
「FT新聞」で杉本=ヨハネ氏より予告が出ました、『ケン・セント・アンドレによるズィムララのモンスターラリー』について、翻訳者の立場から概要を説明したいと思います。
タイトルの「モンスターラリー」というのは、「モンスター図鑑」と「群雄割拠のモンスターたちが、自由気ままに走り回っている」ということのダブルミーニング。
原文はMonsteraryで、そのまま音訳すれば「モンステラリー」になるでしょうか。Monastery(僧院)やMonarchy(君主制)を思わせますが、日本語で「モンステラリー」や「モンスター僧院」、「モンスター王」などとしても、それはそれでイメージがズレてしまうので、議論の果てに『モンスターラリー』となりました。
こちらは「『猫の女神の冒険』に出かける準備はいいか!?」でご紹介したズィムララという新しい世界を詳細に紹介する資料です。大著のため【ワールド編】【モンスター編】と分冊刊行することになりました。『Cthulhu Crisis #2』所収のシナリオ「猫の女神キット=ラーの幽閉されしピラミッド」がボーナスで付属する予定です。
最初に刊行するのは【ワールド編】、つまりモンスターカタログ以外の部分、ほぼすべてになります。付属のシナリオ「ドウォンの秘密神殿の冒険」と、日本語版のボーナスとして「女神キット=ラーの幽閉されしピラミッド」(「女神キット=ラの秘密のピラミッド」よりタイトル変更)を盛り込み、簡易ルールに呪文リストを加えて、単体でプレイできる内容になります。
この「女神キット=ラーの幽閉されしピラミッド」は、もともと雑誌「Trollszone!」Vol.15に発表された後、コミックとシナリオが連動した『Cthulhu Crisis #2』に採録されたもの。『猫の女神の冒険』に登場する猫神セクメトの幼少時代であるキット=ラと女悪魔テン=メアのモデルとなっているデミ・ザ・デーモネスの物語です。
「ドウォンの秘密神殿の冒険」が、シナリオと舞台設定(セッティング)を兼ねた内容で、ズィムララの宇宙観を示す機能があるのに対して、「女神キット=ラーの幽閉されしピラミッド」はスタンダードなアドベンチャー。併読すれば、ズィムララ世界での冒険のあり方が見えてくるはずです。それと同時に、ズィムララ世界における地獄(の次元界)あり方を解説するものともなっています。
さて、私がこうした分冊の提案を行ったのは、とてつもない分量の原著を日本でどのように紹介していくかという量的な理由のみならず、まずは【ワールド編】としてまとめた内容を咀嚼したほうが、個々のモンスターたちの情報を飲み込みやすいから、というのがあります。
幸い、『モンスター!モンスター!TRPG』は、一つの数値のみでデータを表現するMR(モンスター・レート、マンカインド・レート)を利用したシステムがあるため、【ワールド編】のみを軸にしたシナリオ作成も充分可能です。
まずは【ワールド編】をご支援ください。そうすれば、次の【モンスター編】刊行がいっそうスムーズに進みやすくなると思います。ケンがデザインした奥深いファンタジー世界〈トロールワールド〉や現実世界、各種次元界にも通じるマルチヴァース設定になっていること。巻頭小説「ズィムララへの脱出」ほか、猫神セクメトが優しく語りかけてくれます。
セクメトを奉じる都市セクー=アテムやズィムララ各地の詳細な地図も魅力ですが、是非ご覧いただきたいのは、年表の充実です。ケンは自らの世界のスケールを年表という形で表現するのを、得意としてきた書き手でした。クリエイティヴな想像力の奔流を、どうぞご堪能ください。
『ズィムララのモンスターラリー』は『モンスター!モンスター!TRPG』のサプリメントでありながら、独立した汎用設定資料集として使うことも想定されており、気に入ったルールシステムで運用していただいてもかまいません。ただ、ムーン・クリスタルやカオス・ファクターという、ケンの作品に長年親しんでいたファンですら、新鮮な感興を抱くであろうルールの数々にもご注目ください。7つの月の設定もSFマインドが溢れていて面白いですよ!
ゲームの舞台とするだけではなく、ズィムララは小説の舞台としてもピッタリです。すでに何作もの小説やソロアドベンチャーが書かれていますし、ロード・ダンセイニの作品もイメージ・ソースとして出版し直されています。英語圏と日本、言語や国境をまたぐクリエイターも、現れてきています。皆さんもそこに続きましょう!
『猫の女神の冒険』もそうですし、同じケン・セント・アンドレの『コッロールの恐怖』を訳したときにも感じたことですが、ケンの原文は一見平易なようでありながら、右から左へ機械的に移し替えられる代物ではありません。
半世紀にわたるキャリアを誇るデザイナーが試行錯誤を繰り返してきた世界観やシステムの変遷を押さえて再構成していかなければ、出てくる訳文は支離滅裂で矛盾に満ちたもの、あるいは小うるさい訳注の嵐となってしまいます。
とはいえ、デザイナーに質問するにも、数百箇所の疑問点を(業界最高齢クラスのデザイナーに)そのままぶつけるのでは、単なる嫌がらせです。それゆえ、私は、他の翻訳の仕事とはまったく異なるスタイル・スタンスでケンの作品には取り組んでおり、もっとも遊びやすい環境を提供することを目指しました。
これは強力な雲ヶ谷正運、松田洋平(ふろふき大根)、吉里川べお、輝龍の各氏といった下訳・校閲担当の方々にも支えていただいてのことです。
『ケン・セント・アンドレによるズィムララのモンスターラリー 【ワールド編】』、ご期待ください!
■書誌情報
モンスター!モンスター!TRPGソロアドベンチャー
『ケン・セント・アンドレによるズィムララのモンスターラリー【ワールド編】』
著 ケン・セント・アンドレ
訳 岡和田晃
絵 スティーブ・クロンプトン
https://ftbooks.booth.pm/items/7041688
初出:「FT新聞」No.4538(2025年6月26日)より改稿
