
よく覚えちゃいないがヘンな夢を見てね。女房をコピー機にかけている夢なんだ。で、夢の中でドアが開いたから、急にもよおしてきて、パチンと目が覚めた。
そうしたら、ベッドの傍らもそうだけれど、女房がね、床に何人もごろごろ寝ていた。ギョッとした。だから目を何度も擦り上げたんだが、おかしな現実はいっこうに消えてくれない。僕は「ギャーッ」と叫び声をあげたが、何の変化もない。女房の寝姿で、そこら中がびっしり隙間なく埋めつくされていて足の踏み場もなくなっている。
いや、笑いごとじゃない。まあ、笑うだろうけれど。どうなっちゃったんだって思ったけどね。そうそう、トイレは我慢できない。傍らのホンモノと思われる女房を起こさないようにしながら、ベッドから降りた。
わざとそうしようと思ったんじゃないけれど、そのとき、床に寝ていた女房そっくりのものの1体をちょっと踏んづけた。やっちまった。そうしたら、ブヨッと反発してくるじゃないか。ええっ。面白がって強く押し返すと、プチッという音がしてスゥーッと空気が抜ける音がした。
―アハーンー
足もとの女房もどきがひとつ消えた。
たまらんよ。段ボールの中に入れるプチプチをつぶす、あの感じそっくりさ。すぐに2個目にとりかかっていた。トイレまでの道をつけないといけないから。やらなきゃ仕方ないだろう。初めは、そんな理由づけからだったけれど、途中から、もう夢中でそれをつづけている自分に気づいた。止められない、止まらない。
スゥーッと消えるときに出す妻のかすかな叫び声がまたいいんだ。それは1体ずつ違っているから、あっちのはどんな声で消えるのだろう、こっちのは、とずっとプチプチ、プチプチ。イヤーンバカーンとヘラヘラしてくる。
あっと言う間に家の中にびっしり寝ていた妻もどきを消し終わった。これでスッキリさ。残りは、ベッドの傍らの妻だけ。もしかして、これもプチプチなのか? じゃ、どんな意味深な叫び声をあげるんだろう?
興味はわいたさ、そりゃ、正直言ってね。でも、ああ、心配するなって。それはさすがにやらなかったよ。ちゃんと妻を愛しているから。
トイレに行ったのかってか。ああ、それがすっかり忘れちゃっていて、うかつにも。粗相はしていないさ。大丈夫だった。しかしあのとき、トイレに行かなくて本当によかった。もし行っていたら、トイレの中で寝ていた最後の1体を消してしまっていたかも知れないから。
もちろん。今が幸せだから、そんなことを言うわけでね。そうさ、うちの家に女房が2人いる理由はそういうことでね。僕はゴージャスで行き届いた生活を今満足しているところ。
おい、やめろよ、冗談でも爪を立てるなって。どっちが本物か知りたいっていうのは、それは僕も同じなんだから。
