただけで「この女は自分に気がある」と思われるから、決して笑うな!とか(それはちょっと、言い過ぎじゃないかと思いました(笑))。日本なら若い女性が普通に着ているような、ミニスカートやタンクトップなど素肌が露出する服装も厳禁、とか。たしかに、街角で見かける女性の服装って、こんな感じです。素肌も見せませんが、髪を上手に隠していますよね。都市部にあたるラホールで撮影したものなので、色合いなど垢抜けてお洒落な感じがします。
そして、ラホールという都市ですら、馬車、ロバ、牛車などなど、まだ現役バリバリで働いています! 車の窓から外を見ていたら、隣を普通に馬車が走っていくなんて、楽しくないですか? この調子で、のんびり道路を歩いていく水牛や山羊もいましたよ。余談ですが、インドに旅行した人の話を伺うと、インドでは象が普通に街を歩いているそうですが、パキスタンで象は見かけませんでしたねえ。(お城に象が歩いた道はあるのですが)
世界遺産のロータス・フォートというのは、16世紀に建設された、周囲が4キロメートルにわたる巨大な城塞なんですが、長らく放置された期間に、内部に人が住みついて村ができちゃってます。村の人たちが山羊や水牛を飼っておりまして、家畜が草をはみ、観光客を尻目にのしのしと歩いております、世界遺産なのに!(笑)しかし、この風景もまたのどかで良いではないですか。
ロータス・フォート
ロータス・フォートの山羊
今回は行けませんでしたが、パキスタンにはモヘンジョ・ダロやハラッパなどの遺跡もあり、「桃源郷」「長寿の里」として名高いフンザや、K2、ナンガパルバットのように、山に登らない私でも名前だけは知っているような山もあります。
地域の情勢が落ち着いて、テロの脅威に怯える必要もなく、誰でも安心して観光できる国になることを、心から祈る次第です。私はなんとか、フンザに行ってみたいしね!
福田和代既刊
『バベル』